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民事信託の登記の諸問題(21)


 登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託の登記の諸問題(21)」からです。引き続き、昭和41年5月16日付け民甲1179号民事局長通達の考察です。

 

委託者と受益者(委託者兼受益者の場合は単独)が承認さえすれば、受託者は何でもできるのか、という問題もある。一体、どこまでが、信託の枠組みとして有効なのだろうか。受益者の承認と信託の変更は何が違うのか(信託目的等の変更を要しないのか)。包括的かつ一般的な事前の承認は、承認といえるのか。

 

委託者と受益者(委託者兼受益者の場合は単独)が承認さえすれば、受託者は何でもできるのか。

・・・信託法その他の法令に反しない限り、委託者が判断能力があるうちに行う信託行為による定めなので、可能と考えられます。

受益者の承認と信託の変更は何が違うのか。

・・・信託の変更は別段の定め(信託法163条3項)など複数の方法があるので、ここでは、信託の変更の構造と、受益者による受託者に対する事前の承認の構造について、何が異なるのか、という問いだと仮定します。

  信託の変更は、信託行為について事後的に変更を行うこと[2]とされています。信託の変更を行う主体、一般的規定、形態は、信託法149条から162条までに定められています。受益者保護の規定として、信託法103条に、受益権取得請求が定められています。

 受益者による受託者に対する事前の承認は、受託者が信託事務を行う場合に、必要とされることがあります。信託法31条2項2号の利益相反行為の制限にかかる承認のほか、信託法149条4項によって、受益者による受託者に対する事前の承認を定めることも可能です。受益者は自ら承認するので、信託法103条のような受益権取得請求権は認められていません。

 

信託財産の管理方法
受託者の権限
受託者は、委託者兼受益者が創業したXX会社(代表取締役は受託者)が負担する債務を被担保債権(債権額金××万円まで)として、抵当権を設定することができる。

   このような規定をおいた場合、受託者のみで担保設定を行うことができることになります。株主などが【氏名】である限り、などの制限も付けない限り、信託法8条(受託者の利益享受の禁止)により可能なのか分かりませんでした。可能であるとした場合、被担保債権額の上限は具体的金額ではなく、信託不動産の査定額の何パーセントなどの方がよいと考えます。信託財産は時間の経過とともに変化していくからです。

 

信託の目的
 高齢者の認知症対策と生活支援
信託財産の管理方法
受託者の権限
信託監督人の同意をもって、受託者は、受益者以外の第三者が負担する債務を被担保債権として、抵当権を設定することができる。

  記事では、第三者である士業者による信託監督人が望ましい、との記載があります。仮に私が信託監督人として同意を行う場合、委託者(兼受益者)の推定相続人全員から承諾をもらってからの判断を行うと思います。

 

信託法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108

 

(受託者の利益享受の禁止)

第八条 受託者は、受益者として信託の利益を享受する場合を除き、何人の名義をもってするかを問わず、信託の利益を享受することができない。

 

(利益相反行為の制限)

第三十一条 受託者は、次に掲げる行為をしてはならない。

一 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を固有財産に帰属させ、又は固有財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を信託財産に帰属させること。

二 信託財産に属する財産(当該財産に係る権利を含む。)を他の信託の信託財産に帰属させること。

三 第三者との間において信託財産のためにする行為であって、自己が当該第三者の代理人となって行うもの

四 信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

2 前項の規定にかかわらず、次のいずれかに該当するときは、同項各号に掲げる行為をすることができる。ただし、第二号に掲げる事由にあっては、同号に該当する場合でも当該行為をすることができない旨の信託行為の定めがあるときは、この限りでない。

一 信託行為に当該行為をすることを許容する旨の定めがあるとき。

二 受託者が当該行為について重要な事実を開示して受益者の承認を得たとき。

三 相続その他の包括承継により信託財産に属する財産に係る権利が固有財産に帰属したとき。

四 受託者が当該行為をすることが信託の目的の達成のために合理的に必要と認められる場合であって、受益者の利益を害しないことが明らかであるとき、又は当該行為の信託財産に与える影響、当該行為の目的及び態様、受託者の受益者との実質的な利害関係の状況その他の事情に照らして正当な理由があるとき。

3 受託者は、第一項各号に掲げる行為をしたときは、受益者に対し、当該行為についての重要な事実を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

4 第一項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされた場合には、これらの行為は、無効とする。

5 前項の行為は、受益者の追認により、当該行為の時にさかのぼってその効力を生ずる。

6 第四項に規定する場合において、受託者が第三者との間において第一項第一号又は第二号の財産について処分その他の行為をしたときは、当該第三者が同項及び第二項の規定に違反して第一項第一号又は第二号に掲げる行為がされたことを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該処分その他の行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

7 第一項及び第二項の規定に違反して第一項第三号又は第四号に掲げる行為がされた場合には、当該第三者がこれを知っていたとき又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者は、当該行為を取り消すことができる。この場合においては、第二十七条第三項及び第四項の規定を準用する。

 



[1] 904号、令和5年6月、テイハン、P45

[2] 寺本昌広『逐条解説新しい信託法補訂版』2008、商事法務、P339