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全国憲 憲法問題特別委員会シンポジウム「裁判官の弾劾と表現の自由」

◇ シンポジウム概要
日 時:2021年9月18日(土)13:30 〜 17:00
テーマ:裁判官の弾劾と表現の自由~岡口基一裁判官の訴追を契機に考える
パネリスト:柳瀬 昇(日本大学)「制度としての裁判官の弾劾」市川正人(立命館大学)「裁判官の表現の自由」
コメンテーター:毛利 透(京都大学)渡辺康行(一橋大学)
司会:小川有希子(帝京大学)奥野恒久(龍谷大学)

https://zenkokuken.org/

柳瀬 昇(日本大学)「制度としての裁判官の弾劾」

裁判官弾劾制度についての日本国憲法の条項

15条1項
     公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
64条
    国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
78条
 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。

弾劾制度の本質


•立法府から司法府への権力抑制の手段
•国民の公務員選定罷免権(日本国憲法15条)の具体化・・・民主的

罷免判決の効果
・裁判官として即時に罷免
・裁判官・検察官・弁護士等となる
・・・不服申し立てが出来ない。

資格を失う
・退職手当・退職年金の一部不支給

資格回復裁判
 罷免判決後5年が経過し相当とする事由がある場合、または罷免事由がないことが発覚した場合、裁判官弾劾裁判所が資格回復の裁判を行いうる。

闇市関係。
訴追委員会の張り切り具合。

司法権の独立
• 裁判が公正に行われ人権保障が確保されるためには、裁判官が外部から圧力や干渉を受けずに公正無私の立場で裁判をしなければならない
• 司法権の独立
• 司法府(裁判所)の独立
• 裁判官の職権行使の独立
公正な裁判の実現のため

岡口判事に関する一連の事件


2014.04.23~ Twitterに自分の辞令書や裸体の写真、縄縛された裸体の男性の写真などを投稿
2016.06.21 東京高裁長官による口頭による厳重注意
2017.12.13頃 Twitterに刑事事件の被害者の遺族の感情を傷つける投稿
2018.03.15 東京高裁長官による書面による厳重注意
2018.05.17頃 Twitterに民事訴訟の原告の感情を傷つける投稿
2018.10.17 最高裁大法廷による戒告
2019.03.04 裁判官訴追委員会に出頭(事情聴取)
2019.11.12 Facebookに性犯罪被害者の遺族に対する侮辱的な投稿
2020.08.26 最高裁大法廷による戒告
2021.06.04 裁判官訴追委員会に出頭(事情聴取)
2021.06.16 裁判官訴追委員会が弾劾訴追を決定
2021.07.29 裁判官弾劾裁判所が職務停止を決定

最大決平成30(2018)年10月17日
• 「品位を辱める行状」=職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動
• 裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で、判決が確定した担当外の民事訴訟事件に関し、その内容を十分に検討した形跡を示さず、表面的な情報のみを掲げて、私人である当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を不特定多数の閲覧者に公然と伝えた
• この行為は、裁判官が、その職務を行うについて、表面的かつ一方的な情報や理解のみに基づき予断をもって判断をするのではないかという疑念を国民に与える
• 原告が訴訟を提起したことを揶揄するものともとれるその表現振りとあいまって、裁判を受ける権利を保障された私人である原告の訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示すことで、原告の感情を傷つけるものである
→裁判官に対する国民の信頼を損ね、裁判の公正を疑わせるものでもあり、「品位を辱める行状」(裁判所法49条)に当たる


最大決令和2(2020)年8月26日
(前提)Twitterへの投稿=閲覧者の性的好奇心に訴え掛けて、興味本位で本件刑事判
決を閲覧するよう誘導しようとするもの→被害者遺族は、被害者の尊厳や遺族の心情に対する配慮を欠くものであるとして抗議等をするに至った
• Facebookへの投稿=あたかも遺族が自ら判断をする能力がなく、東京高裁事務局等の思惑どおりに不合理な非難を続けている人物であるかのような印象を与える侮辱的なものである
• 遺族の心情を更に傷つけるものであり、犯罪被害者遺族の副次的な被害を拡大させた
• 自らが裁判官であることを示しつつ多数の者に向けてした
• 犯罪被害者やその遺族の心情を理解し、配慮することのできない裁判官ではないかとの疑念を広く抱かせるに足りる
→裁判官に対する国民の信頼を損ねる言動であり、
「品位を辱める行状」(裁判所法49条)に当たる

岡口判事に対する弾劾訴追


Twitter・Facebook・ブログに文章を投稿して掲載し、不特定多数の者が閲覧可能な状態にするなどして、
(1)刑事事件の被害者遺族の感情を傷つけるとともに侮辱したことと、
(2)裁判を受ける権利を保障された私人である訴訟当事者による民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示すとともに、当該訴訟当事者本人の社会的評価を不当におとしめたことで、
「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」(裁判官弾劾法2条2号)があった。

