【世界羊旅】 -56カ国を旅して、出会った287品の羊肉・ラム肉料理の中から選んだマイ・ベスト10-
こんにちは。
世界中の羊肉料理を求めて、世界一周してきた行方(なみかた)と申します。
羊文化は約1万年の歴史を持つと言われ、その起源はメソポタミア(西アジア)にあると考えられています。ここで誕生した羊たちは、人々と共に海を渡り、各地の気候や風土、歴史、生活に根ざしながら多様な品種へと進化を遂げました。今では、南極大陸を除くすべての大陸に羊が生息し、その種類は1000種を超えると言われています。
また異文化との交流を通じて、羊肉の調理法は多様化し、世界各地で独自の羊肉料理が生まれました。
私はその文化を肌で感じるために、アフリカから南米まで世界56カ国で羊文化や羊肉料理を体験してきました。
今回は、これまで世界各地で味わった287皿の羊肉料理の中から、特に印象深い10品をランキング形式でご紹介します。
※ランキングは著者の個人的な食体験に基づいており、全ての羊肉料理を網羅しているわけではありません。
※本記事では、世界各国の羊肉料理を幅広く紹介していますが、必ずしも厳密な定義に基づいているわけではありません。たとえば、ネパールのチョエラは一般的には水牛肉や山羊肉で作られる場合もありますが、本記事では羊肉料理として取り上げています。カレーも牛肉や豚肉、鶏肉など、様々な食材で作られるように、料理の分類は固定的なものではなく、多様な側面を持つことをご理解ください。
第10位:イランの「キャレパチェ」
キャレ・パチェは、羊の頭部と足を煮込んだ料理。イランでは朝食で食べられることも多く、夜通し8時間~12時間ほど煮込むそう。歯がなくても食べられそうなほどトロトロに煮込まれたお肉は、しっかりとした旨味があり、食べ応え抜群。朝からパワーがみなぎる一皿。
羊頭を使った料理は世界各国で食べましたが、キャレ・パチェが群を抜いてナンバー1です。
第9位:ネパールの「マトン・チョエラ」
多民族国家ネパールの中でも、食文化が豊かなネワール族。その伝統料理「マトン・チョエラ」は、簡単に言うと羊肉のスパイス和えです。
まず、ターメリック、塩、マスタードオイルでマリネした羊肉を焼きます。その後、直火で焼いて旨味を凝縮させたトマト、そして生のネギ、ニンニク、生姜、クミン、ティムール・ペッパー、チリと焼き上げた肉をしっかりと混ぜ合わせて完成。
蒸し米を潰した「チウラ」と一緒に食べます。
一般的に「マトン」といえば羊肉を指しますが、ネパールではインドと同様に山羊と羊の区別が曖昧です
第8位:キルギスの「ラグマン」
ラグマンは、中央アジア全域で親しまれている麺料理です。羊肉を煮込んだトマトベースのスープに、手打ち麺を絡めていただきます。トマトとスパイス、そして羊肉が織りなす深い味わいに、もちもちした麺が絶妙に絡みます。ラグマンはそのバリエーションも豊富で、つけ麺や焼きラグマンなど、さまざまなスタイルで楽しまれています。
第7位:スイスの「ヴァレーブラックノーズ」
スイス・ヴァレー州原産のヴァレーブラックノーズシープ。マッターホルンの麓、標高2600メートルほどのところで羊たちに遭遇。「世界一かわいい羊」と称されるほどの愛くるしい風貌とは裏腹に、肉質は赤身主体で筋肉質。澄んだ味わいの中で、香り、コクが穏やかに広がります。
第6位:レバノンの「カフタ・ナーイエ」
レバノン風ラムのタルタル。
新鮮なラム肉に、スパイスやハーブを練り込み、濃厚でねっとりとした食感に。玉ねぎやハーブがアクセントとなり、程よいスパイス感がラムの香りを引き立てます。
第5位:メキシコの「タコス・デ・バルバコア」
バルバコアは、テキーラの原料となるアガベの葉で羊肉を包み、地中で一晩蒸し焼きにした料理。そのルーツは、マヤ文明の「ピブ」という調理法にあると言われています。アガベの葉に包まれ、地中に埋められた羊肉は、風味や旨味を閉じ込めたまま完璧に調理され、口にした瞬間、ほろほろと崩れるほど柔らかく、サルサとトルティーヤとの相性も抜群です。15世紀頃に新大陸に渡ってきた羊とマヤ文明の知恵が融合し、誕生した素晴らしい羊肉料理です。
第4位:ニューヨークの「伝説のマトンチョップ」
130年の歴史を誇るニューヨーク・マンハッタンの老舗「キーンズステーキハウス」。そのシグネチャーメニューが「伝説のマトンチョップ」です。コロラド産の羊肉を数週間ドライエイジングし、500℃のブロイラーで焼き上げたステーキは、旨味と香りが凝縮され、外は香ばしく、中はジューシー。まさに「伝説」と呼ぶにふさわしい美味しさです。
第3位:スペインの「コルデロ・レチャル」
コルデロ・レチャルとは、母乳のみで育った生後20日~40日の仔羊の肉です。スペインの中でも、カスティーリャ・ラ・マンチャ産は極上品とされています。
筋肉が十分に発達していないため、肉色は白っぽく、母乳由来のミルキーな香りが広がります。
第2位:アルゼンチンの「パタゴニアンラムのアサド」
アサードとは、アルゼンチン式バーベキュー。背骨とあばら骨の付け根をナイフで1本1本切り、観音開きにして、鉄の十字架に 貼り付けます。そして塩とニンニクと水で作ったサルムエラを塗りながら、南極ブナを使用した薪火でじっくりと焼き上げます。強風が吹き荒れる乾燥地帯のパタゴニアという酷な自然環境を生き抜いた仔羊の生命力を感じさせる、力強い味わいです。
アサードにはアルゼンチン発祥のチミチュリソースが欠かせません。
第1位:南アフリカの「カルーラム」
かつては偽物が横行していたほどブランド力の高いカルーラム。
乾燥地帯のカルー地方に自生するハーブを食べて育った羊の肉は、独特の風味を湛えています。
ワーゲニンゲン大学の研究によると、カルーラムの肉からはローズマリーや柑橘類のような香りを持つ揮発性化合物が検出されました。この特異な肉質は、カルー地方のハーブが羊の体内で複雑に変化することで生まれた、まさに自然が育んだ芸術品のような羊肉です。
56カ国を旅し、287品の羊肉料理を味わった中で、最も印象に残った10品をご紹介しました。しかし、筆者が食べてきた羊肉料理は、長い歴史を持つ羊文化の一端に過ぎません。羊は、人類の歴史とともに歩み、それぞれの土地で人々の暮らしに深く根ざしてきました。この旅を通じて、羊肉は単なる食材ではなく、文化や歴史、そして人々の心を繋ぐかけがえのない存在であることを改めて実感しました。
今回のランキングが、皆さんの羊肉への興味を深めるきっかけになれば幸いです。
これからも、世界中の羊文化を探求し続け、その魅力をみなさまにお伝えできればと考えています。