オレンジの眼差し

目の前を鳥が横切った。
僕がタバコを吸っていたときだった。

辺りは夜の帳が落ちかかっている。
空気はぬるく、湿り気を帯びた風が肌を撫でる。
僕の遥か先、少し目線を上げた先には、熟れたオレンジの様な夕日が僕を見ていた。

夕日と僕との間には、さまざまな街や木々、人間、動物がいるはずなのに、僕の一挙手一投足を捉えて離さない。
母の様な温かみのある眼差しは心を落ち着かせるものの、その目には何も写っていないように感じさせた。

いくつもの車が目の前を通り過ぎるが、車の駆動音は耳を噛むだけで、僕の目に映ることはない。
目の前を通り過ぎる人間も、彼ら彼女らの目に僕は写っていない。

その現実を理解した瞬間に、僕の存在はとてもちっぽけなものなのだと叩き込まれた気がした。

揺れるカーテンのように、白い煙が視界を覆う。

夕日が目蓋を閉じた後に、僕は泣こうと思った。

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