6/26_執筆制限時間10分小説【120 杉藤 俊雄(すぎとう としお)は××したい】続く
山中崎の地形を簡単に描くと、〇にYの字の川が走っている絵になるだろう。ぐるりと山に囲まれ、上流からながれている二つの川が合流し、一本の川へとなって下流へ流れていく。
杉藤本家の屋敷は、Yの字の上部に位置する山の奥深く、車が通れない、舗装されていない狭い道を、一時間ぐらい歩いたところにあった。
三月の下旬だというのに、山の中にはまだ冬の気配が息をひそめて、雪の香りがする冷たい風を運んでくる。霜でじゃりじゃりとする足元、未だ枝に緑の芽をつけない木々は眠ったように静かだ。
変化の乏しい、寂しい景色の中で、その屋敷は存在感を放っていた。
「疲れた」
目的地に到着したことが分かって、僕はぽつりと零した。僕の隣を歩いていた大川くんは「でっけぇ」と感心した様子で屋敷を眺めて、僕の父と母は疲れを見せずに微笑ましそうに僕たちを見る。
時代劇のセットのような門扉をくぐり、砂利が敷き詰められた日本庭園に出ると、立派な松の木と色鮮やかな鯉が泳ぐ大きな池があった。
「ん、あれ?」
大川くんの声で、僕は池の傍で二人の子供がいたのに気づいた。
この二人が、父の言っていた子どもたちだろうか。
投稿時間:9分50秒