岡口判事に対する弾劾訴追

2017.12.13頃 Twitterに、「無惨にも殺されて」投稿(後に凍結か?)
2017.12.30頃 Twitterに、同旨の投稿をFacebookでは削除していない旨を投稿
2018.03.15 東京高裁長官より文書による厳重注意処分
2018.03.29頃 Twitterに、「俺ではなく、東京高裁」投稿
2018.05.17頃 Twitterに、「この犬を捨てたんでしょ」投稿
2018.07.29頃 公式ブログに、民事訴訟の当事者を誹謗する投稿のあるインターネット掲示板へのリンクを貼り付けた投稿
2018.09.11 記者会見で、刑事事件の被害者遺族からDMでTwitterの削除依頼があった旨を発言
2018.10.05 公式ブログに、「遺族から因縁」投稿(後に削除か?)
2018.10.17 民事訴訟の当事者に関する投稿について、最高裁判所による戒告決定
2018.10.下旬 週刊誌のインタビューで、被害者遺族の発言に対して「これって、どういうことなのでしょうか」と発言
2019.01.08頃 公式ブログに、「この犬を捨てたんでしょ」投稿がFacebookに残っていた旨を投稿
2019.03.04 訴追委員会による事情聴取で、刑事事件の被害者遺族及び民事事件の当事者につき、今後、傷つけるようなことを投稿等しない旨を陳述

2019.03.21 公式ブログに、「遺族を担ぎ出した訴追委員会」投稿
2019.11.12頃 Facebookに、「遺族の方々は、洗脳され」投稿
2019.11.15頃 Facebookに、遺族に向けて、「洗脳」投稿を撤回・陳謝する一方で、理由を述べるよう要求する旨の投稿
2019.11.18頃 公式ブログに、「「洗脳発言」報道について」を投稿
2021.06.16 裁判官訴追委員会による弾劾訴追

岡口判事の弾劾裁判の特異性


1. 裁判官の表現の自由をはじめとする市民的自由の問題
• 私的な表現行為に基づき罷免されれば、裁判官の活動が萎縮する?

ソーシャルメディア上での私的な表現行為
私的な表現行為≠裁判官の職務
2. 厳重注意や戒告(懲戒)を受けた裁判官の弾劾裁判
• 日本国憲法39条が禁止する二重処罰に該当する?

弾劾の本質=国民の公務員選定罷免権の具体化と考えるならば、懲戒とは質的に相違するものと考えるべき
3. 犯罪ではないことを弾劾罷免事由とすることの可否
• 近時の弾劾罷免判決は、すべて刑事裁判で有罪とされた裁判官なのに?

 近時の弾劾罷免判決は、すべて刑事事件で有罪とされた裁判官に関するものである。

4. 最高裁判所による訴追請求に基づかない弾劾訴追
• 一般の国民が裁判官を訴追請求をすることの意義は?

 国民の公務員制定罷免権の具体化という理念が後景に退き、裁判官の身分法制(最高裁判所(事務総局)による裁判官統制)という要素が前面に現れるようになった。

 最高裁判所は、寺西判事補(1998年)・古川判事(2001年)・岡口判事(2018・2020年)の分限裁判(懲戒)において、裁判・裁判所・裁判官に対する国民の信頼を重視している。

 裁判官弾劾裁判所は、司法・裁判・裁判官に対する国民の信頼を重
視している(特に、村木判事(2001年)・下山判事(2008年)・華井判事補(2013年)の罷免判決では、「司法に対する国民の信頼」が揺らいだか否かが、カギとなっている)。

裁判官の倫理規範

裁判官弾劾裁判所の対審・裁判宣告は公開(裁判官弾劾法26条)
→被訴追者にとっては、自分の見解を国民に対して主張する絶好の機会である
裁判官弾劾裁判所の裁判員(国会議員)=国民の代表

市川正人(立命館大学)「裁判官の表現の自由」

表現の自由の保障の意義


 真実であると信じたことに相当の理由がある場合(相当性の理論)
名誉毀損的表現
■名誉毀損=ある人についての事実を公表し、その人に対する社会的評価を低下させること
刑法230条 ―刑事責任(名 誉毀損罪)
民法709条 等―民事責任(不 法行為)
名誉感情の侵害(侮 辱)も 不法行為となる
■名誉毀損的表現の免責要件=1公共の利害に関する事実を、2公益目的で公表しており、3その事実が真実と証明できる場合(刑法230条 の2第 1項 )3A真実であると信じたことに相当の理由がある場合(相 当性の理論)(「 夕刊和歌山時事」事件判決[最高裁大法廷1969年6月 25日)

洗脳されているという表現


裁判官の表現の自由


適切な調整のあり方
「消極的な国民の信頼」の確保


岡口裁判官事件をめぐって


 当該訴訟の原告が訴えを提起したことが不当であるとする一方的な評価を伝えた?
 裁判官が,その職務を行うについて,表面的かつ一方的な情報や理解のみに基づき予断をもつて判断をするのではないかという疑念を国民に与える?
そこまでの侮辱的表現か?

 岡口裁判官の一連の行動は,弾劾事由である「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」(裁判官弾劾法2条2号)にあたるのか ?


岡口裁判官を弾劾訴追&弾劾することの持つ意味

裁判官個人に対する信頼と司法制度に対する信頼。
1人は傷付けても良いけど、1億人を傷付けるのは駄目なのか。


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sunao