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【書評】MATTHEW GENITEMPO『DOGBREATH』(TRESPASSER)

 アメリカの写真家 Matthew Genitempo(マシュー・ジェニテンポ)による写真集『Dogbreath』(TRESPASSER)は、アリゾナ州ツーソンを舞台に、広大な砂漠と荒廃した街の風景、どこかメランコリックな表情で虚ろに佇む若者や住人たちのポートレートを、静謐なモノクロームで捉えた写真集。

 経済的に衰退し、かつてのアメリカの繁栄が失われた地域に住む人々は、日々の不安や希望の欠如、貧困の連鎖といった社会的な問題に直面していて、それが彼らのアイデンティティに深い傷跡を残している。写真集は、声高に何かを訴えるドキュメンタリーではないのだが、周囲に流れる乾いた空気のようなものまでを写し込んでいる。

 ページの途中には、「Dove」という少年の言葉で、地下の異教徒、スクラップ回収、金の探索などについての謎めいたテキストが差し挟まれる。全体を通してミステリアスな厭世観が漂うのだが、同時に解放されるような気分になる。なぜなら圧倒的な大判サイズで端正に作られた本の中で、純度が高い写真一点一点が、余白とともに目に飛び込んでくるからだ。ページをめくるごとに新たな発見がある。

レビュアー:村上仁一


MATTHEW GENITEMPO『DOGBREATH』
出版社:TRESPASSER
発行年:2024年
関連リンク:https://trespasser.co/shop/dogbreath


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