子宮頸がん検診「異常なし」で安心してはいけない理由
子宮頸がんは日本で年間約1万人が罹患し、約3000人が死亡しており、患者数・死亡者数ともに近年増加傾向にある。しかも、20-30代といった若い年齢や子育て世代で広がりつつあり、海外ではその恐ろしさからマザーキラーと呼ばれている疾病だ。日本でもその危機感が広まり、女性の健康診断では大抵の場合必須項目で医師が子宮頸部をこすって細胞を検査するという細胞診が簡単に受けられるようになった。そして検査結果としてNILM(異常なし)、ASC-US(意義不明な細胞の異常)、LSIL(軽度異形成に相当する細胞の異常)、HSIL(中度異形成、高度異形成に相当する細胞の異常)、SCC(扁平上皮がん)等、9段階のうちの評価を受け取るわけだが、NILMと記載されていれば安心というところだろう。しかし、この落とし穴に引っかかってはならない。何故なら、驚くことに一般的に出回っているHPV感染、および子宮頸がん検査の情報は間違っている場合があるからだ。
1. ハイリスクHPVは自然治癒されないケースが多い
子宮頸がんのほぼ全てのケースはHPV(Human Papilloma Virus)の感染によって引き起こされる。HPV感染自体は珍しいウィルスではなく、100種以上存在し、性交経験のある女性のうち8割が感染していると言われているほどありふれたウィルスである。しかし、中には癌化する可能性があるハイリスク型が存在し、このタイプに感染した場合は注意が必要になる。クリニックのサイト等でHPV感染について調べると、HPVは8-9割の場合ハイリスク型であっても自然に免疫によって体内から排出されるということが書いてある。そして、自然治癒できず、持続感染した場合でも、癌化する恐れは極めて低いということも記載されていることが多い。しかし、現実はそう甘くはない。HPVは免疫によって駆除するのは難しく、なんらかの治療が必要となるケースもある。また、ハイリスクHPV感染者のうち0.15%が癌化しているとのデータが存在するが、ありふれたウィルスである以上、その数値は決して小さい数字ではない。
2. HPV感染イコール異形成
異形成と聞くと、HPV感染した人のうち何割かが異形成に進む可能性があるというイメージを持たれるかもしれない。しかし、そうではない。HPVに感染したこと自体が上皮内の異形成なのである。したがって、細胞診の検査で異形成の疑いがでた場合、それはHPV感染という意味合いをふくむ。異形成自体が悪いかというと、そうとは限らないようだ。異形成はいわばホクロのようなもので、高度異形成であっても癌化さえしなければ、生涯それがあることで困ることはない。もちろん、妊娠出産も可能である。
3. 細胞診NILM(異常なし)であっても高度異形成、末期がんの事例がある
HPV感染者の半数以上はNILMと診断される事実が存在する。つまり、実際には異形成なのに検査結果では異常なしという結果である。細胞診の検査は、異常が出た場合は信頼性が高いが、異常なしと診断された場合は本当に正常なのかは不明という大きな落とし穴が存在する。また、進行が早く、予後が悪いとされる子宮頸がんの腺がんはその位置からも細胞診では気づかれず、自覚症状が現れたときには手遅れといったケースもあった。さらに、コルポスコープという子宮の出口を拡大視する内視鏡を使って子宮頸部組織を採取する組織診で高度異形成が見つかっても、同じ日の細胞診が異常なしとなったケースは多々存在する。したがって、健診では頚部の細胞診だけではなく、HPV検査で感染の有無を調べることが非常に重要である。ヨーロッパの医療先進国では、むしろこの細胞診を完全になくし、HPV検査のみの検査方法をとっているほどなのだ。
4. HPV陽性の場合、癌化するか判断するにはHPVの型の特定をせよ
ここでさらに重要な情報を提示しておきたい。数あるHPVの種類の中でハイリスクといわれる癌を引き起こす可能性のある型についてこれまで少し触れてきた。このハイリスクとされるタイプは現在15種類存在し、中でも16型18型は最悪タイプと言われ、ハイリスク型の中でも特に癌化しやすい上(子宮頸がんの70%を占めている)、頚部以外にも咽頭、肺、舌、食道、肛門も癌化させる可能性がある。また、細胞診では発見しづらい腺がんは18型が多く、したがって、型を特定することで癌が起こりうるのか、どういう進行速度でどの箇所がリスクかを推測立てることが可能となる。残念ながら、この型の特定までを行っているクリニックは少なく、そして自費で2万円ほどの検査費用を払う必要がある。
5. 高度異形成は必ず円錐切除が必要は間違い
異形成を悪とみなし、それを絶対的に排除しようという試みは必ずしも正しい判断とは言えない。異形成は癌のように転移したり、それだけで体に問題を起こすことはないからだ。だが、高度異形成が見つかれば、ただちに円錐切除(頸部の表面を切除るする手術)を勧める病院は少なくない。円錐切除は子宮口の狭窄または閉鎖、妊娠の際の早産のリスクという大きなリスクを背負う以上、慎重に決断する必要があるが、日本ではHPVの型による判断ではなく、高度異形成はひとまとめに癌の一歩手前のステージとして、取り除く治療方法が一般的である。繰り返しになるが、高度異形成であっても、ハイリスク型でなければ癌化する恐れが低いため、何よりも型の特定が重要なのだ。
6. 成人でも16型18型の感染がなければワクチンを摂取せよ
ここでワクチンの予防効果について触れておきたい。現在日本で摂取可能なワクチンは2価ワクチン(サーバリックス)、4価ワクチン(ガーダシル)、9価ワクチン(シルガード9)の3種類である。サーバリックスは16型18型、ガーダシルは16型18型に加え、尖圭コンジローマ予防目的の6型11型も含む。さらにシルガード9はガーダシルに比べ型33型45型52型58型HPVに対するワクチンを含み、日本に多いと言われている52型と58型(2023年時点)の予防も期待できる。HPV16型18型に対するHPVワクチンの感染予防効果は92%、31,45,52型に対する交叉防御効果も68%とされいる。これは日本における子宮頸がんの約80%に関与するハイリスクHPV型の感染を予防できる可能性を示唆しており、かなりの効果が期待できるということだ。しかし、ワクチン接種後に生じたとされる多様な副反応に関する報道があり、厚生労働省から積極的勧奨の一時差し止めが発表されたことにより、一時は70%程度まで上昇していた接種率が、1年足らずで1%未満まで激減し、対象者は無料でワクチン接種をうけることができるのに2023年現在でもほぼ0%の状態が続いている。WHOのワクチン安全諮問委員会が、各国の報告を解析し、2013年6月以降繰り返しHPVワクチンの安全性声明を発表している。摂取の時期は性行為がある前のできるだけ早い年齢すなわち中学生が好ましいが、成人であっても該当の型への感染がなければ、摂取することで効果が期待できることになる。各々の身体を自分で守るため、国に判断を任せるのではなく、自らリサーチをして正しい決断をしていく必要がある。少々余談になるが、海外では子宮頸がんワクチンとは呼ばれておらず、癌予防ワクチンとして認識されている。
7. 性器を洗う効果
ワクチン以外にHPVの感染を予防できる方法は何か。これが一番簡単な方法であるが、男性が行う必要がある。HPVはウィルスである以上、コロナと同じく界面活性剤に弱い。したがって、せっけんを使って洗浄するということだけでも、ウィルス除去となり、予防効果がある。ただし、男性器に限り、女性では難しい。
以上、一般的に知られている情報とは異なる、または比較的認知されていないことを述べてきた。これを読んでいただいた方の参考になれば、幸いである。