目を焼く夏服
「夏の公園、好きなんだよね」
自転車の後ろに私を乗せて、彼が言う。キラキラと光る葉や、元気に走り回る子供たちを見るのが好きらしい。少し焼けすぎた彼には夏がよく似合う。
二人して部活をサボった学校帰り。強い日差しが彼のワイシャツに反射して、腰に手を回した私の目が焼ける。
荷台に横座りしたスカートが汗でまとわりついて鬱陶しい。ローファーに紺のハイソックス、半袖のワイシャツ、少し緩めたリボン、夏服のチェック柄のスカート。
スクールバッグは彼が自転車の籠に入れてくれた。
自分の鞄を下敷きにして私のを上に。そういった彼の優しさが蜂蜜のように甘ったるく私の心を満たして、とろけさせる。夏が余計に暑くなる。
公園に着くなり、暑さを言いわけに無邪気な振りをして、スカートのウエストを折り返して短くする。ベンチに座ったときに彼がちょっとだけドキッとするように。何度も鏡を見て研究した、一番可愛くて、さり気ない丈にする。
ベンチに座ってお喋りをするのが、彼との帰り道の恒例行事。途中のコンビニで割り勘して買った一本のカルピスソーダを、まずは彼が飲む。
見ていないフリをしながら、私は彼を盗み見る。
汗に艷めく彼の首筋。カルピスソーダを飲む喉仏。校則ギリギリに伸ばした襟足からチラチラと見える、首の骨の出っ張ったところ。
半袖はダサいからと格好つけて、暑いのに無理をして袖をまくっている長袖のワイシャツ。汗で透けたシャツの向こうの筋肉。腕まくりであらわになった肘の骨の動き。浮き出た血管。
彼の手にしたペットボトルの水滴が、指や腕を濡らしていく。その雫がグレーのスラックスへ落ちて、だんだんと増えていく水玉模様の濃さ。
何度もふざけて抱きついたから、もう完全に覚えている背中の筋肉の付き方。私が見ていることなんて気づきもせずにフェイスタオルで乱雑に汗を拭く、骨張った長い指。
その指の形。優しくて、くすぐったい指先。
彼の指先がなぞった私の稜線を思い出す。私の白い肌とは対照的な、彼の肌。鍛え始めたばかりだという背中と胸板の熱さの記憶が、手のひらに湧き上がる。
彼の家へ遊びに行ったとき、「俺は紳士だから」と言っていたのに、最後は我慢できなくなった彼。割れ物注意のシールが貼られているみたいに、ゆっくりと彼に倒されたときのベッドの軋む音が、夏に茹だった脳内で再生される。
今日は猛暑になるとニュースキャスターが言っていた。
私は彼とのことを思い出してこんなに暑いのに、冷たいジュースを飲み続ける隣の彼が恨めしい。
頬の熱も暑いだけじゃない身体の火照りも、全部ぜんぶ猛暑のせいにして、「いつまで飲んでるの!」と可愛く怒ったフリで、私は彼の手からカルピスソーダを奪い取った。