プレスター・ジョンを探して(その3)/『シャドウラン 5th Edition』コラム16
01 前口上
この記事は新紀元社から発売されている『シャドウラン 5th Edition』日本語版ユーザーに向けた言い訳です。
記事の閲覧・利用に関する前置きは下の記事を参照してください。
02 振り子の揺らせ方
前回までのコラムで、『シャドウラン 5th Edition』のゲーム・バランスをなぜいじらなければならないかをお話ししました。もちろん、あなたがまだ『シャドウラン』を遊んだことがないか、あるいは単発のセッションしか行わずキャラクターを引き継ぐこともないなら、今までの話は忘れてしまっても構いません。
今から話すことは、キャラクターを継続して長期間(数十セッション以上)遊び続けるための指針です。前提として、この指針は「GMのモチベーション維持を第一に」考えています。このため、GMが憶えなければならないようなルールは最小限とし、各プレーヤーが自然に「そこそこバランスの取れた選択肢」を選ぶようし向けるものになっています。逆に言えば、プレーヤーがルールに習熟したり、データを取捨選択することに前向きでないなら、余計なおせっかいにしかならないでしょう。
03 機会平等の確保
キャラクターの役割はできる限り尊重されるべきです。GMがPCをなるべく平等に活躍させられるようにするためには、どうしてもいくつかのルールの調整が必要であり、残念ながらその多くはナーフ(弱体化)になってしまいます。
(1). エッジ・ポイントの調整
PC間の【エッジ】能力値に大きな差があると、エッジ・ポイントの多いキャラクターが少ないキャラクターの活躍の機会を奪いやすくなります。これに対処するためには、「エッジによるダイスプールの追加を下方修正する」(高【エッジ】のキャラクターのダイスプールが、専門家キャラクターのダイスプールより多くなるケースが減少します)、「エッジ・ポイントの一部をチームで共有する」「エッジ・ポイントの回復ルールを柔軟に活用する」といったやり方があります。
テストプレイ・チームでは最低でもこれらの調整のいずれかひとつは導入する必要があると考えています。
(2). 魔法系能力の弱体化
覚醒者はおしなべて成長時の投資効率が良く、収束具やイニシエイトの【階梯】に投資することでダイスプールを伸ばしやすい傾向にあります。このため、呪文や精霊にエッジ・ポイントをつぎ込むことで簡単に他のキャラクターの役割を奪ってしまえます。残念ながら、全体的に弱体化せざるを得ないという結論に達しました。
具体的には、精神操作呪文の【フォース】によるペナルティの廃止、収束具によるダイスプール修正の制限、精霊を召喚する際の抵抗ダイスプールの増加、魔法やクリッター・パワーに対する抵抗ダイスの全体的な底上げ、原質の使用方法の変更、カルマ効率のよい魔法系資質の取得制限などです。
(3). 非覚醒者向け成長要素の拡張
覚醒者を弱める一方で、マンデインのキャラクターには長期的な成長の道を整備しなければなりません。入手値が12を越える装備品や、ベータ等級以上のインプラントの提供、資質の取得制限の緩和といった基本ルールの解釈の範囲内でできることには限界があります。根本的な解決には、『Sixth World Companion』に掲載された超人階梯ルールの導入が必要です。
(4). 格闘技スタイルのテコ入れ
『ラン&ガン』で導入された格闘技のルールは主に非覚醒者キャラクターや近接戦闘型アデプトの成長要素として設けられているにもかかわらず、投資効率の悪さからルール全体の複雑さに対して得られるプレイ体験が見合わないものになっていました。
このため、近接戦闘ルールを見直すと共に、読者参加企画として「新東京の格闘技スタイルを作ろう」を開催し、広くアイデアを募ることとしました。この結果については後日掲載される企画記事をご参照ください(お待たせしてすみません)。
04 近接戦闘のプレスター・ジョンを探して
テストプレイ・チームでは長らく近接戦闘の“プレイフィール”が問題になっていました。多くの場合、近接戦闘に特化したキャラクターの近接攻撃ダメージは致死的で、狙われたキャラクターは能動防御や全力防御でダイスを積んでダメージを回避していました。1回の攻撃(イニシアティブ・スコア10点分)に対して支払われる代償はイニシアティブ・スコア5~15点分であり、ゲーム・バランス上の釣り合いは取れていますが、一方でそれはプレーヤーが期待する効果ではないことは明らかです。
