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Vol.5 STEM教育の実践(科技教育フェアー)

深セン市南山区主催の科技教育フェアー(深セン市南山区第二十届科技節)が深中南山創新学校で開催され、参加者に同行することができました。

実施会場になった深中南山創新学校は2017年に開校したばかりの学校で、その名称は、「深中」つまり深センのトップ校である「深セン中学(高校)」の兄弟校である「創新学校(イノベーションスクール)」ということになり、日本風に言えば「深セン中学イノベーションスクール南山校」といったところでしょうか。深セン中学、南山区政府そしてドローンで有名なDJIがこの学校の開校に携わっていて、全国から優秀な先生を集め、その名の通り未来のイノベーターを育てるパイロット校という位置づけの学校です。

このフェアーは、南山区の公立校でSTEM、ロボティクスなど科学技術(科技)にまつわる学びに普段から取り組んでいる生徒たちが集い、日ごろの成果を発表する場です。深センのSTEM教育、プログラミング教育はまだ義務教育ではなく、テスト段階なのですが、このような発表、評価の場も設けるなど、教育の枠組みについても考えられています。

フェアーは、以下の3部門が同時進行で行われました。

 1.ロボット競技大会
 2.メイカー作品展(STEM、創客作品展)
 3.情報技術、STEM、創客、ロボット教師研究会

1.ロボット競技大会

ロボット競技大会という枠組みですが、以下の項目で構成されていました。
1.ロボット対戦(相撲)
 1m角のテーブルの上で2台のロボットが対戦します。形状は自由で大き さの制限だけがあり、テーブルからロボットが落ちたら負けというルール で競う。
2.ロボット制作、プログラミング大会(Arduino使用)
 Arduino(基盤)とロボット(車両型)のパーツと 課題を当日現場で配布 され、ロボットを組み立て、プログラミング(scratch)をして、タイムを 競う。
3.ドローンレース
 DJIのプログラミング可能なドローン「Tello」を使用し、当日発表された コースで人が操作するのではなく、プログラミングによる制御でタイムを 競う。
4.バーチャルロボットレース
 パソコンのバーチャル空間でレゴブロックのようなパーツでロボット(車 両型)を組み立て、当日発表されたバーチャル空間コースでタイムを競  う。
5.Scratchプログラミング大会
 当日与えられた課題を指定された材料を元にScratchでプログラミングす る。
6.ロボットダンス大会
 深センのUBTECHに代表される人型ロボットを音楽に合わせて踊らせるダ ンス大会。

惜しみなく使用される科技教材
ロボット競技大会全般で感じたことは、フェアー運営サイドも参加学校もロボットやドローンなどの教材・資材に対して惜しみなく予算をつぎ込んでいるということです。ドローンレースではDJI社のTello、ロボットダンスではUBTECH社のAlpha2がそこら中で動き回っていました。DJI、UBTECHともに深センに拠点を置く企業であるため、世界中どの地域よりも豊富な教材を容易に安価に入手できる環境にあります。

私はこのフェアーを見学する直前に日本の教育関係者にプログラミング教育に対する課題について意見交換をしていました。その結果、「お金がない」「時間がない」が共通の意見であったことを考えると、深センと日本の科技教育の環境の差は歴然です。

また、このフェアーで見かけた教材の中には、 makeblock、micro:bit、LEGO、Arduinoなどの模倣品もかなり使われていました。私は深センで入手できるSTEM教材、プログラミング教材は大方網羅していると自負していましたが、全く見たことのないメーカーの教材が多数使用されていることには驚きました。普段目にすることのできる製品は氷山の一角で人目につかない教材もまだまだあるのだと思います。

ここで私は模倣品を批判したいのではなく、逆にこの模倣品への中国人の抵抗のなさは学ぶべき点があると思っています。makeblockのような深センのSTEM教育のトップブランドが存在している場合、その模倣品の販売に対して日本社会は寛容ではないでしょうし、さらにその模倣品を使う学校は2流の烙印を押されるでしょう。しかし、中国のこれらの模倣品を販売する企業は、資材の材質や機能を変更することで、学校に安価で導入しやすい製品を提供できているという点では、正しい判断をしています(特許を侵害していない前提で)。

一般のプログラミング教室、ロボット教室なら何を提供しても構いませんし消費者が自由に選べばいいのですが、日本の2020年プログラミング教育必修化を考えると、「学校がコスト面、人材面のいずれの側面で検討しても導入可能」という視点での教材の開発が今後のポイントになってくると感じました。深センの教材会社は学校に採用されるための製品を作り出すことを考えています。それはビジネスとして成立させることが第1であり、よりよい製品を作ることは2の次だという、日本人 とは違った判断基準で物事を進めています。

学生たちの技術面のレベルの高さ
 その場で配布されたパーツを組み立て、プログラミングをして課題をクリアできるレベルに達している中高生の参加者が100人は超えていて、その参加者は学校毎の予選も突破してきているとのことだったので、深セン市の小中高生のロボティクス、プログラミングの技術は他地域を凌ぐレベルにすでに達していると言っていいと思います。日本でも始めればすぐに追いつけるレベルとも言えると思いますが、とにかく実践していることそのものがアドバンテージで、担当する先生たちもここでノウハウを蓄積することができますし、教材会社もよりよい製品の開発の研究の場にもなります。

学生がSTEM、ロボティクス、プログラミングを学ぶ意義の一つは、「テクノロジーに触れる」ことそのものにあると思います。さまざまなサービスや電子機器がどんなテクノロジーを利用しているかを理解することは、イノベーションを生み出す基礎知識、基礎体験となり、知識がない、体験のない人からはイノベーションは生まれにくいはずです。そういう観点からも深セン市がイノベーターを育成するために科技教育を推進、実践していることは非常にアドバンテージのあることで、2020年を待たずにやれることも多いにあるのではないかと思います。

メイカー作品展については、生徒たちに非常に興味深い話も聞くことができたので、次回まとめます。


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