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7日目:劇中劇はいいぞ~おすすめ漫画紹介~

フェネック文章力向上月間
Day7 漫画について

※参照元の漫画を手元に取り寄せるのに時間がかかったため、順番が前後しました。申し訳ありません。


突然だが、私はいわゆる劇中劇が好きだ。

劇中劇とは、「漫画の中に出てくる架空の漫画」など、作品の中に小道具的な立ち位置で存在する作品のことを指す。
これら劇中劇は作品内で良いスパイスとなり、登場人物の心情に影響を与えていくことも多い。また、劇中劇が取り上げられるのは作品内のほんの一部であるためか、作者のこだわりが垣間見える場合もあり、それもまた趣深い。

今回は、特に劇中劇が秀逸だと思う2作品を紹介したい。
(あまり漫画を読まないので少な目ですが……)
これも核心には触れないものの多少のネタバレはあるので、苦手な方は回避していただきたい。


1. 彼氏彼女の事情「鋼の雪」

「鋼の雪」は、主人公である雪野たちが文化祭の出し物として演じた劇である。(第9巻に登場)
友人である小説家の亜弥が、雪野たちに当て書きして作り上げた演劇なのだが、これが普通に舞台で観たいくらいにクオリティが高い。

舞台は、人工知能を搭載したヒト型アンドロイドが普及した未来。アンドロイドを制作した天才科学者であるレン・クロフォードは、最初のアンドロイドであるアンティークとともにある日突然地球から失踪し、誰にも見つからないよう宇宙の片隅で八十年のコールドスリープにつく。
そんな二人の元にやってきたのが、最新型のアンドロイド「ネオモデル」。レンは、ネオモデルに自分が「創造物に劣る創造主」である事実を突きつけられるとともに、忘れがたい過去の傷が疼き、苦悩することとなる。一方、ネオモデルは自身には「モノ」以上の愛情を与えられたことがないことに悩んでいた。
レンとネオモデルの苦悩が交錯し、同時に彼らの葛藤に観客であるもう一人の主人公・総一郎(雪野の彼氏)も揺さぶられていく。

もう一人の主人公である総一郎は被虐待児であり、さらに出自が名家の異端児であったことから、養父母のために家でも外でも優等生の仮面を被っていた。人知れず心に孤独を抱えていた彼に、以下の台詞が刺さっていく。

完璧だからといって
ひとの愛を得られるわけではないということが
完璧であればあるほど
それは「機械」や「作品」でしかない
(中略)
それを手に入れた自分に恐れるものはないと思った
なのにどうして 苦しいんだ

彼氏彼女の事情 ACT40★文化祭・3

過去からは 逃れられない
どんなに表面を取りつくろっても
いつもおびえてた
本当の僕を知っても
皆は今のように僕に接するだろうか
僕ですら僕を愛せないのに?
誰が愛するんだこんな自分
愛されやしねえよ はははははははは
はははははははは

彼氏彼女の事情 ACT40★文化祭・3

鋼の雪は、レンがネオモデルに過去を打ち明け、受け入れられることで救われる。
一方、総一郎は文化祭後、今回の劇等をきっかけに世界がどんどん広がっていく雪野へ小さなSOSを発する。

そんな忙しくして成績下がっても知らないから

彼氏彼女の事情 ACT42★運命の車

これに対して、雪野はあっさりこう答えてしまう。

あ 私一番狙うのもうやめる
3年になるまでは10番以内におさえて他のことを一生懸命やろうと思うの
それまでは主席の座はありまにゆずることにするね――――

彼氏彼女の事情 ACT42★運命の車

自分を置いて世界に羽ばたいていってしまう彼女。
このあと、総一郎は前半の勢いどこ行った?という勢いで闇落ちしていくのだが、この闇落ちのきっかけを作ったのがこの劇中劇であるところもまた味わい深い。


2. まくむすび

劇中劇といえば、高校演劇を扱っている「まくむすび」は外せない。
どの劇中劇も、それだけで作品が成立しそうなほどの精鋭揃いだ。

作中に出てくる劇中劇は、ざっくりと以下のとおり。(なお、下記に挙げたものは「演劇」としてある程度形を成しているもののみに絞っている)

  1. 新入生歓迎会[第1巻]

  2. 演劇部説明会[第1巻]

  3. あおはるマルシェ(「おりひめの一日」「けむり」)[第2巻]

  4. 合同ワークショップ(A~F班の発表)[第4巻]

  5. 1年前の地区大会(「檻と外」)[第5巻]

  6. 星見祭(文化祭)[第5巻]

もちろん、物語の展開として一番アツいのは最後の文化祭での演劇だ。実はさっきもこの記事を書くにあたり読み直してボロ泣きした。
だが、この本を買おうと思ったきっかけは、2の演劇部説明会のときに主人公・咲良が即興で作った小演劇である。文化祭の演劇は話の根幹のネタバレになるので、今回はこちらを取り上げようと思う。

オリエンテーションとして、演劇部説明会に集まった一年生たちは、ランダムに引いた3つの単語を使い、自分以外の人物になりきって会話をつないでいくこととなる。
咲良以外の2人――咲良はこの時点で演劇部に入る気はなかった――で拙いながらも会話を紡いでいくが、最後に出てきた単語「宇宙」で言葉に窮し、先が続かなくなってしまう。
そこで咲良が加わり、あっという間に「宇宙に新婚旅行に来た夫婦」という舞台を紡ぎ出す。実際はただのオンボロ部室なはずなのに、目の前には宇宙船からの銀河がわっと広がり出す。そして、最後に差し出される機内食がおむすびなのもまた良い。

元々宇宙などのテーマが好きというのもあるが、あっという間に皆を咲良の紡ぐ世界へかっさらっていってしまう様がとても素敵で、この小話はついついなんども見直してしまう。(同じ理由で4の合同ワークショップの話も好きだ)
なお、最初はWebでこの漫画を読んでいたが、この話を見て紙のコミックを買おうと決めた。そのくらい私の中ではツボにハマる話だった。


どちらの作品も、劇中劇だけでなく物語全体としても素晴らしい出来なので、ぜひ手に取って読んでみてほしい。


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