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【読み物】ガイドナンバーをガイドします
【読み物】ガイドナンバーをガイドします
・写真の歴史は科学の歴史とも言えます
・優れた光学レンズを作るには物理学者と化学者とエンジニアが揃う必要がありました
・ガイドナンバーを知っていればフラッシュの光の届く距離が計算できます
・3灯のフラッシュの合成ガイドナンバー、計算できますか?
理系な方には当然のお話と思いますが、写真というのはたいそう科学的なものです。撮影手法や芸術表現とは別に、写真の歴史の中には科学的な楽しさもたくさん詰まっています。というのも、簡単に紹介すれば、あの著名な物理学者のニュートンもレンズの研究をしていました。純粋な物理運動を研究がイコールで天体の運動の観察であった時代、物理学者にとっては天文学は欠かせない学問分野でした。その天文学のためには望遠鏡が必要で、望遠鏡を作るためには、光学が発達する必要がありました(光学自体は、11世紀のアラビアに「光学」という著書があります)。
ニュートンは「ガラスレンズなんて物理的に色にじみ(色収差)があるからダメ!」といって、色消しレンズの構想を断念しました(そして反射式望遠鏡の研究をしたのです)。時代が進み、フラウンフォーファーが物理的にその色にじみを解析しました。その理論をもとに、顕微鏡レンズに色消しの手法を導入した物理学者が、かのエルンスト・アッベです。話が大きくそれますが、アッベを知らない方のために一段落割きましょう。
ドイツはイエナの機械職人(所謂マイスター)であるカール・ルードリッヒ・ツァイスと、光学ガラスの研究で博士号を取得した研究者フリードリヒ・オットー・ショットらが運営する光学機器工場。その研究所長に招かれて、上記の色消しレンズの理論を完成させたのが、エルンスト・アッベです。「ツァイスのレンズがいいね」なんて言葉は、カメラ界隈どこでも聞きますが、そのレンズの光学的な基礎を構築したと言って良いほど、アッベの功績は大きいのです。卓越した自然科学者であるアッベの理論があり、アッベの理論通りの光学ガラスを均一に作ることのできるショットがいて、ショットのレンズを一分の隙もなく組み立てるツァイス工場長がいた。カール・ツァイスとは、そういう会社でした。
話を戻すと、カメラやレンズ、また感光剤(フィルム)が発展する過程は、自然科学の発見と、テクノロジーの進歩の過程です。多くの科学者や技術者が、理論的または技術的な研究をおこなってきました。カメラの解説書になにやら理屈が多い理由とも言えましょう。
そのような小難しい理屈は、先人の知恵によって噛み砕かれて、今日では科学に縁遠い人にもわかりやすい説明になっています。元は科学論文ないしは科学的な文献なのですから、そのままでは一般人には理解不能なレベルです。そのように噛み砕かれた実用的な数字の一つが、フラッシュのガイドナンバーです。やっとテーマにたどり着きました。
ガイドナンバーとはなんでしょうか? カタログや、説明書には、GN、G.N.、G.No.などと書かれることもあります。単純に言えば、フラッシュの光の強さのことです。
ガイドナンバー = フラッシュの光の到達距離(m) x 絞りF値 (一定のISO感度)
このように定義されます。ISO値を指定しない場合は、基準であるISO100であることが多いのですが、昨今のようにデジタル化によって機種ごとに基準(最低)ISO値が変わる状況下では、ISO値は併記すべきでしょう。
さて式の意味は簡単です。絞りF値は、レンズの明るさを決める数値で、F値が大きいほど暗く絞った状態です。あるフラッシュのガイドナンバーが、たとえば20ならば、F値が4とき、5m先まで届きます。F値を8まで大きくする(暗くする)と、2.5mしか届かなくなります。フラッシュの最大発光量が一定ならば、光を良く通す(F値の低い)設定の方が、遠くまでフラッシュの光が当てられるという理屈です。
ISO感度による違いはどのようになるでしょう。簡単に言えば、ISO100から、200になれば、ガイドナンバーは1.4倍(ルート2倍)されます。さらに200から400になれば、もう一度ルート2倍されて、ISO100の時の2倍になります。つまり、感度の数字が4倍になれば、GNは2倍になります。大きなフラッシュを用意するよりも、ISO感度を上げるほうが、ずっと効果がある場合も少なくありません。ただし(ここが難しいのですが)ISO感度を上げるときには、環境光(その場の光。定常光やアベイラブルライトとも呼びます)の影響も、同じだけ強まります。この記事では多くは語りませんがこのルールが結構厳しいのです。
またフラッシュによっては、使うレンズの画角(焦点距離)に応じてGNが変化するものがあります。一般に、広角側になるほどGNは小さくなり、望遠側になるほど、GNが大きくなります。フラッシュが放つ光を、広い範囲に分散させなくてはいけない広角側の方よりも、狭い範囲に集中できる望遠側の方が、より明るいためです。一般にいって望遠レンズで撮影するときは、被写体が遠いことが多いので、この機能の有無は馬鹿にできません。
さらに複雑なことを言えば、2つのフラッシュを炊いたときに、GNをどう計算したら良いでしょうか。これは豆知識として知っておきたいことすが、それぞれのGNの数字を二乗して、その二つの数を足してから、ルートを取ります。理系の人ならば2つのGNの二乗和の平方、と一言で伝わることでしょう。さてここまではフォトマスター検定1級的な知識です。
続いて3灯のフラッシュの合成ガイドナンバーはどう計算したら良いでしょう? 「3灯でもそれぞれ二乗して足してから平方を取るのか、それとも、それぞれ三乗して足して三乗根を取るのか」ともっともらしく(意地悪に)聞いてみると、フォトマスター検定1級の方でも『おおっそれは……』となりやすいです。
この問題に丸暗記は必要なく順番に計算すれば簡単です。3灯のフラッシュA,B,CがあってそれぞれのGNがp,q,rであるとき、AとBの合成GNはroot(p^2+q^2)。さらにそこにCを合成すると考れば、root(p^2+q^2+r^2)なので3灯以上でも二乗和の平方が自明です。
そもそもなぜ二乗和の平方なのかを物理の方向から考えると、フラッシュの光の広がりを考慮して面積の次元(2次元)で和をとってから、光の距離による減衰を計算する係数に戻すためにルートを取っているという処理になります。3次元の出番がありません。
現実的には多灯ライティングで同じ方向に直射するようなフラッシュワークはほぼありません。あくまでも、ここまで読んでしまった(こういうお話に乗れる)方に捧げる豆知識ということで。でもたまには良いですよね。
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1日に何発フラッシュを焚いたことでしょうか (モデル:上野未菜さま)
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