1300冊の本を読んだ結果、人間の特性とは何か②

前回の記事で、NHKスペシャル取材班著「ヒューマン~なぜヒトは人間になれたのか~」で紹介されていた京都大学霊長類研究所でのチンパンジーの研究(人と最も近い種であるがゆえに人間との差異が浮き彫りになる!)を参考に、人の性質とは、物事を交換できる能力であると説明した。
https://note.com/shee_shown/n/n65f79896beeb

実は、このことは、20世紀を代表する哲学者、思想家であり、文化人類学者でもあるレヴィ=ストロースの言論も参考に考えている。

内田樹著「寝ながら学べる構造主義」から引用すると、レヴィ=ストロースは親族の構造についての研究で下記のように結論している。

“「ほとんどの親族システムにおいて、ある世代において女を譲渡した男と女を受け取った男のあいだに生じた最初の不均衡は、続く世代において果たされる『反対給付』によってしか均衡を回復されないという事実を言っているのである。」(レヴィ=ストロース『構造人類学』)”

続いて内田樹の解説です。
“キーワードは「反対給付」です。これは要するに、何か「贈り物」を受け取った者は、心理的な負債感を持ち、「お返し」をしないと気が済まない、という人間に固有の「気分」に動機づけられた行為を指しています。この「反対給付」の制度は(夫婦愛や父性愛を知らない集団があるというのに)、知られる限りのすべての人間集団に観察されます。”

これは前回の記事でも述べた返報性の原理のことを言っているのではないでしょうか。

しかもレヴィ=ストロースは文化人類学者です。文化人類学者は当時、アマゾンなどの未開の部族の中に入って一緒に生活するというフィールドワークを行います。様々な人類社会でフィールドワークした結果、共通する性質としてこのことを結論付けたと思います。

“贈与された者は返礼することによっていったんは不均衡を解消しますが、返礼を受けた者は再びそれを負い目に感じ、その負債感は、返礼に対してさらに返礼するまで癒されません。ですから、最初の贈与が行われたあとは、贈与と返礼の往還が論理的には無限に続くことになります。
内田樹「寝ながら学べる構造主義」

これはまさに前回記事で紹介したチンパンジーができなかったことではないでしょうか。
(→500枚のコイン実験:コインを入れることによって相手の空間にリンゴをお互いに渡し続けることができなかった)

“何かを手に入れたいと思ったら、他人から贈られる他ない。そして、この贈与と返礼の運動を起動させようとしたら、まず自分がそれと同じものを他人に与えることから始めなければならない。それが贈与についての基本ルールです。”

“それがこれまで存在してきたすべての社会集団に共通する暗黙のルールなのです。このルールを守らなかった集団はおそらく「歴史」が書かれるよりはるか以前に滅亡してしまったのでしょう。”

“ですから、もし「人間」の定義があるとしたら、それはこのルールを受け容れたものと言う他ないでしょう。”
内田樹「寝ながら学べる構造主義」

このように、人間の交換性については、レヴィ=ストロースの時代から言われていました。
それは文明社会とされる当時の西洋だけではなく、“未開”の社会とされるアマゾン奥地の原住民でも、親族構造の研究を通じて、同様に見られる現象だということです。

つまり、この性質が、人類共通の特性なのではないかということです。そしてそれは、人類の繁栄に寄与している一つの要因となっているはずです。

次回は、“交換性”と人類の繁栄について考察していきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?