見出し画像

いいや!『限界』だッ!/『シャドウラン 5th Edition』コラム10

01 前口上

 この記事は新紀元社から発売されている『シャドウラン 5th Edition』日本語版ユーザーに向けた過去ツイートの再利用です。
 記事の閲覧・利用に関する前置きは下の記事を参照してください。

02 いいや!『限界』だッ!

『シャドウラン 5th Edition』のある意味中核を為す変更点であり、テストプレイ時からも賛否の分かれた「リミット」の話をします。
 まず、第4版では以前の技能+各種プールという形式から、技能+能力値をダイスプールとする方式に統一されました。これは画期的な変更で、それまではコンバット・プール、スペル・プール、ハッキング・プール、タスク・プールというように毎戦闘ターンごとに回復するリソースがあり、自分が何個使ったかを管理しなければなりませんでした。第4版ではこのプールという概念がなくなり、ただ指定されたダイスを振れば良いことになりました。

 この変更には副作用もあります。二つのレーティングを足す形式であるために、作成されたばかりのキャラクターでもある程度多くのダイスを振る必要がありました。
 第4版ではだいたい10~20DPの間にテストのボリューム・ゾーンが設定されています。オフライン・セッションで十数個のダイスをじゃらじゃらと振る作業は楽しい(誤解のないように言えばとても楽しい)のですが、一方でダイスがテーブルから転げ落ちたり、縦に重なったりして、一回のテストごとにそれなりに時間を取られるシステムでもありました。
 もうひとつの問題として、第4版では技能の上限が6~7だったため、キャラクター作成時にほぼ完成状態となり、成長させる楽しみが薄いというのは明らかな弱点でした。

 この2つの問題を解決するべく導入されたのが「リミット」という新しい概念です。

 リミットはヒット数の上限です。いくら振るダイスの数が多くても、リミットを越えたヒットは勘定に入れません。これにより、とりあえず「ぱっと見てリミットを越えていそうだったら、それ以上ダイスの目を数えなくて良い」ことになりました。椅子の下に入り込んだダイスは後で回収すれば良くなったのです。
 リミットの導入によって、第5版では技能値を拡張する余地が生まれました。20~30DPでも壊れないシステムになったことで、技能値を12~13まで伸ばせるようになったのです。第5版のボリューム・ゾーンは以前より後ろにずれて13~23DPくらいのところにあります。

 数学的にも、13DPというのは「エッジ・ポイントを使ってリミットを無視した時」と「振り直しにエッジを使った時」の期待値が釣り合うところにあり、おそらくは最初からそう設計されています。だいたい13DPでリミット6くらいのところから、「リミットを無視してダイスを積み上げ、瞬間的な爆発力に賭ける」か「リミットを増やして堅実に振り直しで安定させる」かでキャラクターの成長戦略が変わって行きます。
 実際にキャラクターの固有リミットは普通に作ると5~7くらいのところに集中し、11DPくらいから「ヒット数が上限に達して無駄が出始める」ため、これは意図されたバランスだと思われます。

 第5版ではキャラクターの能力を伸ばすためにDPとリミット(あるいは【エッジ】)の双方に投資する必要があり、大量のカルマや新円を持つキャラクターでも余らせることが少なくなりました(上級ルールブックありきの話ではありますが)。第5版はリミット・ルールによってデザイン・スペースの拡張に成功したと言えます。

 第5版からリミット・ルールを取り除くプランも検討したことはあるのですが、相当な改造を覚悟しなければならないことが分かっています。少なくとも技能+能力値によるダイスプールはかなり圧縮する必要があり、例えば「能力値÷3」を「能力値ボーナス」として技能値に加えてダイスプールにするなど「シャドウランというよりも国産TRPGに近いシステム」にならざるを得ないという結論に達しました。

 ハウス・ルールにも限界はあるのです。

いいなと思ったら応援しよう!