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【書評】イ・ドンフン『SIGAJI』(F16
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 韓国の写真家イ・ドンフン(LEE DONHOON)による写真集。タイトルの「SIGAJI」は、韓国語で都市の中心部や、大きな通りが構成する地域「市街地」を意味し、今ではほとんど使われなくなった古い言葉だという。どこか尾仲浩二の「Matatabi」シリーズを思わせるような、35mmカラーフィルムによる旅のスナップは、韓国全土を旅しながら撮影した10年間にわたる写真だ。

 韓国で生まれたイ・ドンフンは、9歳でカリフォルニア南部にある小さな都市に移住する。幼い頃から絵を勉強していた彼は、高校時代に受けた暗室の授業で写真に触れ、2014年に韓国に帰国した時から本格的に街の写真を撮る(彼の言葉で言うと「幼少期に経験した1990年代後半の韓国の記憶を再解釈」する)ようになった。

 写っているのは、お隣の国「韓国」の日常的な街の光景なのだが、それが日本の都市や地方であってもおかしくないような、妙な懐かしさが込み上げてくる。必要以上に立ち入らない旅人の視線がそうさせるのかもしれない。そしてイ・ドンフンは、韓国の仁川をベースにコツコツ写真を撮りながら一人出版社「F16」を運営している。たまたま釜山にあるGallery Negativeで知り合ったのだが、こういう写真家が韓国にもいるんだと嬉しくなった。

レビュアー:村上仁一


イ・ドンフン『SIGAJI』
出版社:F16
発行年:2024年
関連リンク:https://www.shashasha.co/jp/book/sigaji

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