
ヨルダンでぼったくられた話。
その日はヨルダンの首都アンマンから早朝のバスに乗って、ペトラ遺跡まで行く予定だった。
バスは朝の6時半に出発だったので、少し余裕をもってホテルを朝の5時半に出た。まだ辺りは真っ暗で、その時は2月ということもあり、とても寒かった。
早朝とはいえタクシーなんてすぐ捕まるだろうと思っていたが、誤算だった。車は全く走っていなかった。
しばらく歩いていると、なんと奇跡的にタクシーがやってきた。バス停まで1.5ディナール(当時は240円)で行ってくれるという。
バス停に着いて、1.5ディナールのお会計をした後に、タクシー運転手が「もし50ディナール札を持ってたら、両替してやってもいいよ」と言ってきた。
不思議なことを言うな?と思ったが、50ディナール札は当時8,000円ほどに相当し、正直こんな大きな額のお札をもっていたところで使い勝手は悪く、やはり旅行では小さいお札や小銭をたくさんもっておきたかったので、50ディナール札をくずしてくれるのは嬉しいことだった。
タクシー運転手に50ディナール札を渡すと、彼は小さい金額のお札の束をこっちに渡した。
20ディナール札、10ディナール札、5ディナール札、1ディナール札がいくつか組み合わさっていた。
「なるほど、わかったぞ。いろんな種類のお札を組み合わせることによって、たし算が苦手な人からお金をごまかすっていう手口に違いない。両替したと思わせて実は50もないんじゃないか?僕は騙されるもんか。」
そう思って、慎重にお札を数えた。まだ外も暗かったせいで、車内も暗く、「なるほどこの暗さも人を騙すにはいい条件なんだな?」とか考えていた。
結果、ぴったし50ディナールだった。
「なんだ、騙すつもりはなかったのか。普通にいいやつか」と思った。
すると、タクシー運転手が、
「おい!!さっきお前が渡したのは50ディナール札じゃなくて、5ディナール札だぞ!!」
確かにタクシー運転手がの手には5ディナール札が握られていた。
僕はその瞬間、「あ、間違えた」と思って、再度財布の中を探した。「あれ? 50ディナール札を持ってたと思ったんだけどな、どこかで使ったかな」と思いながらも、「あ、僕50ディナール札もってなかったわ、ごめんな!」と言って、お札の束を返して、5ディナール札を受け取って、タクシーを降りた。
相手のことを疑ってしまった恥ずかしさと、50ディナール札と5ディナール札を間違えてしまったことの恥ずかしさと、もってもいない50ディナール札を持っていると思ってしまっていた恥ずかしさから、その場から逃げるようにタクシー降りた。
バスの出発までにはまだ時間があったので、そのあたりを歩きながら考えていたときに気づいた。
「やっぱり僕、昨日50ディナール札をATMで引き出したわ」
ペトラ遺跡の入場料が高いので、そのためにわざわざお金を引き出していたんだ。忘れていた。ああ、やってしまった。最悪だ。騙された。
これからヨルダン旅行のメインのペトラ遺跡にいくというのに、まったく楽しめる気がしない。
肩を落として歩いていると、たまたま近くの施設の警備をしている警察官に出会った。
とにかくこのことを誰かに話したいと思ってその警察官にすべて話した。どうやら車のナンバーを覚えていたら、警察としてもなんとかしてやれたが、そうでないならどうしようもないとのこと。
「近くにATMはあるかな?」と聞いたら、「お前ほんとにお金ないんだな。じゃあ5ディナール(当時800円)やるよ」と警察官は僕に5ディナールを渡した。
「いや、いいよ、返すよ」といっても、受け取ってくれなかった。
こんな優しい人もいるのに。いったいどうなってんだか。
近くのATMでお金を引き出し、バスでペトラに向かった。