民事信託の登記の諸問題(10)
登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(10)」について、考えてみたいと思います。
例えば、受益者の介護その他の生活支援・受益者が現在の住居を離れなくてはならなくなった場合の、不動産の売却、などのように一定程度信託の当事者間で明確になっているのならば、信託目録の信託の目的欄への記録も可能だと思います。介護のその他の生活支援の場合は、受益者の死亡により信託の終了、不動産の売却の場合は、売却時に金銭信託なども終了して清算に移るのか、その後も他の信託財産に属する財産について信託を続けるのかは最初に検討、という形を採るのかなと思います。
財産の管理又は処分それ自体が独立した権限とされて、後の及びで、その他の必要な行為が付加されている形の分の構造となっているのだと考えます。[2]
受託者が、信託財産に属する財産の管理も処分も行う、と信託行為で決めた、ということだと思います。効果は管理、処分、信託の目的を達成するために必要な行為のうち、管理と処分行為については第三者対抗要件を備えるということになると考えられます(不動産登記法177条)。
処分権限を有しない受託者による賃貸借は、民法602条の短期賃貸借に限られると考えます。例えば、受託者を貸主として、第三者と土地の賃貸借契約(期間5年)を締結した場合、借地借家法の適用を受けません(借地借家法9条。)。受託者を貸主として、受益者と建物の賃貸借契約(期間3年)を締結した場合、借地借家法が適用されます(借地借家法29条~)。
資産(財産)承継と福祉型信託の目的は両立し得ると思います。ただし、信託財産に属する財産の現在の状況どのようなものか、どのように承継したいのか、各親族の意思など個別具体的な状況によるのだと思います。このような場合、財産の状況や親族の意思によっては、信託を利用しない、という選択になることもあり得ると思います。
許容される基準や要件は、信託行為で定めておけばよいのではないかなと思います。
この辺は、信託を利用しなくても、同居の親族であればやる人はやると思うので、任意後見、法定後見制度との併用を考えておく必要があると考えます。
私は現在のところ、このような目的は利用していませんが、当事者が望めば両立可能だと思います。その際注意する点は、福祉型信託において守る財産と資産承継において守る財産を分けることです。
[1] 892号、令和4年6月、(株)テイハン、P34~
[2] 法制執務委員会『ワークブック法制執務』平成19年ぎょうせい、P672、P742