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『スタートアップの法律相談』16.従業員に対するストック・オプション設計時の留意点


『スタートアップの法律相談』16.従業員に対するストック・オプション設計時の留意点、2023年、青林書院

https://www.seirin.co.jp/book/01854.html

司法書士 宮城直

1.     既存社員や入社予定の内定者に対して、税制適格ストック・オプションを発行することを検討している場合、税制適格要件を満たすための新株予約権の設計についての留意点。

・スケジュール例(取締役会非設置・非公開会社・普通株式のみを発行している、募集事項を取締役に委任しない(会社法309条2項6号、239条1項)場合)

1.     取締役間で調整・決定・株主総会招集通知

(1)税制適格要件を満たすストック・オプションを発行するか否か

(2)税制適格要件を満たすストック・オプションを発行すると決定した場合

・誰にいくつ、どのような条件で新株予約権を割り当てるか、株主総会で決議する議案を決定。

・税制適格要件を満たすか、最終確認[1][2]

2.     募集事項の決定(会社法238条)・・・株主総会特別決議(会社法309条2項6号)

3.     新株予約権の引受け申込みをしようとする者への通知、契約(会社法242条、243条、会社法施行令1条1項5号、会社法施行規則54条)。・・・新株予約権を付与する株式会社と、新株予約権の割り当てを受け、申込みをする従業員。

4.     新株予約権者による払込み(会社法246条)・・・無償の場合はなし。

5.     新株予約権の発行会社による、新株予約権原簿の作成と管理・備え置き(会社法249条、252条)。

6.     募集新株予約権の発行の登記申請(会社法911条)。

7.     新株予約権の発行会社による、特定新株予約権の付与に関する調書(同合計表)提出[3]

 

ストック・オプションに関する会社の計算処理

ストック・オプションを従業員に無償で付与

株式報酬費用○○円/新株予約権○○円 

・貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上

権利行使時

 当座   ○○円/資本金○○円

新株予約権○○円

  新株を発行した場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える。

  新株予約権の行使に伴い、当該企業が自己株式を処分した場合には、自己株式の取得原価+新株予約権の帳簿価額+権利行使に伴う払込金額の合計額との差額は、自己株式処分差額であり、平成17年12月改正の企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」第9項、第10項及び第11項により会計処理を行う。

権利失効時

新株予約権○○円/新株予約権戻入益○○円

権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額のうち、当該失効に対応する部分を利益として計上。

 

税制適格要件について

1. 行使時の課税(税制適格ストック・オプションの場合)

・税制適格ストック・オプションの場合、行使時には非課税。この時点では株を売却していないため、所得税や住民税は発生しない。

2. 株式売却時の課税

後日、株式を売却した時点で、株価が上昇していた場合。譲渡益に対して、譲渡所得税を課税。

最終的に売却した際の譲渡益に対して、税金が課される。税制適格ストック・オプションの場合、行使時には課税されず、株式を売却した時点でのみ譲渡益に課税されるため、税負担が売却時まで先延ばしされるのが特徴。

税制適格要件を満たさない場合[4]

【税制適格要件を満たさないストック・オプションの場合の課税】

税制非適格ストック・オプションでは、2つのタイミングで課税。

行使時(給与所得として課税[5]

株式売却時(譲渡所得として課税)

1. 行使時の課税

新株予約権の行使時点での株価と、権利行使価格の差額を課税対象として、給与所得として課税。

2. 株式売却時の課税

株式譲渡益に対して、譲渡所得税を課税。

 

税制適格を受ける要件

・ストック・オプションの付与対象者が税制適格の対象者であること。

  雇用契約締結前の内定者は、原則として税制適格の対象とならない[6]。例外として、内定者が正社員として入社する前に、アルバイト等としての雇用契約を締結したうえで業務に従事することが可能であれば、税制適格ストック・オプションを発行することができる可能性がある。

