横浜出身者の構え

ぼちぼち忘年会の季節になる。1年365日のうち360日は嫌なことばかりなので「食べたり飲んだり歌ったり踊ったりして嫌なことは忘れてしまおう、来年は良いことがあるといいね」と前向きな気持ちで酒宴が催される。1年のうち5日間くらいかけて執り行う儀式であり、1年のうち楽しいことといえば忘年会しかないことになる。社会人はつらいなぁ。
社会一般としてはそのように捉えれている忘年会だが、残念なことに俺は下戸であり、アルコール飲料は飲まないことにしている。飲んだら死んでしまうからね。その昔は「あー、君、飲めないの?俺の酒が飲めないっての?へぇ、そうなんだ」などと言われたが、最近はそのような言動はハラスメントとされ、社会的な禁忌となった。「ハイ、飲ませていただきます」と一気飲みをして急性アルコール中毒で救急搬送後、法廷にて慰謝料を踏んだくるという捨て身のライフハックを構えているが、なかなか思うようにいかん。
酒宴となると、概ね「ご出身はどこですか」などという話になる。四十を超えたおっさんの出身地など聞きたいものかね、と内心思うのだが、酔いが回るまでの時間潰しなので野暮なことは言わずに「横浜です」などと応える。
そう、横浜出身なの。神奈川出身ではないの。横浜。文明開花の街、横浜。
神奈川出身であることに間違いはわないのだけど、どうもしっくり来ない。あれ、何でだろうと考えていたら就業時間が終わってしまった。さぁ、帰ろ帰ろ。と会議資料をコピーしてシュレッダーにかける作業を切り上げたのである。
横浜にも色々あり、一概には言えないのだけど、神奈川って横浜市神奈川区の印象がある。
あと、京浜急行線の神奈川駅。すごく小さいよ。駅前にあるのは道路くらい。プラレールの駅の方が立派じゃないですか?と思う程度には寂れており、降りてみれば異界か何かかと錯覚する横浜屈指のエニグマ系駅。それが神奈川。
神奈川県という名前が出てくる前に、区名もしくは駅名が出てくるので「神奈川ではないな」という気分になる。
その前に神奈川出身と言ったところで、神奈川のどこだよっていう話になる。三浦半島と横浜だとだいぶ違うよ。「神奈川出身です」「大仏有名ですよねー」となることは非常に稀じゃないかな。
色々考えていたのだが、やはり気取っていると言われれば「そうですね」としか言いようがない。さすがに東京都港区には勝てませんが、足立区や板橋区よりは聞こえがいいじゃん。港湾地区と呼ぶと何だかアレな感じがするので、市民一丸となり「みなとみらい」と呼ぶなどして明るい印象を与えるよう一所懸命な努力をしておるので、ある程度は許してください。海側はスラム街一歩手前ですが、頑張って耳障りの良い街づくりをしているのですよ。
でもさ、出身地って天気予報の地名で話しません?名古屋出身の人も愛知出身とは言わんでしょ。なぜかって、天気予報では愛知ではなく名古屋と表現するから。愛知の場所わからなくても、名古屋の場所は何となくわかる。名古屋であれば「あーはいはい、名古屋ね。新幹線止まるとこ」「天気予報で毎回出てくるヤツ」と記憶が結びつくけど、愛知だと曖昧な感じでしか結びつかないよ。むしろ、最初から名古屋って言えよという気分になるよね。
横浜も同じようなもんで、最初から横浜と言っておかないと、最初から横浜って言えよアホボケとなり、手近なビール瓶などで殴打される。そのようなことになるとパワーハラスメントになり、傷心の上、精神的な病を患い、法廷にて慰謝料を踏んだくれるので、今後は「神奈川出身です」と構えようかと思います。

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