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マークの大冒険 フランス革命編 | もうひとつのフランス史 王妃の暗号書簡


ルイ16世とマリー-アントワネットのヴァレンヌ逃亡事件を発端としたパリ民衆の暴動。夫妻は民衆の圧力によってヴェルサイユからパリに強制転居されるに至った。結果、ヴェルサイユ宮殿は、ものけのからとなった。そんな中、宮殿の庭園をマークが一人歩いていた。彼は枯れた噴水の中に足を踏み入れていく。噴水の水出口には小さな窪みがあった。マークは、その窪みに印章指輪を差し込む。この印章指輪は、ルイ16世の死に際に受け取ったものだ。ルイ16世曰く、地下室にはブルボン家が隠し続けていた財宝があるという。マークがセットした印章指輪を押し込んで時計周りに回すと、噴水の下から地響きが起きた。機械仕掛けのカラクリが、鍵によって呼び起こされたのである。音が鳴り止むと、マークの目の前には地下階段が現れていた。

ヴァレンヌ逃亡事件
ルイ16世とマリー-アントワネットがパリの民衆による革命を恐れてフランスからの亡命を図ったが失敗した事件。夫妻及びその家族は、マリー-アントワネットの祖国であるオーストリアに亡命予定だった。強力な軍を持つオーストリアのフランツ1世の加護の下、身の安全を確保するはずだった。当初は順調に行っていたものの、駅馬車の乗り合わせが上手く行かず、国境付近のヴァレンヌで立ち往生していたところで民衆に逃亡を悟られて宮殿に強制送還された。以降、民衆は王族に対してより一層強い不信感を抱くようになり、フランス革命の引き金のひとつとなった。


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ブルボン家の紋章
白百合を3つ飾ったシンボルがブルボン家の紋章として扱われた。この紋章は彼らの王朝で発行されたコインなど、至るところで登場する。本貨は1716年、ルイ15世の治世に発行されたエキュ銀貨である。ブルボン家の紋章を中央に配し、周囲にはルイ15世の称号と発行年が記されている。ルイ15世は最愛王と呼ばれたフランス国王で、非常に多くの女性を愛したことで知られる。中でもポンパドゥール夫人とデュ・バリー夫人は彼の最もお気に入りの存在であり、権威を奮った。ルイ15世はルイ16世の祖父にあたる。ルイ15世は王妃マリー-アントワネットを非常に気に入っていた。彼以外の多くの人物は、彼女を「オーストリア女」と呼んで侮蔑した。


「ルイ、ありがとう。ボクは見つけたぞ」

マークはそう言って、蝋燭を片手に暗い地下に続く階段を下っていく。彼が階段を降り切ると、目の前には分厚い鉄の扉があった。扉には指輪型の鍵穴があいていた。

「まさかこの鍵は、錠前造りが好きだったルイが造ったのか?」

錠前造りが趣味のルイ16世
ルイ16世の趣味は、錠前造りと狩りだった。錠前造りは王家前代未聞の趣味であり、妻のマリー-アントワネットさえ、その理解には苦労したことで知られる。


