信託登記における錯誤・遺漏による更正登記リスク


  家族信託実務ガイド[1]の記事、渋谷陽一郎「信託登記における錯誤・遺漏による更正登記リスク」からです。

 それでは、登記官にとって信託法182条1項2号の特約が存在しないことになってしまうと、どうなるのでしょうか。登記手続上、同条2項の委託者または委託者の相続人が帰属権利者に指定する定めがあるものとみなすと、登記官に判断されてしまう可能性はないでしょうか。

  先例、通達、判例、裁判例が出ていない現状では、個々の登記官の判断に委ねられる可能性はあると考えます。

   受託者の法務一郎が、後続の登記を申請する際に、当該特約(信託行為による定め)を称する登記原因証明情報として、信託設定時から存在している信託契約書を提供すれば足りる、と考えてもよいのでしょうか。登記情報の連載が、「(元)登記官による~」などの書籍になると、根拠として扱っていいのか分かりません。

 「・・・・登記原因証明情報として当該契約書を提供すれば足りると考えているようですが、このような取扱いは、信託目録の否定だけではなく、信託登記の公示制度の役割そのものを否定することになってしまいます。」(横山同書16頁)

 当該特約の登記がないにもかかわらず、信託契約書を提供することで、後続の登記の申請を行うようなことはできないということのようです。


   登記の申請構造としては納得できます。横山亘先生の見解が、そのまま全国共通の登記実務となるのか、結論付ける根拠でいいのか、位置付けが分かりませんでした。

昭和41年5月16日付民事甲第1179号民事局長回答

信託の登記ある不動産についての抵当権設定登記申請の受理について

【要旨】受任者が第三者の債務の担保として信託財産に抵当権を設定しその登記の申請があった場合、委託者及び受益者の承諾があるときでもその申請は受理すべきでない。

 この通達は、委託者と受益者が承諾した情報を添付することによって、受託者が登記義務者として、信託目録を変更更生せずに、抵当権設定登記の申請を行うことが出来るかを問うものであり、信託契約書が添付されている場合とは分けて考える必要があるのではないかと思います。

 


参考

登記研究554号P99~

カウンター相談43 信託原簿の受益者の記載の変更の申請書に添付すべき「変更を証する書面」について

問 不動産の管理を目的とする信託の登記がされ、代物弁済により質権者が受益権を取得したので、信託原簿の受益者の記載の変更の申請をしようと思いますが、申請書に添付すべき「変更の書面」がありません。この場合、申請書副本のみを添付すればよいでしょうか。

答 「変更を証する書面」をも添付する必要があります。

 

昭和27年8月23付民事甲第74号民事局長回答

甲が乙に売渡したる不動産の所有権移転登記を為さず死亡したので、乙が甲の相続人と共に右売買による所有権移転登記申請を為さんとするも相続人三名の内一名がその登記手続に応じない為め他の相続人と共に右登記申請を為したるとき受理して差支ありませんか。

回答

本月5日附日記第3434号をもって問い合わせのあった標記の件については、相続人全員が登記義務者として申請すべきものと考える。

 

 

任意後見契約が存在しないまま、委託者兼受益者が、認知症に罹患して、判断能力を喪失してしまえば、成年後見人の選任が求められるリスクはないでしょうか。もちろん、それは、登記官が、錯誤更生の申請時、更生を証する情報として、委託者兼受益者の名義関与を求めた場合の話です。

 成年後見人の選任が求められるのは、リスクなのか、分かりませんでした。当初から成年後見制度を利用しないための信託であれば、それはリスクかもしれません。

 登記に関係なく、認知症に罹患して福祉、医療、保険などの各種契約が求められる場面では成年後見人の選任が求められる可能性があります。記事に記載のあるように、民事信託支援業務に携わる士業の説明義務という点では同感です。

 

 

 

 



[1] 28号、2023年2月、P80~

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