ライフル射撃の才能

こんにちは。小山です。
ライフル射撃のコーチをしながら
競技用ジャケットを作ったり、
射撃場の運営をしています。

今日は僕がしばらく研究している
ライフル射撃の才能についての
考えをまとめてみました。

少し長いですがなるべく
分かりやすい言葉で書くよう
心掛けています。

スポーツの才能とは何か

「運動神経が良い」
「教えてないのに出来る」
一般的に言われているセンスについて
多くの研究で分かっていることは
「頭の中で描いたことが体で再現できる」
これがスポーツの才能です。

サッカーならば走りながら思った場所に
ボールを蹴ることが出来る。
野球ならば狙った場所に投げられる。
バットにボールを当てて狙ったところに
飛ばすことが出来る。

射撃ならば10点に当てられる、
当て続けられることが才能といえます。

射撃に必要な能力の分解

ここからは僕の主観的な意見となってしまいますが
射撃にも10点を取る為に必要な要素は
いくつかに分けられます。

①身体的能力
②神経的能力
③心理的能力

これらを詳しく見ていきます。


身体的能力

骨格、筋力や体質がこれに当てはまります。
・体が止まる
・疲れない
・体が柔らかい
・寒暖に強い など

一般的に「銃が止まる」(=静止する)という状態は
鼓動で動き続ける体で行うのは不可能ですが、
物体が静止しているという状態に焦点を当てると
「重力によって重さの均衡が保たれている」
という事となります。

支持基底面の中に重心というものがあって
そこに銃を設置した際に
最も動きが安定している状態が
「銃が止まる」と言われている状態です。
ピストル種目とは少し理論が違いますが
ここではライフル種目を取り上げていきます。

※支持基底面
 体が地面に接している外周の領域。
 立射では左右のつま先、かかとを結んだ面積。
 そこから重心が外れる事は物理的に不可能。

「銃が止まる≠体が止まっている」なので
姿勢構築においては体が優先されますが
そこに銃のセッティングを合わせるというのは
才能的なものではなく物理です。
銃のウエイト位置に個人差があるのは
本人の重さと銃の重さの均衡を取って
最も良い状態であるからです。
感覚的な問題というのは体のセンサーが
違和感を感じている場合に発生するので
最終的には個人に合っている調整が必要となり
指導側と選手側で共有できない部分なので
選手に任せる部分となってきます。

身体的なものにおいては筋肉の占める割合は
他競技に比べて少ないと考えています。
パワーやクイックネスであったりする
筋肉としての能力は優位性が低く、
再現性や耐久度になってくるからです。
腕の鍛えすぎで筋肉が邪魔をして
銃を保持した際の重心適正位置に来ない
という例も多々あります。

厳密にいえば筋肉も付き方に個人差があり、
立位を保持しやすい筋肉の付き方もあるので
生まれ持ったものではありますが
そこはジャケットやトラウザーで補完可能なので
個人差は少ないと思っています。

例えば姿勢の耐久度(疲れちゃう、崩れちゃう)を
一つとっても、それはトレーニングで
補強できる範囲内だと思うので
筋肉が恵まれていても有利な特性なだけで
本当の意味での才能とは違います。

しかし骨格に関しては絶対的なものです。
ボーンサポートという単語もあるぐらい、
全ての前提条件になってきます。

僕は骨格的に恵まれてるので
サンプルに丁度いいのですが、
・頬骨がしっかりある(チークのしやすさ)
・手足が長い(据銃のしやすさ)
・胸囲がある/背中側が厚い(反動受け)
・胴が短くくびれが少ない(据銃のしやすさ)
・下半身の筋肉の強さ(立射時の安定性)
・X脚(立射時の安定性)

若干ですが首が長い、肩幅が狭いなど
不利な部分はあるのですがかなりいい素材です。
現役時代はロフトベットだったので
脚におもりを付けて膝の真ん中を縛って
外に投げ出して寝ることで
理想のスパンの長いX脚に整形しました。

骨格は全ての前提条件になるので
これは生まれ持って恵まれている場合、
体が銃を保持しやすい作りなので
才能と呼べると考えています。

ちなみにライフルを長くやっていると
左右のあばら骨が変形して
サポートアーム側がへこむんですよ。。

神経的能力


揺れている中で10点を撃つ選手がいます。
とても繊細な引き金の選手もいます。
体が完全に停止しているような選手もいます。

映像処理からの反射速度が速い、
グラム単位で指の動きを感じ取れる、
平衡感覚で重心が理解できる、
彼らは非常に感覚が優れている選手です。

感覚は神経の能力と考えると
運動の感覚(深部感覚)、特殊感覚(視神経)など
感覚器の鋭敏さが非常に高いので器用で
運動や細かい作業が得意な傾向にあります。

冒頭にあった頭で描いたことを
体で再現できる人はまさにこの人たちです。
後述の心理的能力の要素も含みますが
神経は1つを除いて訓練で伸ばすことは可能といえます。
センスがいい、筋が良いというのは
脳が体に命令した事が指示通りに行えるかです。

