vol.4 STEM教育とメイカー教育(創客教育)
深センのSTEM教育を理解するときに同時にメイカー教育(創客教育)というキーワードも出てくるのでそのあたりをまずは整理しておきます。
2013年ごろから深センで始まったSTEM教育の研究の中で課題の一つとなったのは「STEM教育」という名称そのものです。日本語の場合そのまま「STEM」あるいは「ステム」を採用するということでなんら問題ないのですが、中国の場合、名称にアルファベットを採用すること自体、中国語の歴史からしても稀なことです。 スターバックスなら「星巴克」というように漢字に置き換えつつ、音や漢字から受ける印象などから漢字の名前をつけます。
STEM教育とは何かを説明する場合、まずのその名称そのものの「STEM」の説明からする必要があります。その時、Scienceの「S」、Technologyの「T」、Engineeringの「E」、Mathematicsの「M」の頭文字から成り立っているという説明だけで済めばいいのですが、「Scienceは科学という意味で、Technologyは技術という意味で・・・・」と説明した場合に、多くの日本人の場合は、「日本人は英語が話せない」とは言いつつも、英単語くらいは理解できる教養レベルがあるのに対して、中国の場合は完全に英語がわからない層も一定数いるため、単純に「STEM」という名称を採用できないという事情も抱えています。
そのような背景から、単純に「STEMはじめます」というわけにはいかないのが中国の事情でした。しかしながら、名称の議論と並行して、その中身についてもしっかり議論がなされています。
STEM教育からメイカー教育へ、そして再融合
STEM教育というのは「教科横断型の学習教科の1つである」(※定義は様々です)という観点から、深センのメイカー教育とSTEM教育の方向性は大方一致するものの、完全には一致するものではありません。
深センの発展の重要なプレイヤーはメイカー(創客)であり、深センには彼らが自由に活動できる数多くの メイカースペース(創客空間)が存在しています。
それに加えて深センには華強北という巨大電気街、電子部品街があるため、いつでも安価に部品を調達でき、メイカースペースでいつでもモノづくりができるという環境が整っています。
こういった環境下でアイディアを実際にプロトタイプとして簡単に作ることができる第3の産業革命とも言われるメイカームーブメント(創客活動)こそが、深センの今後の発展を加速させるイノベーターを育成するという観点から、アメリカのSTEM教育を単純に輸入するのではなく、モノづくりをベースにするSTEM教育として深センのメイカー教育(創客教育)を形成することになります。
2016年には、市政府による「深圳市中小学創客教育課程建設指南」「深圳市中小学創客教育実践室建設指南」というメイカー教育の理念、手法、目標、メイカースペースの設置方法が記され資料が公開され、2017年には深セン市政府は公立小中学校にメイカースペース(創客実験室)を設置することを発表し、まずは100箇所のメイカースペースの学校への設置を進めるなど、市の予算から数億円規模の予算をメイカー教育に割いて教育環境も一気に整えるに至ります。
こうして2018年現在、公教育においてメイク(創客課)の授業が
実践されている状況ですが、今となっては「STEM」という名称も認知されるようになり、民間企業や公教育の場においてもSTEMが使われています。一般の認識としては「STEM教育=メイカー教育」という状況にあるようです。
ただし、中身としては「STEM教育=メイカー教育」ではなく、深セン独自のメイカームーブメントに立脚した未来のメイカー、イノベーターを育てるためのSTEM教育、メイカー教育を推進しているというのが深センにおけるSTEM教育、メイカー教育の現状です。