眼鏡の奥の君の目が、とても優しかったんだ
本当にふとした瞬間だった
それは僕の日常に、青天の霹靂のような衝撃をもたらしたのだ。
帰る者。部活に行く者。遊びに行く者。拘束が解け、各々が行き交う放課後の教室。
その中に紛れて、いつもの2人。クラスメイト達はまばらになり、いつの間にか誰もいなくなった教室の窓から夕日を見ながら隣同士で他愛ないことを話す。
日中はお互い別のクラスメイトと過ごしているけど、どこか気が合う僕達はこうして放課後に2人で話すのが日課である
いつもつるんでいる友人達との慌ただしい時間も楽しいが、君と過ごす静かな時間も気に入っている
いつものように笑った君の横顔に
夢だったかのように一瞬だけ、眼鏡を透かして優しい目が見え隠れして
わけもわからず鼓動が早くなった
普段は分厚く大きい眼鏡で顔半分は隠れ、
口が笑っているかそうでないかでしか表情を読み取れない君
今は慣れたけど、最初は少し怖かった
そういえば、入学式で初めて出会ってから半年経つけど、君の素顔を見たことがない
素顔を見てみたい。
急にそんな考えが浮かんだ
と同時に居心地の悪い熱が込み上げてきた
まるでいけないことのように感じてしまい、自分でも口数が少なくなったのがわかる
友人の素顔を見たいと思うのは別に変なことじゃないはず。
わかってはいるのに抑まらない鼓動のまま、一瞬だけ眼鏡を外してもらうよう頼むと
外すと何も見えないんだよね~と笑いながらも眼鏡を外してくれた
そこに、見間違いではなかった優しい目があった
肌は白く、瞳は大きな光をたたえた紺碧。
普段の太陽のような性格とは真逆の、夜のような落ち着きに目が離せなくなる。
ほら、と顔を近づけられ、
こんなに近づかないと、あんたが誰かもわからないんだと囁かれる
「あ…」
君の匂いが濃密になる。驚いて後ずさりもできず、固まってしまう。吐息がかかりそうな距離。
「ー?」
名前を呼ばれて我に帰ると、僕の手は知らないうちに君の頬に触れており、君は不思議そうな顔をしていた
思わず飛びのいて謝る。
そんなに変な顔だった?と眼鏡をかけなおす君。
口は笑ってはいるが、相変わらず表情は読めない
違う、と口をついて出てきた
それからは、変だから固まってしまったのではないということを伝えるのに必死になってしまった
だから何を言ったかなんて覚えてない
もしかしたら、見惚れていたなんて余計なことまで口走ってしまったかもしれない
はっと我に返り君の顔を見ると、勢いよくそらされてしまった
変なことを言って怒らせてしまったんだ、と冷や汗が伝うのがわかる
「ご、ごめん、その」
怒られるのを覚悟してちらと盗み見ると、はじめて言われた…という声と真っ赤になった耳が見えた
それは照れているようだった
いつもの笑顔は剥がれ、見たことない表情だった
やっぱり余計なことを言ってしまったようだ
でも、君のいろんな顔を見られるなら悪くないと思った。