芸歴12年目

 どうも舎弟のならたです。僕も芸人を始めて3年近く経ちました。

 しかし、お笑い芸人の芸歴というのは曖昧なもので、かく言う僕もはっきりとはしていません。

 例えば、養成所に入った時を起点とするか、養成所を卒業して事務所に所属した時を起点とするか、学生お笑いをやっていた時期も芸歴に入れたりなんだりと様々です。

 僕たちにいたっては、どこにも通わず、フリーでこの世界に飛び込んでいますから、いつからが芸歴のスタートかは自分たちで勝手に決めたものに過ぎません。ですから、僕たちは初舞台を芸歴のスタートにはしています。


 しかし、改めて思い返せば僕の芸歴はもっと長いのかもしれません。

 初舞台を起点に考えると、僕個人で言えば中学1年生まで遡ります。


 中学1年生の時の僕は、純粋にお笑い好きな少年で、芸人を目指していたわけではありませんでしたが、お笑い芸人の真似事を学校でやっておりました。それと言うのも、他に人に対抗出来る術を持っていなかったというのが大きい理由でした。


 運動も勉強も出来るわけではなく、容姿が整っているわけではないので、人から注目を浴びるには、笑わすということしか思いつかなかったのです。


 その当時は、お笑い番組もたくさん見ていたりお笑いライブにも足を運んでいたものですから、お笑いの素養が少なからず同級生よりはあったと自負していました。


 とは言いつつも授業中に先生に対してボケたりだとか友達の中でふざけてみせる程度のことなので、まあよくいるお調子者ぐらいの話ではあります。


 そんな学校生活を過ごしていく中、ある出来事がありました。3ヶ月ぐらいに一回ある席替えである女子と席が隣になりました。その子は女子の中ではお笑い担当的な立ち位置で、それこそお笑い番組などをよく見ていた子で、すぐ意気投合しました。


 授業中などによく話たりしていて、そんな流れで一緒にショートコントを作ることになりました。今考えればとても稚拙なものではありましたが、この時間がとても楽しかったのです。


 ネタを作ったからには披露しようということになり、やるんだったらコンビ名が必要なんじゃないかと一丁前に思いまして、中学1年生の僕たちが考えたのは"プリンセス"という可愛いらしい名前でした。理由としては、自分たちのイメージっぽくない名前にしようぐらいの感じだったかと記憶しております。


 休み時間に教室でショートコントを披露しました。中学1年生ですから、内容がどうであれ、そういうことをするだけなんとなくウケるわけです。それで調子づいた僕たちは、毎日のように休み時間にネタを披露していました。


 そしてある日、当時の相方だったその女の子が中学生が出場出来るお笑いの大会を見つけてきました。その大会は「高校生お笑いインターハイ」というもので、高校生芸人の大会なのですが、そのエキシビジョンとして中学生の部もあるということだったのです。中学生の部はとくに順位などは決めず、ほとんど思い出作りみたいな感じのものでした。


 それを知った僕は、初めは少し腰が重く、本当に知らない人たちの前でネタを披露する程のモチベーションはなかったのですが、たちまち同級生たちもその大会の存在を知り、これに出たらヒーローになれるみたいな空気に誘発され、出場を決めました。


 出場が決まるとクラス全体に熱が帯び、担任の先生までもが協力するという事態になり、休校日に僕たちプリンセスと担任の先生、そしてクラスの中でもお笑いの素養がありそうな人間を集め、ネタを考える時間が設けられました。


 そうして出来上がったネタが、「コンビニのバイトの面接をEXILEのオーディションだと思ってきてしまった」というネタでした。

 そして僕はボケ担当でした。つまりEXILEのオーディションだと思ってきた方です。





 なんでこれを思いついたかは思い出せません。当時EXILEが相当流行ってたことは確かだと思います。


 僕たちはそのネタを引っさげ、大会に挑みました。当日、会場に行ってみると中学生の部は全部で5組ぐらいで、僕たちはあろうことか、トップバッターでした。大会の様子も窺えないまま自分たちの番が回ってきて、緊張の中、全力でネタを披露しました。


 応援に来ていた同級生の笑い声がうっすらと会場に響き渡りました。


 ネタを終え、手応えという手応えはなく、フワフワと感情が浮かんでいる状態のまま時間は流れ、中学生の部全組のネタが終わりました。


 その後、中MC的な時間があり、また舞台上に中学生の部の全組が並べられました。その時、MCだったのが、まだテレビなどで活躍される前のニッチェさんでした。


 ニッチェさんの司会ぶりを、プロの芸人さんは違うなとおこがましくも舞台上で冷静に見ていた僕でしたが、自分たちのトークの番が回ってきて、一気に緊張感が走りました。


 優しく話かけてくださるニッチェさんに対して、割と落ち着いて返答していた僕たちでしたが、僕は自分で何を話しているのか分からない状態でした。


 そして、ニッチェさんの「ネタは誰が考えたの?」という質問に僕は前のめりに「僕が考えました」と言い放ちました。


 そう言い放った瞬間、とんでもないことに気づきました。相方も含め、担任の先生や同級生たち、色んな人と一緒にネタを考えたはずなのに勢いあまって自分で考えたと嘘を言ってしまったことに…


 時は既に遅し、そこからみんなで考えたと言い直すことは出来ず、自分たちのトークの番は終わりました。


 大会終了後、同級生たちにその発言について責められました。色んな人たちの協力を得て、挑んだ大会をあの一言で水の泡にしてしまったような気分になり、自分でもなんであんなことを言ってしまったのか理解出来ず、自分に恐怖さえ感じました。それが僕の芸人としての初舞台でした。


 ちなみに、その中学生の部では順位はつけませんでしたが、会場の雰囲気で一番良かった組に図書券を差し上げますと突如アナウンスされ、僕たちは見事に図書券はもらえませんでした。しかし、中学生にしては垢抜けた漫才をやっているコンビが図書券をもらっていたので納得しました。


 その初舞台を踏まえると、僕は今年で芸歴12年目ぐらいになります。

 まあでもそんなわけないですね。



 

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?