ナーフの道/『シャドウラン 5th Edition』コラム07
01 前口上
この記事は新紀元社から発売されている『シャドウラン 5th Edition』日本語版(以下SR5J)ユーザーに向けた雑文です。
記事の閲覧・利用に関する前置きは下の記事を参照してください。
02 ナーフの道(Path of Nerf)
2021年はコロナ禍まっただ中にあり、セッションの場を現実空間からマトリックスに移行して高カルマ環境でのゲーム・バランスの影響を調べていました。そして皆さんのご想像通り、魔法能力者とそうでないキャラクターとの格差が激しくなり、ルールによる是正が必要という判断に至りました。
『シャドウラン』の醍醐味はたくさんの六面体ダイスを一斉に振るところにあるのですが、その一方であまりに多くのダイスをシステムが扱いきれないという問題があります。例えば、テストに緊張感をもたらすグリッチのルールは、振るダイスの数が多くなれば多くなるほど発生しなくなります(8DP以上では1%を切ります)。セッション中に1回くらいグリッチが発生して「盛り上がる」ことを期待するなら、3~7DP程度でのテストが一番多くなるようにしなければなりません。
しかし、実際にプレイヤーがそのような低DPでプレイするのは、主に「アーキタイプを使った初期プレイ」に限定されます。普通、プレイヤーはなるべく多くのダイスを振りたいのであって、ヒトケタDPでグリッチに怯える生活がしたいとは考えていません。全体的にDPを削減する様々なプランを検討し、能力値の統廃合、ダイスプールの算出式の変更、グリッチ発生の条件変更といった大きくゲーム・ルールを変えることも考えましたが、結論としてグリッチ・ルールを救済することはプレイ体験の向上に繋がらないと判断しました。プレイヤーはグリッチしたい訳ではないのです。
そこで、目標を「50セッションに耐える(週1回ペースでセッションして1年継続できる)こと」に切り替え、非魔法能力者と魔法能力者が仲良くセッションするための方法を探ることにしました。ポイントは2つです。
・魔法能力者の最大ダイスプール数の削減
・非魔法能力者の成長先の確保
03 魔法能力者の弱体化
通常、サイバーウェアなどで身体強化するストリート・サムライなどのキャラクターは、だいたい20DPくらいで頭打ちになり、それ以上にDPを伸ばそうとするとカルマ/DP効率がかなり悪化します。一方、魔法使いは呪文、精霊、収束具といった「DPを伸ばす余地」が複数残されていて、30DPくらいまでは効率良く伸ばしていくことが可能です。最初に手をつけるべきはこの部分だと考えました。
収束具によるダイスプールに上限をつけ、精霊による魔術の支援をチームワーク・テストに変更することで、おおむね23~25DPあたりで頭打ちになります。これ以降、魔法使いがDPを伸ばすには技能や【魔力】に対して大きなカルマと時間の投資が必要で、成長はマンデインのキャラクターと同等に緩やかになっていきます。テスト・チームのキャンペーンに参加している僕のキャラクターは7~11DPを失うことになりましたが、尊い犠牲であったと考える他ありません。
一方で、(ミスティックでない)アデプトについては直接的な弱体化は避けました。前線で被弾することが前提のキャラクターを弱めることには慎重であるべきでしょう。
04 非魔法能力者の成長パス
非魔法能力者の成長パスを整備することは急務でした。回答のひとつは、資質の25ポイント制限を取り払うことです。通常、非魔法能力者は技能や能力値の訓練に時間を要し、カルマが余りがちになります。
『シャドウラン』の伝統の一部である訓練時間ルールを変更する前に、まずは「カルマの使い道」を増やすことが必要であると考えました。そこで、
キャラクター作成後に(2倍のコストで)25ポイントの制限を超えて資質を取得できるようにします。元より、魔法能力者にはMagic Mastery(『Forbidden Arcana』)という形で制限に含まれない資質が用意されており、余計に不均衡を招いていました。Magic Masteryに相当するデータを非魔法能力者用に拡張するより、単純に資質の取得制限を取り払い、既に豊富に用意されている資質のデータを利用できた方が良いと判断しました。
しかしながら、資質の制限解除には副作用もあります。一部の資質は明らかに「どんなキャラクターでも取らない理由がない」程度に強力であり、一部の資質はカルマや新円などのリソースを節約できる点で他の資質より優位でした。これらの資質を制限なく取得できてしまうと、高成長環境では取得している資質に差が出ないといった懸念があります。
そこで、主にリソースの節約を可能にする資質の取得に制限をかけることにしました。テスト・チームのキャンペーンに参加している僕の別のキャラクターは資質の半分を失うことになりましたが、尊い犠牲であったと考える他ありません。
なお、資質の制限方法については今後もテストを重ねて調整していく予定です。
05 格闘技のテコ入れ
次に手をつけたのは「格闘技」ルール(『ラン&ガン』掲載)のテコ入れです。格闘技の技法はおおむね5カルマ/DP程度の効率しか持っておらず、魅力的な投資先とは言えない状態になっていました。ここに大きく手を入れ、長く苦しい訓練期間を乗り越えて技能を伸ばしたキャラクターが報われるように調整しました。
アデプトやその他の魔法能力者も恩恵を受けることはできますが、カルマ・コストと訓練時間の兼ね合いで魔法能力との両立が難しくなるように意図されています。巨大な両手剣を構えたトロールが装甲車の分厚い装甲を貫通できるようになることには賛否両論あると思いますが、元より近接戦闘には大きなリスクと「そもそも当たりにくい」というルールの足枷がある以上、多少強くても問題ないと現状では考えています。
ただし、テスト・チームからは既に「この組み合わせが強すぎる」とか「こっちの技法もテコ入れしてくれ」などの報告が上がっており、今後も継続して調整する予定です。