うちの犬さんた
うちの犬はさんたといいます。
さんたはクリスマス前に、白いひげでうちに来ました。
小さくて円な目と鼻を結ぶ三角形が、ボウリングの球のようでした。
一度も噛まないような、のんびりとしていてとても気の優しい犬です。
さんたは走るのが好きです。
一番足が速い弟よりも速く走ります。
家中を駆け回ると、なかなかつかまえられないのです。
さんたは散歩が好きです。
朝晩欠かさず、散歩に行きます。
特に兄と行く長い散歩が好きです。どこまで行ってきたのか、1時間くらい帰ってこないこともあります。
さんたは跳ねるのも好きです。
カーペットに引っかかりながら、ぴょんぴょん跳ねます。
さんたはおしゃべりも好きです。
家族みんなで話していると会話に入ろうとしてきます。
さんたは歌も歌います。
鍵盤ハーモニカの音を聞くと、音に合わせて歌います。
さんたは食いしん坊です。
果物なんかを食べていると、自分にもよこせと強請ってきます。ひとつあげて気に入ると、もっとよこせというのです。
さんたはお年玉まで強請ってきます。
お正月にみんながもらえるものを、自分だけもらえないのを不満そうに嘆いていました。
翌年は祖父母からお年玉をもらい、満足気でした。
さんたは写真が好きです。
自分が撮られるのが好きみたい。かならずキメ顔です。
さんたの目はもう見えていません。
写真を撮ろうにもこっちを向いてくれません。
来年のお年玉はもらえるかなあ。
ご飯は一昨日の朝から、水ももう飲めません。
歌を歌った声はもう出なくて、ときおりか細くうめくだけです。
おしゃべりもしてくれません。
跳ねてくれません。
一昨日からもう立てないので散歩にも行けません。
もう、二度と一緒に走ってもくれないのです。
丸まって眠ることも出来ず、ぐったりと横になったままです。力の入らない手足でたまに起き上がろうとしてるのか、もしくは痙攣しているのか、たまにばたばたします。
わたしは今晩には自分の家へ帰るけど
今日の夕方には妹が来て、明日には兄も来るよ。
わたしたちきょうだいの末っ子がさんたです。
小学校へ入学したばかりのころ、
さんたに引きずられて散歩していた弟は高校生です。
兄もわたしも妹も、もううちを離れていました。
うちには、母と、弟と、さんただけです。
ずっと会いに来られなくてごめんね。
ずいぶんちいさくなっちゃったね。
5月18日、さんたは冷たくなりました。
行ってらっしゃい。
5月20日、さんたはうんと小さな壺で帰って来ました。
おかえりなさい。
さんたの話はこれでおわりです。