マークは鍵穴に指輪をセットする。すると、どこからかカチッという音が響いた。マークが扉を押すと、鉄の扉は重い音をたてながら開いていった。

「すごい......これがブルボン家の力なのか」

マークの目の前に広がる地下室には、おびただしいほどの金銀財宝が敷き詰められていた。

「ローマ以来だな、マーク」

宝物庫にはマークだけのはずだが、彼以外の声が響く。財宝の山から片眼のアミュレットがぼんやりとした青白い光を放って浮かび上がり、言葉を発している。

「やっぱりここにいたんだね、ホルス。キミを取り戻しに来た」

「久しぶりの再会というわけだ」

「キミの力がまた必要だ」

「俺の眠りを妨げるつもりか?」

「あれから1800年も離ればなれになったが、ボクらの契約自体はまだ切れていないだろう?」

「またウェスタの怒りを買うぞ」

「そうかもしれないね」

「はぁ......お前には幾つも貸しがある。それをきっちりと返して貰わないとな」

「すまない。結局、以前約束したキミに渡せるものは何もなくなってしまった。アムラシュリングも日本刀も、ローマでのウェスタとの戦いで全て壊れてなくなってしまった」

「アムラシュリングなら何故かこの宝物庫に一緒にあった。バラバラだったが、地下室での生活は退屈過ぎてな、俺が元通りにした」

「嘘だろ!?」

「俺は神だ。できないことなどない。それに比べて生身のお前は何もできないからな。一時的にアムラシュリングは貸してやってもいい。だが、これはもう俺のものだ。いいか?貸すだけだぞ。そして、もう二度と壊すなよ。全ての財宝は元来、始祖であるエジプト王家のものであることを忘れるな」

「ホルス!!キミって奴は、サイコーだなっ!!!!」


アムラシュリング
マークがかつて使用していた古代イランの魔法の指輪。模様の柄が秘める能力に対応している。所有者の身の安全を守る強力な効果を発揮する。全部で3本存在し、2点は骨董市で手に入れ、もう1点は大ピラミッドのトトの隠し部屋で入手した。


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アムラシュリング・インペトゥム(攻撃の指輪)
周囲に十二本の刀剣を展開した後、個々を自由に飛ばすができる。また、飛ばした刀剣と使用者の位置を入れ替えるブレードホッパーが可能。ただし、入れ替わった刀剣は飛来時の加速度が低下する。


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アムラシュリング・ディフェンシオ(防御の指輪)
周囲に十二枚の盾を展開し、使用者を防衛する。自在に展開することが可能であり、縦方向に並べて展開することで強度を増したり、3×4の長方形状に展開して巨大な盾を造り上げることも可能である。


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アムラシュリング・グラウィタス(重力の指輪)
重力を操ることが可能ゆえに「この世の王たる指輪」と呼ばれる最も強力な指輪。その自由度の高さ、破壊性は使用者に強大な力を与える。クフの大ピラミッド内に位置する知恵の神トトの隠し部屋(ジェフティの宝物庫)に長らく封印されていた。


アムラシュ文明
古代イランの騎馬民族が形成した青銅器文明のひとつである。イランのカスピ海に隣接するギーラーン州の都市アムラシュの名から採られた。アムラシュ文明の遺物は、前900〜前800年頃の地層から出土する。

中でも青銅製の指輪は著名な出土品のひとつである。これらは山岳地帯に形成されたネクロポリス(集合墓)の横穴式墳墓の中から副葬品として出土した装身具であり、同心円の上に幾何学模様を描くのが特徴である。当時の富裕層に属する男性に捧げられたもので、宗教的な世界観を示した幾何学文様ないし家紋と思われる図柄を共通して採用している。



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ボクはマリー-アントワネットに忠誠を誓う侍女から、王妃とフェルセンの往復書簡の一部を借りた。主人から手紙を持ち出しことがバレればこの侍女は即解雇だが、彼女はそのリスクを犯してまでも王妃を救いたかったようだ。熱狂的な忠誠心である。こうした臣下が数多くいたからこそ、王朝は続いたのだろう。それで、ボクが侍女を通じて手紙を取り寄せた理由は、解読にある。というのも、用心深いマリー-アントワネットは手紙のやり取りの内容を傍受されないよう、暗号を用いて行っている。彼女が手紙のやり取りをし、情報収集をしている相手はアクセル・フェルセン伯爵である。二人は古くから愛人関係にあった。ルイ亡き後、より精神を崩した王妃の心の拠り所はフェルセンだけだった。

