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粗雑にも程がある/『シャドウラン 5th Edition』コラム09

01 前口上

 この記事は新紀元社から発売されている『シャドウラン 5th Edition』日本語版ユーザーに向けた言い訳です。
 記事の閲覧・利用に関する前置きは下の記事を参照してください。

02 粗雑にも程がある

粗雑と思われているなら繊細にやり、繊細と思われているなら粗雑にやる。

ウィリアム・ギブスン『記憶屋ジョニィ』

『シャドウラン』の魔法ルールは、伝統的に「魔法は不確実で制御不能な現象である」「大きな力には大きな代償が伴う」という思想に従って設計されてきました。『シャドウラン 5th Edition』でもその思想は受け継がれており、原則として大きな効果を得るには高い【フォース】で呪文を唱えたり精霊を呼ぶ必要がありますが、その分ドレインという形で代償を支払うことになっています。

 元々、古い版でも呪文の【フォース】はリミットのように働いていたこともあり、『シャドウラン 5th Edition』のリミット・ルールは呪文の【フォース】をあらゆるテストに拡張したものとも言えます。しかし、問題はこれを精霊の召喚や儀式にもそのまま適用したことです。
 精霊の召喚や儀式では、その【フォース】自体が「対抗テストのダイスプール」の算出に使われます。このため、術者は低い【フォース】で魔法能力を使おうとするとリミットに引っかかり、高い【フォース】で使おうとすると対抗DPに打ちのめされるという二重の苦しみを受けます。これは明らかにルールの設計に問題があります。このため、エッジ・ポイントによる限界突破や原質によるリミットの緩和やドレインの緩和といった何らかの緩和手段が運用上必須になっていました。

 当初からエッジ・ポイントや原質によるリミットの踏み倒しがゲーム・バランス上問題だと指摘されていましたが、そもそもこれらのルールは「設計上必須」の装置だったのです。ゆえに、筆者は解説記事では一度も「リミットの踏み倒しを禁止すべき」と述べたことはありません

『シャドウラン 5th Edition』の【フォース】ルールは、不安定な魔法の効果を【フォース】というたったひとつの指標で表現するという意味では優れたアイデアですが、明らかにプレイヤーの体験を損なっていました。後発の上級ルールブックでは様々な手段でリミットやドレインを緩和できるように整備されたことから、デザイナー・サイドが【フォース】にまつわる問題を認識していたことは明らかです。
 しかしながら、解決手段として用意されたルールやデータの多くは、問題そのものを無くしてしまうほど強力すぎました。誤解を恐れずに言うならば、「解決手段と言うにはあまりにも大雑把すぎた」のです。特に『Forbidden Arcana』に収録された「New ways to leverage reagents」のルールはゲーム・バランス上の問題を起こすことが明白であり、テスト・チームでは「見えている地雷」として考慮にすら入れていませんでした。

 潮目が変わったのは、超人化/Transhumanismのルールが導入され(上記ハウス・ルール参照)、マンデイン・キャラクターと覚醒者の間のバランスが調整されたことからです。「New ways to leverage reagents」には「活性原質を消費するごとに物体抵抗ダイスプールを-1する」という、覚醒者キャラクターに新たな道を開くルールがあります。【フォース】問題はさておいて、これは導入に一考の余地がありました。
「New ways to leverage reagents」の問題のひとつは、多くのオールドスクールなTRPGが共通の問題として持っている「消耗品問題」でもあります。一時的な強化にお金をつぎ込むのは良いのですが、コストをチーム全体で負担すれば恩恵を受けないキャラクターの成長を阻害してしまいますし、個人負担にすればそれはそれで成長に差が出るなどの問題があります。

 この問題をある程度緩和するのが「経費の補填」のハウス・ルールで、「拡張版原質ルールの調整」はこのルールと併用することで、覚醒者キャラクターが自分の財布と相談しながら、自身の利益のために一定の範囲内で原質を消費することを可能にします。


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