例えば初めての射撃で
「黒い丸が円の真ん中に入ったら引き金を引こう」
と言われたときに、

黒い丸が円の真ん中に入ったら引く(脳から命令)

照準が合う(視覚的な情報が入る)

引き金を引く(命令する)

弾が出て10点へ

そこで指導側が「才能あるね」といった時点で
心理的にも神経的にも頭の中では
「これが正解」という新しい領域が発生します。

正しい姿勢で正しい練習というのも
多くの選手が反復練習や確認作業を行うのも
神経の構築と強化に費やしていると考えます。

逆に頭の中にある10点を取るまでのイメージと
実際の射撃(肉体的な動き)に差がある場合、
そこの補強が上達の最短ルートであり、
差異の補強についての引き出しが多い方は
コーチに向いているといえます。

イメージよりも銃が揺れる
→フォームやバランスの問題
 トレーニングやバランス調整

イメージ通りに弾が出ない
→引き金の練習、調整

というように考える力が成長に繋がります。
余談ですがスランプ、イップスなどの原因は
新しい神経回路の構築によって起きます。
その多くは指導者のせいです。

ここはこうじゃないかと指示することで
感覚的な成功体験を上書きしてしまい、
元に戻しても上手くいかないという状態です。
そのあと回収できれば問題ないのですが
無責任に指導は出来ないですね。

小学生で天才といわれた子が
高校生になって駄目になるのは
感覚的に磨いてきた技術を外からの刺激で
再構築する際に生じるケースが多いです。

神経回路に関しては
成功体験+反復の刷り込みとなります。
これは訓練で伸ばすことが可能なので
最初から持っている選手は才能となりますが
後天的に伸ばすことが可能なので
本当の意味での才能とは限りません。

訓練でどうしても伸びないもの、
それは視神経の配置です。
視神経の配置は遺伝的に生まれながらにして
決まっているものであり、
クリアで正しい映像が見えていて
映像の処理能力、伝達能力が高いというのは
射撃においては非常に重要です。
勿論、多くの人の場合は問題ない精度で
映像の処理が行われていて
大きく気にする必要はないのですが
最初から綺麗に見える、高速で処理出来る、
これらは明確に才能です。

物の見え方は書き出すとこの文章の倍以上に
なってしまうので割愛しますが、
目は人間の臓器であって、臓器は消耗品です。
大事に使おうね。

僕はこの神経の才能が全くないから
揺れてて撃つとか全くできなかったなぁ。。
スタートラインが他の人と違うと
すごく弱気になっちゃうんだけど
訓練すれば伸びるものが殆どなので頑張ろう。

ちなみに1つの動作を体に覚えるには
2万回ぐらい繰り返すことが必要らしいです。
1日100発で200日の練習は必要になる換算です。
選手の努力にはいつも脱帽します。

心理的能力

メンタルの分野においては、
別項目が必要なほどに情報も多く、
まとめることが難しいですが、
緊張やモチベーションのコントロールは
それこそ後天的に会得する技術であって
赤ちゃんから鋼のメンタルは考えづらいので
生まれ持った心の才能はないと思います。

育った環境、他者との関わりで
人間は成長する生き物なので
メンタル的な強さで才能があるとすれば
感情がなかったりするのかなと思うと
少し違うような気もします。
闘争心むき出しで撃つチャンピオンも
世界にはいるので性格的な個性と
競技の結果がうまく結びつきません。

先述の「刷り込み」については
性格的な向き不向きはあると思います。
ここで撃てば理想の射撃というものを
継続する条件付けのような状態で
無意識の領域まで落とし込むことは
実際の多くのトップ選手が行ってます。

いわゆるゾーン理論は
成績の良かった試合をよく覚えていない
という無意識おまかせモードなのですが
それを引き出すまでにどれほどの
練習したのか考えただけで凄い事ですし
自身の意思で引き出せるアスリートは
尊敬出来ます。

結論

という事で射撃の才能とは
①骨格
②視神経の配置

この2点が先天的で変えようのない能力であり
本当の意味での才能であって、
他は後からどうとでもなるが
最初から神経回路が出来ている人は
天才と呼ばれちゃうという結論に至ってます。

僕は学者ではないのでご指摘は大歓迎です。
現代スポーツは殆どが物理や科学で説明つくのですが
射撃自体はデータも少ないですし、
根本的な体や銃器の原理を理解してひも解いて、
どうすれば能力を効率的に伸ばせるのかを
これからも学習して発信していきたいので
むしろバシバシ理論の穴をついてもらえると
精度が高くなっていくのでよろしくお願いします。

それではまた射場で会いましょー。

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