バースト射撃やフルオート射撃のような、防御DPに大きなペナルティをかける要素の追加が求められていましたが、「ちょうどよい塩梅」を探す旅は苦難の道のりでした。これまで述べてきた通り、まさにそれは近接戦闘ルールにおける“プレスター・ジョン”であるからです。
重要なことは、そのペナルティがプレーヤーからもっともらしく見えることと、プレーヤーの選択が常にそればかりにならないようにすることです。最終的にそれが選択されるのだとしても、「他の選択肢にも魅力があるように『見える』こと」が大切です。最初に試みられたのは、「新東京の格闘技スタイルを作ろう」企画に寄せられた技法のひとつで、源298さんの作品「最速の突き」(DV-1と引き換えに防御DP-4)でした。
残念ながら、この技法は原案のままでは強すぎました。DVへの修正が-2だろうと-4だろうと、近接戦闘型キャラクターはあらゆる犠牲を支払ってダメージを致死まで積んでしまうのです。それくらい、防御DP-4の価値は大きなものでした。
次の試みとして、部位狙いの一種として相手の防御にペナルティを与える選択肢(テストプレイ中の名称は「部位狙い(体幹)」)が設けられましたが、これも他の部位狙いが使われなくなる、部位狙いのペナルティを打ち消す技法や資質への投資が必須になり、カルマの負担感が大きい等の反対意見がありました。
その次に考えられたのが、簡易動作などの軽微なコストで「相手に防御-2程度のペナルティを与える」状態の追加です。しかしここで立ちはだかったのが「メモリー問題」でした。『シャドウラン』では戦闘時にかなり多くの情報を記憶している必要があります。プレーヤーは、自分が積み上げたダイスの数を数えるのは得意ですが、「相手に与えているペナルティ」のことはよく忘れます。それも防御へのペナルティという重要な部分で「忘れやすい」のは非常に問題でした。エッジ・ポイントを使うかどうかの判断にも関わりますし、忘れてダイスを振ってしまうと巻き戻すかどうかでまた混乱を招くのは明らかです。少なくとも、一時的に発生している状態ではなく、キャラクター・シートの記載やデータ、あるいはマップ上の配置など「記憶に頼らなくても、盤面を見ればそうとわかる」ものから起算できるペナルティでなければなりません。この時点で、リーチ以外の選択肢はほぼ残っていませんでした。
元々、近接戦闘ではリーチによる防御テストへの修正があり、最大で5点の修正が加わります。この修正を単純に二倍にすれば、バースト射撃やフルオート射撃にも匹敵するものと思われました。しかし、そうすると今度は「技能がなくても、とりあえずリーチ2の杖や3の槍(Collapsible Spear、『Hard Targets』収録)を持ち歩く」ランナーが増えると予想されたため、テストプレイされたバージョンのルールでは、「リーチの2倍か技能値のどちらか低い方をダイスプール修正とする」ルールになりました。
しかしながら、このルールはテストプレーヤーから物言いがつきました。間合いルールの下では、前衛に立つサムライなどのキャラクターはクリンチ/組み伏せに対する〈素手戦闘〉と共に〈刀剣〉か〈棍棒〉の技能を高いレーティングで習得する必要があり、負担感が大きいとされたのです。
最終的に、このルールはごく単純に「攻撃側のリーチより防御側のリーチが低い時、防御テストに-3のダイスプール修正」というものになりました。そもそも、防御DPが大きくなりすぎることが問題なのだから、リーチによってプラスの修正がつくべきではなく、必要なのは-3のダイスプール修正であって-4や-5でないのなら、-3に固定するべきだったのです。追い求めた形とはいくぶん異なりましたが、このささやかな成果をもって我々のプレスター・ジョンとするべきでしょう。
この他、「クリンチ」を技法を必要としない戦闘動作とし、ルール上は攻撃として扱わないなどのテコ入れが行われ、最終的な結論とされました。これがあなたにとってもプレスター・ジョンであることを願っています。