【マーラー交響曲第2番《復活》 分析編①】第1楽章
こんにちは。前回までは《復活》が出来た背景や、曲のストーリーを中心に解説してきました。今回からは《復活》を分析してより細かくこの曲を理解していきたいと思います。
分析編もストーリー構造に沿って解説していくのが理解しやすいと思いますので、まずは1・5楽章について優先して書いていきます。
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相変わらずこの曲解説では参考書籍がお高いですね…。
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引くほどおもしろいです!!
また、今回から譜面を使って解説していきます。
オススメのスコアは👇のツイートに載せていますのでぜひ見てみてください。
ちなみにIMSLPにもユニヴァーサルエディションのスコアが上がっていますが、これは古いバージョン(1970年出版ラッツ校訂版)で今日ではほとんど演奏されないので、オススメしません。
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《復活》
《復活》①でも書きましたが、この曲はゴリゴリのキリスト教的世界観にマーラー自身の体験を投影させたものをベースに構築されています。
第1楽章
1楽章は《巨人》で主役であった英雄(≒マーラー自身)の死を表す楽章です。一度、交響詩として単発で発表しようとした《葬礼》というタイトルからも死の雰囲気が色濃いことが分かります。
ソナタ形式
かなり複雑ですソナタ形式の体を成しています。
提示部の調のつながりはブルックナーの交響曲と似ているという指摘もあります。今回は深堀りしませんが、両者は交流がありましたし、当然お互いに少なからず影響を受けているので、調のつなげ方の類似性という観点で調べてみるのもおもしろいかもしれません。
主題・動機
第1主題
冒頭から聴き手の心をガシッと鷲掴みにしてくる動機です。断片的ながら、明らかに悲劇的でかつキャッチー。この高弦のトレモロの下で低弦が断片的にメロディを弾く曲の始め方についてもブルックナーの影響・関係性が指摘されています。本によってはクラシックの曲で見られるような主題では無いと書かれてたりしますが、僕は断片的なメロディでここまで聴き手の耳を掴んでくるマーラーはやっぱり天才的なメロディメーカーだなと思います。
第2主題
鬱々としたC moll(ハ短調)でしばらく進んだ中で、突如第1展開部でE dur(ホ長調)で現れる、柔らかく夢見がちな第2主題。
第3主題
👇で詳しく解説しますが、コレは「十字架の象徴」または「十字架」の動機と呼ばれるモティーフを使った主題です。
イングリッシュ・ホルンによるパストラーレの動機
この牧歌的なパストラーレの動機は〈天上の暮らし〉での天国の音楽の素晴らしさを表すために使われています。このパストラーレの動機の直後に「死」を表す「海の静けさ」の主題が登場します。
「海の静けさ」の動機・主題
こちらも👇で詳しく解説しています。ゲーテの詩を「死」の表現に使っている主題です。
イングリッシュ・ホルンによる「ため息」の動機
イングリッシュ・ホルンによってEs moll(変ホ短調)で演奏される「ため息」の動機。この部分で「嘆き」を表現しています。
個人的には「ため息」× Es moll × イングリッシュ・ホルンという組み合わせがかなり秀逸だと思います。Es mollの持つ雰囲気も、イングリッシュ・ホルンの音色も「ため息」を表すにはピッタリのチョイスだと思います。
「怒りの日」の主題
《復活》①でもご紹介したグレゴリオ聖歌から引用されている旋律です。世界の終わりの日(=怒りの日)について詠われていて、死者のために詠われることから「死」を連想させる旋律です。いろんな作曲家がこの旋律を引用しているので「みんな大好き怒りの日」で覚えましょう笑
「十字架」の動機・「復活」の動機
「十字架」の動機・「復活」の動機については👇で詳しく解説しています。
「永遠」の動機
👆の「十字架」の動機・「復活」の動機の直後に登場します。「十字架」・「復活」・「永遠」の動機で5楽章での復活を暗示した後、「怒りの日」でまた「死」の世界へ。
5楽章への伏線
5楽章の「復活」のコラールは1楽章の「十字架」の動機・「復活」の動機から導き出されています。
「十字架の象徴」
第3主題は「十字架の象徴」または「十字架」の動機、と呼ばれます。これはリストによる「音の十字架の象徴」で、Ⅰ - Ⅳ - Ⅰ6(Ⅰの第1転回型)の和声進行がそれを表しているとされています。
ただ、今回リストのどの曲でこの和声進行による「十字架の象徴」が使われているのか、など裏付けが取れませんでした。引き続き調べていきたいと思います。スミマセン。
バッハの十字架音型との関係は?
