ためらわず撃て/『シャドウラン 5th Edition』コラム02
01 前口上
この記事は新紀元社から発売されている『シャドウラン 5th Edition』日本語版ユーザーに向けた雑文かつ過去のツイートのまとめです。
記事の閲覧・利用に関する前置きは下の記事を参照してください。
02 ためらわず撃て(Shoot Straight)
『シャドウラン』は伝統的に射撃が有利になるようにデザインされて来ました。その思想は、あの有名なストリートの警句にも表れています。
古い版のルールでは、射撃が極めて致死的に扱われていたため、何よりも先に撃つことが重要視されていた時代もありました。この頃のイメージをまだ大切にされている方も多いように思います。
しかし、21世紀の世界的なTRPGデザインのトレンドは明らかに「PCを殺さない」方向にシフトしました。一番大きな流れは、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第3版の『ダンジョンマスターズ・ガイドブック』に書かれた「プレイヤーが受け入れられないなら、ダイスをごまかしてでも殺すな」という強いメッセージでしょう。実は『シャドウラン 4th Edition』にも同様の記述があり、「死んだキャラクターシートの枚数を成功の尺度だと勘違いしているゲームマスターは、すぐにプレイヤーたちに逃げられてしまいます」とはっきり書かれています(日本語版p.292)。
全世界で、どれだけ多くの勘違いしたゲームマスターによって、プレイヤーが失われたか――そして、どれだけ多くのゲームデザイナーがそれを深く反省したかがうかがい知れようというものです。
03 死ななくなったシャドウラン
『シャドウラン 5th Edition』は「1回の攻撃では即死しない」ようにかなり気を遣ってデザインされています。ある程度防御できるキャラクターなら、戦場の真ん中で突っ立っていても(エッジ込みで)数回の射撃に耐えます。1回の移動をミスしたせいで死ぬゲームではありません。
『Shadowrun Third Edition』(第3版)では射撃が致死的だったため、「足を止めて敵を撃つと別の敵に撃たれて死ぬ」という、非常に移動に気を遣うゲームでした。なので、お互いに遮蔽を取り、照明を撃ち抜いてから、目標値12(D6上方無限ロールで6を二回出す)目指してダイスを振り合うという「塹壕戦」が多発していました。
第4版ではこの反省からか目標値が5に固定され、キャラが棒立ちでも即死しないようなバランスになりました。ただ、削り切れないはずの敵を無理矢理削り倒す抜け道(SMG二丁持ち4回射撃とか、高フォース《喪神破》とか)がいくつか残されており、第5版ではこうした部分が排除されました。
とはいえ、「防御テスト全切り」とか「エッジ1」とか「防具はアーマー・ベストのみ」とかだとさすがにキツイものがあります。防御テストDP8以上、全力防御を捨てない、エッジ3以上、アーマー・ジャケットにヘルメットをしっかり被る、とか少し気を遣うだけでかなり死ににくくなります。
21世紀初頭に流行したオンライン・ゲームや国産TRPGでのトレンドとは異なり、『シャドウラン』はヘイト・コントロール要素の少ない(まったくない訳ではありません)ゲームなので、「前衛が敵のラッキーヒットで突然沈む」とか「敵が前衛をすり抜けて後衛を狙ってくる」ということは普通にあり得ます。後衛キャラだからと防御を捨ててると簡単に全滅できる、という意味では怖い(難しい)ゲームだとは言えるでしょう。
ちなみに、「即死ゲーではない」というのは敵にも言えることで、ひとりのPCがどれだけ火力を盛っても、敵を一撃ダウンさせる確率はあまり高くなりません(不可能ではない)。ダメージ・ディーラーは必要ですが、ワントップで勝てるゲームでもないのです。チームとしての連携がとても重要になりました。
ただ「連携が重要」というのは言うは易くで、プレイヤー全員に戦闘ルールをある程度理解してもらうとなると、ハードルが急に高くなります。最初は無理せず、できることをひとつずつ増やしていってください。慣れているプレイヤーがいるなら〈統率〉や〈小部隊戦術〉で指示を出してもらうのもいいですね。
04 あえて昔話をするならば
あえて「昔は良かった」話をすると、第3版までの時代は射撃と奇襲が強かったため、「銃を持っていること」自体に意味がありました。ホールドアウト・ピストルでも不意を打てば敵を倒せるチャンスがあったのです。第4版以降は、相手が防具を着ていると不意打ちでもまず倒せません。
現実の戦闘でも、ボディアーマーが進化したため、「貫通しないならハンドガンなんか持ってる意味さえ薄い」という状況になっていますが、第5版もそうした“リアルさ”を反映している面があります。武器を持っていることだけでなく、ダメージを通す手段を持っていることがより重要になりました。
第5版では近接戦闘のダメージが引き上げられたため、サブウェポンにピストルではなく近接武器(カタナとか銃剣とか)が選択される場面も増えました。アレス・プレデターをサイドアームに選ぶPCが減っていくのは少し寂しいですが、代わりにアサルトライフルとカタナを持つストリート・サムライが実用的になった訳です。