【本】世界の終りとハードボイルドワンダーランド 村上春樹
ミステリーでも、大どんでん返しのストーリーでもない。なのに、ラストにこれほど衝撃を受けた本が他にあるだろうか? いや、無いと思う。
主人公のリアルと意識のふたつの世界が並走し交互に描かれる構成で物語は進む。リアルの世界と言ってもそこは村上春樹の描く不思議な世界観なのだけど、そこで主人公は不条理な事柄に飲み込まれていく。その飲み込まれ方というか、巻き込まれ感が、架空の世界なのにまるで現代社会の理不尽なシステムと人との関係性のよう。現代の政治ってまさにそうじゃないですか?ハイ、消費税あがります。ハイ、社会保険料あがります。でも出産は自己負担、一時金では賄えません。納税額が高いほど保育園の入園順序は繰り下がります。え…⁈ なんで⁈
驚くのはこの本が書かれたのが1980年代ということ。バブル最中にこの価値観、世界観を持っていた村上春樹はやっぱりすごい、すごすぎるよ。今読んでも、いやむしろ今さらに納得するシステムの不条理への冷徹な視点が描かれている。
システムに対し無防備だと人はどうなってしまうのか。そして意識の中では自由でいられること。
でも自由とはなんだろう?それで、良いのか?
そんな問いを、私は受け取った。答えは… 人によって異なるだろうと思う。
驚きのラストはというと。きっと今よりも起承転結のセオリーみたいなものがガッチリあって、正義のようなところに着地するのが普通だったんではないかと思う時代に、主人公自身と意識が、そうなっちゃって、かつそれを選択するってアリなの…⁈ という展開。ひとことで書いてよいのか迷うけど… ある意味逃げることを肯定する姿勢なのです。立ち向かわない、受け流す姿勢と言った方がピンとくるかな。
当時、村上春樹がバッシングされていたというのもなんかわかるというか、80年代にとっては未来の感覚すぎて、何じゃこりゃあって思う人がいたのだろうなあ。
今のほうがしっくりくる感覚、そして人にとってはむしろ普遍的に大切な感覚。不条理な世の中に納得いかないあなた、それに対してどういう態度でいたらよいのか迷うあなたには、いちど読んで欲しい本です。
世界の終りとハードボイルドワンダーランド
1985年 村上春樹