「十字架の象徴」と言われて真っ先に連想したのはバッハの曲でよく見られる十字架音型でした。バッハの曲には十字架が隠されていると考えられており、4つの音を結ぶと十字架が浮かびあがる音型のことを十字架音型と呼びます。
鈴木雅明さんのツイートが分かりやすいでしょう。
個人的には今回1楽章の「十字架の象徴」はこのバッハの十字架音型とは関係が薄そうに見えます。きちんと裏付けが取れているわけではありませんが、今回の「十字架の象徴」の音型では十字架が結べなさそうです。
「怒りの日」の動機こそ十字架音型?
👆のツイートのように音を結べば十字架音型が浮かび上がる動機があります。「怒りの日」の動機ですね!
「怒りの日」はもともとグレゴリオ聖歌の中に出てくる旋律なので中に十字架が隠れていても不思議ではない気もしますが、一方で若干こじつけくさい感じもしますね笑 パッと調べてみた感じこちらもソースを見つけられたわけではありません。調べてみるのも面白いかもしれません。
「死」の要素
1楽章はその性格上、「死」を連想させる要素がたくさん散りばめられています。
ゲーテの詩「海の静けさ」との関連性
《復活》は色々な経緯を経て現行版の形になっています。特に1楽章は先輩の指揮者や周りの作曲家から批判され一度は交響詩として独立されました。その紆余曲折のためか、1楽章は詳細なスケッチが残されています。
今回注目するのはこのスケッチで3箇所に現れる「海の静けさ」というタイトルです。これはおそらくゲーテの詩『海の静けさ』から引用したものだと思われます。マーラーはゲーテの作品に対して造詣が深かったです。
マーラーは「海の静けさ」という言葉を「死の静けさ」の隠喩として使っていると思われます。
スケッチには「ホ長調のフルート」という書き込みが残っており、実際に現行版では131〜134小節・370〜377小節のフルート(Fl)やヴァイオリン(Vn)に出てきます。
ちなみにゲーテの『海の静けさ』と『楽しい航海』という2つの詩に基づく作品としては、
があります。
タム・タムの役割
タム・タムは一般的に嘆き・恐怖をドラマチックに描く際に使われます。1楽章でも執拗に使われており、葬送行進曲・葬送の音楽を印象付ける効果を与えています。
英雄の死 〜激アツポイント〜
ソナタ形式の表でも「最高!!!!🔥🔥🔥」と書いていますが、第2展開部から再現部に移るところは個人的にめちゃくちゃ大好きなところです。
この展開部の最後で《巨人》の英雄は劇的な死を迎えます。
YouTubeは割とふざけていますが実は至って真面目で、この部分の英雄の死の音楽での演出が本当にすごい。
2つの破滅的な和音
①F#dim7 (♭9) または Am7♭5
動画で「ぎゃああああああ」と言っている部分の和音ですね笑
ディミニッシュという和音は、マーラーやブラームスなんかはドラマチックで悲劇的でかつエモい部分に使っている印象があります。F#の音は演奏している楽器がかなり少ないので、実質的にはAm7♭5の性格が強く聴こえます。Am7♭5はAmハーフディミニッシュとも呼ばれディミニッシュの性格も持ちつつ切ない響きがする和音なので、その切なさ成分が破滅的な場面にエモさを与えていると思います。
②G7(♭9, 11, ♭13)
ドミナントG7に♭9th, 11th, ♭13thというテンションノートが乗りまくってる和音です。基本ドミナントですが、テンションノートがたくさん乗ってて複雑な響きになっています。
この破滅的な2つの和音の後に、3連符の下降音型で雪崩堕ちるように落ちていった先がC mollのCの音、というキレイなドミナント・モーションで展開部から再現部に戻っているのも見事ですね。
まとめ
《復活》1楽章はストーリー構成の中での性格上、「死」を表す要素がたくさん散りばめられていました。その中にも5楽章での「復活」を暗示するような動機が潜んでいたりして一貫したストーリーがきちんと音楽でも表されていることが分析してみて分かりましたね。
👆にも書きましたが、ハモンドオルガンちゃんは英雄の死の場面がめちゃくちゃ好きです。破滅的な2つの和音が金管に鳴らされた後、雪崩れるように堕ちていきC mollに戻るところがたまらないですね。
全く関係ないですが、マーラーが自分をモデルにした主人公を破滅的と言えるほど堕とすところや、その一方で3楽章のようなブラック・ユーモアを入れてくるところなど、どうしても太宰治と被るんですよね。個人的な連想なので、曲とは全く関係ないですが笑
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