民事信託登記の諸問題(20)


 登記研究[1]の記事、渋谷陽一郎「民事信託登記の諸問題(20)」からです。

 

旧信託法(大正11年法律第62号)

第四条

受託者ハ信託行為ノ定ムル所ニ従ヒ信託財産ノ管理又ハ処分ヲ為スコトヲ要ス

 第二十一条

信託財産ニ属スル金銭ノ管理方法ニ関シテハ勅令ヲ以テ之ヲ定ム

 第二十三条

1 信託行為ノ当時予見スルコトヲ得サリシ特別ノ事情ニ因リ信託財産ノ管理方法カ受益者ノ利益ニ適セサルニ至リタルトキハ委託者、其ノ相続人、受益者又ハ受託者ハ其ノ変更ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得

2 前項ノ規定ハ裁判所ノ定メタル管理方法ニ付之ヲ準用ス

 第二十八条

信託財産ハ固有財産及他ノ信託財産ト分別シテ之ヲ管理スルコトヲ要ス但シ信託財産タル金銭ニ付テハ各別ニ其ノ計算ヲ明ニスルヲ以テ足ル

 第三十一条

受託者カ信託ノ本旨ニ反シテ信託財産ヲ処分シタルトキハ受益者ハ相手方又ハ転得者ニ対シ其ノ処分ヲ取消スコトヲ得但シ信託ノ登記若ハ登録アリタルトキ又ハ登記若ハ登録スヘカラサル信託財産ニ付テハ相手方及転得者ニ於テ其ノ処分カ信託ノ本旨ニ反スルコトヲ知リタルトキ若ハ重大ナル過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキニ限ル

 第四十一条

1 信託事務ハ営業トシテ信託ノ引受ヲ為ス場合ヲ除クノ外裁判所ノ監督ニ属ス

2 裁判所ハ利害関係人ノ請求ニ因リ又ハ職権ヲ以テ信託事務ノ処理ニ付検査ヲ為シ且検査役ヲ選任シ其ノ他必要ナル処分ヲ命スルコトヲ得

 


一方、登記研究解説は、信託とはあくまで受益者の利益のために行うものであり、たとえ、委託者と受益者の承諾があっても、前述のとおり、信託という制度それ自体の内在的制約がある、という発想をしているようにも見える(あくまでも信託実体法上の視点である)。なお、登記研究解説が、第三者の債務のための抵当権設定行為をもって、受託者の義務違反行為であると解しているのは確かであろう。


 相続などの際の、親権者と子の利益相反行為における形式的判断説(外形説)の判断の方法のように感じます。

 


 

それは、昭和41年登記先例における現在の登記実務に対する射程範囲の問題として、①「第三者」に対する許容性の可否という問題、②許容される「第三者」の範囲の問題(第三者性の絞り込み)を考えると共に、③登記手続上、かような許容性は承諾書の提供を以て足りるのか、④窮極的には、実務上、後続登記申請の権利の保全として、そのような許容性を登記しておくべきか(如何にして登記するのか)、という信託目録に記録すべき情報としての具体性・明瞭性の問題に収斂しよう。


1、「第三者」に対する許容性の可否について

 第三者を、委託者・受益者および受託者(信託法8条)以外の者と仮定します。信託法で、第三者の債務に対して信託不動産に担保設定することに制限をかけていると考えられる条文は、2条1項、26条(受託者の権限の範囲)、29条(受託者の注意義務)30条(忠実義務)31条・32条(利益相反行為の制限)などが挙がります。制限がかけられている中で許容されていている、と考えられます。

 なお、法的効果、救済措置として、信託法21条(信託財産責任負担債務の範囲)、27条(受託者の権限違反行為の取消し)、40条(受託者の損失てん補責任等)、44条(受益者による受託者の行為の差止め)、150条(特別の事情による信託の変更を命ずる裁判)165条(特別の事情による信託の終了を命ずる裁判)、166条(公益の確保のための信託の終了を命ずる裁判)などが規定されています。

 2、許容される「第三者」の範囲の問題(第三者性の絞り込み)について

 原則として、第三者を、委託者・受益者および受託者(信託法8条)以外の者と仮定します。

 28条(信託事務の処理の第三者への委託)の、受託者から委任された者はどうでしょうか。

 信託事務の処理について、債務を負う必要性と、受益者が損害を被る可能性について、重大な事実を知らず、過失がない限り、第三者といえると考えます。その他の、就任していない受益者代理人、信託監督人、信託監督人、受益者指定権者、受益者変更権者についても、同様に考えることが出来ると思います。信託目録への登記の有無に関わらず、です。

 3、登記手続上、かような許容性は承諾書の提供を以て足りるのか、について

 信託目録上、後続登記と継続性が認められる限り、承諾書の提供を以て足りると考えられます。

 4、窮極的には、実務上、後続登記申請の権利の保全として、そのような許容性を登記しておくべきか(如何にして登記するのか)、という信託目録に記録すべき情報としての具体性・明瞭性の問題について

 許容性を登記しておくべきかについては、事案によりますが、登記しておいた方が、後続登記との関係が円滑になり、第三者からの閲覧に応えるものになると考えられます。

  如何にして登記するのか、については、信託法上、問題がない登記の記録方法は何か、という問いだと置き換えてみます。

 例えばですが、信託の目的は、管理・運用・処分に留める。信託財産の管理方法には、具体的に第三者(例えば姪、甥など)の氏名を登記し、その者が債務を負担する場合は、受託者は、(受益者の承諾書を提供して)抵当権を設定し、抵当権設定登記を申請することができる、などと記載することが考えられます。

 



[1] 903号、令和5年5月、テイハン、P47

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