抱かれて目眩

透き通る川のせせらぎ


少し耳障りな風

暑苦しい太陽が距離を縮めてる


古臭いベンチで私はトウモロコシを齧る

前髪から滴ってくる汗が鬱陶しい


「変な顔」




上から聞こえてきたちょっとやんちゃな声



「.....何ですか」



「退屈そうな顔してんね」


彼はそう言いながら私の麦わら帽をぺんっと弾く


、、、何この人


「トウモロコシ、いらないならオレにくれよ」


「、、、は?」



「別に、要らなくないんですけど」



「トウモロコシ食ってても美味そうな顔してねーんだもん」


「私の中では美味しいって思ってるかもしれないじゃないですか」


「あーあー、わかったわかった」


ちぇっと言いながら足元にある小石を蹴る彼


「、、そんなに欲しいんですか?」




なんかそう言われると欲しくねーな」





面倒くさ


「あんた、どこから来たの」





「東京です」




「帰りたくならない気持ちにさせてやろうか」




「は?」



「まぁまぁ、着いて来いって」


彼は緑缶の炭酸ジュースを零しながら乱雑に飲む


顎から滴る水滴は艶やかで煌めいていた


「..あんまジロジロ見ないでくれる?」



はぁ、



「あんたは絶対ここを忘れない」


「俺があんたを忘れても、あんたが俺を忘れても」


「その場所と、風、時間、空気、体が全部を記憶してる」



「ばーちゃんが言ってた」


ズンズン進む


彼はこっちを振り向かずに


一言一言重々しく意味ありげに呟く



なにかを私に訴えるように



「へぇ、」




何とか汲み取りたくて簡単な返事しかできない私


かきわける茂みに



足を踏み外しそうな獣道


こんな場所、人を殺める以外に使うことあるのだろうか。と思わせるほど


むさくるしくて


造形物で囲まれながら育った私には少ししんどかった


「ん」


厳しい坂道を老人の如く登る私に手を差し伸べる


「ありがとう」




意外と優しいとこあるんだ。


彼の頬っぺたは暑いせいなのか少し火照っていた


「俺の事」




「覚えてねーの?」


ボソッと聞こえる声



よく聞こえない


「なに?」



「なんも言ってねーよ」


「可愛くないやつ」


「もうつく」


山道を抜ければ




海と山が一望できる崖の頂上にいた



びゅうびゅう、風が吹く


何か言いたげな風




空気









「帰りたい?」


「帰りたくないよ」


だって、



とても綺麗なんだもの

写真とかに残しておきたくないくらい

私の瞳と脳に刻み込んで独り占めしたいくらい。

あなたの熱帯びた指も

火照った顔も


意地らしいとんがった愛おしい口も



ちょっと悪い目つきも



何も変わってないんだね




「私、わかったよ」


「あっそ」

「わ」



引っ張られた腕のあとに



じんわりと広がっていく体温




目眩がしそう


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?