誕生日サプライズ恐怖症になった話
若い頃、映画やテレビドラマの制作進行という仕事をしていたことを以前の記事でも小出しにしているが、その仕事内容は多岐に渡りに渡っていた。
みなさんも朝のニュースなどで俳優の誕生日をサプライズで祝っている場面を一度は見たことがあるだろう。ああいった場に用意される特注のケーキ、そんなのを手配するのも制作進行の仕事だった。
しかしこれがぶっちゃけなかなか難儀なのだった。「現場は生き物」とはよく言ったものだが、常に流動的で混沌としており、ベストなタイミングでサプラ〜イズ!するためには入念な準備と計算が必要になる。
何が厄介って、ケーキはナマモノだ。出す直前まで冷蔵しておかないといけないが、いつもそんな環境があるとは限らない。誕生日に限って思いっきり田舎の屋外ロケだったりすることもあるのだ。
しかもサプラ〜イズ!で和やかになるのはほんの束の間である。みっちみちのスケジュールに無理やりねじ込むのだから、ここだ!という瞬間を狙わなければいけない。タイミングをミスるとだだスベりで非難轟々だ。うまくいったところで数分わいわいしたらすぐ撤収。みなさんがTVで見ているお祝い場面は実際はそんなものだったりする。
しかし、サプラ〜イズ!の対象がメインキャストや監督に留まればまだ良いのだが、これが現場によってはカメラマンも照明技師もと、キリがなく続くことがある。
例えば撮影部の助手から「あさってうちのボス誕生日なんですよ。ケーキ手配してもらえませんか?」なんて頼まれてOKしてしまったら次は照明部から、その次は録音部からと、なんでこんなに今月誕生日の人多いんだよと泣きたくなることがある。
全部署やる気か?え?チーフも?技師だけで良くね?などと思いつつも断れない立場なのである。
ケーキだけ買っとくからあと勝手にやってくれれば良いのに「今日は〇〇さんのお誕生日です。おめでとうございま〜す!」と発表する役目まで担って完全に巻き込まれることもしばしば。
アットホームで仲良しなチームだと起こりがちである。ただでさえ寝る暇もない。一分一秒でも寝たい。帰りたい。ちゃんとお風呂入りたい。会社のソファじゃなくて家の布団で眠りたい。そんな状況の中ぶちこまれるサプライズ…。そして人様の誕生日を素直に祝う気持ちになれない罪悪感も辛い。
サプライズは祝いたい人だけで、無理なくやってくれ。
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