・権利行使価額が割当契約時の株価の時価以上であること。

・租税特別措置法29条の2第1項各号[7]において、割当契約に定められていることとされている内容が、割当契約に定められていること。

・無償発行

・付与対象者

・権利行使期間

・権利行使価額

・権利行使限度額

・譲渡禁止

・新株予約権の講師に係る株式の交付

・行使により交付される株式についての管理型信託を行う場合は、前提として株券発行会社への定款変更。

・その他 ベスティング(一定の時期の経過に応じて権利を確定させる契約条件)の定め。・・・目的の一つとして、ストック・オプションの権利行使後における人材離脱を防ぐ。

  内定者が別の会社で勤務中である場合、前職の会社の就業規則で兼業の定めを確認。

 

2.     当社は、M&Aによるイグジット(投資資金の回収)も視野に入れているため、IPO(新規株式公開)前にM&Aをする場合は、その時点で行使できる余地を残したいと考えているが、そのような設計は可能か。

   行使条件として、買収(例えば、発行済み株式総数の50%超の株式の譲渡や発行会社が消滅会社となる合併など)について、発行会社が承認した場合に、承認後一定期間内に限りストック・オプションを行使することができる形を考えることができる。

 その他の方法

・買収が生じた場合は取得事由に該当する設計とし、会社が買収時にストック・オプションを新株予約権者との合意により、自己新株予約権として取得し、消却したうえで(または従業員から新株予約権を放棄してもらったうえで)、別途賞与等で手当てすること。

・自己新株予約権の取得

仕訳例

自己新株予約権 ○○円/支払対価 ○○円

・自己新株予約権の消却

仕訳例

新株予約権 ○○円/自己新株予約権 ○○円

自己新株予約権消却損 ○○円(借方)、または自己新株予約権消却益 ○〇円(貸方)[8]

・買収者のストック・オプションや株式を代わりに交付すること。

・買収者が新株予約権のまま従業員から買い取ること。

信託型のストック・オプションについて

 新株予約権の行使時に、給与取得として所得税の課税対象[9]

  ストック・オプション(新株予約権)付与の目的・・・現在の収入の代替目的など。

 

その他

経済産業省 募集新株予約権の機動的な発行(ストックオプション・プール)に関する制度 https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stockoptionpool/index.html

 

・・・取締役会設置会社において、取締役会に委任できる範囲を拡大(会社法239条の特例として、産業競争力強化法21条の29、産業競争力強化法に基づく募集新株予約権の機動的な発行に関する省令、産業競争力強化法第21条の19第1項に規定する経済産業大臣及び法務大臣の確認に係る審査基準、令和6年9月2日経済産業省、法務省「産業競争力強化法に基づく募集新株予約権の機動的な発行に関するQ&A)。

拡大範囲

・権利行使価額

・権利行使期間

適用要件

・非公開会社であること

・設立の日から15年未満か等

・要件を満たしていることの経済産業大臣、法務大臣の確認を受けること。




[1] 経済産業省ストック・オプション税制

https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stock-option.html


[2] 租税特別措置法施行令29条の2

[3] 国税庁 F3-3 特定新株予約権の付与に関する調書(同合計表)募集新株予約権の発行日の翌年1月31日まで。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/23100073.htm


[4] 国税庁 No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1543.htm


[5] 国税庁 給与所得者と税 国税太郎さん(給与530万円/年、社会保険料60万円/年、生命保険料2万円/年、配偶者有り、扶養2人)の場合、7,100円。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_1.htm



[6] 企業会計基準委員会、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」平成17年12月27日。従業員等とは、企業と雇用関係にある使用人のほか、企業の取締役、会計参与、監査役及び執行役並びにこれに準ずる者をいう。

[7] 租税特別措置法

https://laws.e-gov.go.jp/law/332AC0000000026


[8] 企業会計基準委員会実務対応報告第16号「会社法による新株予約権及び新株予約権付社債の会計処理に関する実務上の取扱い」平成17年12月27日

[9] 国税庁「ストック・オプションに対する課税(Q&A)」令和5年5月最終改訂令和5年7月、所得税法施行令84条3項