彼らの暗号は複雑であり、判読はそう容易いものではない。そして、解読に至るまでには暗号を解くための鍵が必要となる。とはいえ、暗号解読はこの冒険家マーク様の十八番である。大ピラミッドのトトの隠し部屋の暗号を解き、宝物庫に一番最初に足を踏み入れたのはボクである。彼らが使用する暗号も情報と時間をしっかり取れば、必ず解読できる自信があった。

まず二人の暗号は、共通の本に登場する単語を鍵としている。二人が同じ本を持っていなければならないため、手に入りづらい本ではなく、著名で入手が容易なものであると推測できる。また、本のタイトルが同一でも、版が異なると指定ページの単語にずれが生じ、暗号は成立しなくなる。この点には注意したい。

解読作業の結果、二人が共通して利用している書籍は、モンテスキューの『ローマ人盛衰原因論』だった。彼らはこの書籍の27ページの「contraire(仏語で反対の意)」という単語を暗号の鍵としていた。

ローマ人盛衰原因論
1734年出版。原題は "Considérations sur les causes de la grandeur des Romains et de leur décadence"。モンテスキュー(生没:1689〜1755年)による書籍で、古代ローマが滅亡した理由についての考察書。本書でモンテスキューはローマの滅亡原因が共和政を廃し、帝政に移行したことにあると言及している。これはフランスの絶対君主制を否定するものであり、当時のルイ14世の政治方針を批判する挑戦作だった。マリー-アントワネットとフェルセンは、実際に本書からの単語を暗号の鍵として使用していた。他者からの解読を防ぐ意図で鍵は定期的に変えられていたため、本書以外にも複数の書籍が鍵として使用された。


そして、文中ではマリー-アントワネットとフェルセンはお互いを偽装ネームで呼び合っている。ジョゼフィーヌ、ブラウン夫人、B夫人。これらは全てマリー-アントワネットを指す。リニョン。これはフェルセンのことである。リニョンは、フェルセンが修学のために18ヶ月間滞在した地である。彼にとって思い出の地であるのだろうか。いずれにせよ、リニョンはフェルセンを意味している。

また、コードネームでも彼らは呼び合うことがある。小文字の「o」はマリー-アントネット、大文字の「R」はフェルセンのコードネームである。要人たちもコードネームで示される。大文字の「B」はロシア女帝、小文字の「f」はスペイン王、大文字の「I」は敵対する英国、小文字の「n」は夫のルイ16世を示している。これらは二人が政治の話題に特に注意を払っていたためだろう。万が一手紙が誰かの手に堕ち判読されても、情報がなるべく漏洩しないようにする策である。

そして、各所に登場する「AMA」というモノグラムは「Axel ama Marie-Antoinette」の略称であり、すなわち「アクセル・フェルセンは、マリー-アントワネットを愛する」を意味している。本当にお熱いものだ。モノグラムで愛のメッセージをぶっ込んでくるとは。見ているこっちが恥ずかしくなる。

さあ、彼らが使用している暗号については完全に解読ができた。あとはマリー-アントワネットに手紙を送るだけだ。おっと、ここでは彼女をジョゼフィーヌと呼んでおこう。



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タンプル塔で幽閉状態にあったマリー-アントワネットに侍女たちの暗躍で手紙が届いた。彼女はフェルセンからの手紙と思って開封したが、その奇妙な文章に彼でないことをすぐに悟った。

タンプル塔
フランス語ではタンプル、英語ではテンプルと呼ぶ。テンプル塔とは、テンプル騎士団によって建設された要塞である。要塞ゆえに防衛と幽閉者の管理がしやすかったため、マリー-アントワネットはここで軟禁された。


「故n(ルイ16世)の友人にして、隠れし者アモンの遣い。n(ルイ)からの伝言をジョゼフィーヌ(マリー-アントワネット)に届ける」

アモン
古代エジプトの男神アメンのこと。その名の意は「隠れし者」であり、新王国時代から国家神として絶大な崇拝を集めた。発音の再建が難しい古代エジプト語は、子音と子音の間に「e」の音を挟んで発音する便宜上の読み方を行う。この慣例に従えば「Ỉmn」は「アメン」となるが、フランス人は「アメン」という発音が苦手なため、「アモン」ないし「アンモン」と呼称した。このことを知るマークは手紙内でフランス式の発音に合わせ、敢えて「アモン」と表記している。


