気持ちの箱と鍵|「デッドエンドの思い出」よしもとばなな(読書日記)
この本が存在しているのは、奇跡だと思う。
ばななさんの描く話はどれも信じられないくらいにいいけど、デッドエンドの思い出は特に特別だ。
無数の要素が絶頂期に入った一瞬のその瞬間を箸で摘んだがごとく、とにかく奇跡だって言わせてほしい。
「デットエンドの思い出」は、五編の短編小説だ。日常に起こりうる範囲の辛いことや悲しいことが起こる。
別れが決まっている人と恋が始まってしまうとか、子供の頃に友達と別れたこととか、身体に悪いものを摂取してしまって体調が悪いとか、婚約破棄とか。
ほんと月並みな言葉で恐縮なのだけど、そばにある幸せがこころに染みるようになる。真冬のカイロみたいな。それがどれほど豊かなことか!
ごめん、デッドエンドの思い出に関しては読んで体験したことが不思議な領域なのでうまく説明出来ないや。読んでみてください。
自分の身に起こったことでないのに、デジャヴを感じる本ってあるよね。
私にとっての「デットエンドの思い出」はまさにそれで、行き場のなかった気持ちに言葉っていう箱が出来て昇華(浄化とも言える)されていく感覚になる。
私はクリスチャンではないけれど、この本を初めて読んだときはミッション系の学校に通っていた。聖書の授業にてイエスが与えた言葉で人々が救われた話を退屈に聞いている日々だったけど、デッドエンドの思い出を読んでからは「あーわかるなあ」って共感出来るようになった。
サボりがちだった礼拝にもたまに行けるようになったのは全部、この本での体験があったから。直接的に神様のことが書いてあるわけじゃないし、こう生きなさいって教えが書いてあるわけでもない。
この本の中で起こる些細な会話とか出来事が、なるようになっていることが起こるのを受け入れさせてくれる。
スピった話をしてしまったかなあ。
とにかく温かくて、愛に溢れたすごくいい本だよって言いたかったの。
私の人生にこの本があるというのは、自分が家族や友達から貰った愛情を思い出すための鍵みたいなことです。
辛い、悲しいで心がいっぱいになりそうだったら本だなって思う。