「この手紙の差出人は誰?書体はフェルセンのものではない。ただ、私たちが考案した暗号システムが用いられている。暗号上の私の名がジョゼフィーヌということを知るのはフェルセンだけのはず。それに、書籍は包みに混ぜて手紙とは別に駅馬車で送った。そして、書籍には鍵として使用する単語に直接目印を付けておいた。なのに、この手紙を書いた人物は暗号キーを把握し、私たちの暗号を解読するどころか、完璧にトレースして手紙を書いている......!?」

マリー-アントワネットは、目の前の手紙にひどく困惑していた。

「良い報告と悪い報告がある。まず良い報告からだが、キミがn(ルイ16世)に対して何か気を負うことがあるとすれば、それは気にすることはない、と。n(ルイ16世)はキミに対して満足しており、不満はない。そして、リニョン(フェルセン)のことも好きにしていいとメッセージを受け取った。そして、悪い報告だが、次はキミの番だ。民衆は革命によって286名の首を落とすと宣言している。その処刑リストの筆頭にキミの名がある」

「嘘でしょ......?私の名が処刑リストの筆頭?」

「リニョン(フェルセン)と共にキミの救助に向かう。決行は一週間後。タンプル塔に閉じ込められたキミたちを奪還する。見張りがより堅固で、脱出までの時間があまりない。怪しまれないよう身軽で地味な格好を願いたい。この時ばかりは、王妃としての振る舞いに背く恥をしのんでくれ」

「フェルセンと共に迎えに来る?この人は一体誰なの?」



To Be Continued...



マークの豆知識

フランス王妃マリー-アントワネットとその恋人フェルセンの間では幾度も書簡のやり取りが交わされた。最も印象的な書簡は、やはりマリー-アントワネットがフェルセンに宛てた最期のメッセージだろう。彼女からの最期のメッセージは「さようなら、私の心はあなたのものです」だった。あまりに直球過ぎる一文が胸を打つ。37歳、パリのコンコルド広場にて彼女は激動の生涯を閉じた。

マリー-アントワネットの最期のメッセージが綴られた書簡の紙片は、フェルセンの日記の1795年3月19日のページに貼り付けられていた。二人の往復書簡はフェルセンによって意図的に隠蔽された部分もあり、判読できない箇所が幾つかある。文字の上からインクで塗り潰されているが、ルーペを使えば読める部分もある。

マリー-アントワネットとフェルセンの往復書簡には暗号が用いられている。二人は自分たちが所持する共通の書籍に登場する単語を暗号を解く鍵とした。書籍の版が異なると指定されたページ数の該当単語がずれるため、同一の版である必要があった。暗号キーの書籍のひとつにモンテスキューによる『ローマ人盛衰原因論』が使用された。

マリー-アントワネットとフェルセンは、薬剤師に特別に調合させた薬やレモン汁を使用して文字を浮かび上がらせる手法も使用した。特別な薬は調合が手間な上、夫のルイ16世もその薬を所持していたため使用が中止された。雑誌やパンフレットの活字の隙間に文字を書き込む暗号法など、二人の間で様々な暗号手法が試された痕跡が窺える。

二人の書簡の文章は暗号化されている上、人名が偽装されており、コードネームも使用されている。例えば、暗号書簡に登場する「ジョゼフィーヌ」や「ブラウン夫人」という名がマリー-アントワネットに該当する。政治の話題には特に細心の注意が支払われた。それゆえ、政治の要人にはアルファベット一文字のコードネームが用いられた。



Shelk 🦋

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