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【プログラムノート放出企画】鳥は静かに… op.72 | 吉松隆

 過去のプログラムノート放出企画、前回に引き続き雪オケさんに執筆したプログラムノートから吉松隆作品、《鳥は静かに…》op.72の曲解説を公開します。


プログラムノートを執筆した団体

Orchestra Neige(オーケストラ・ネージュ, 通称: 雪オケ)

 2024年12月7日に旗揚げ公演をした団体です。

吉松 隆(Takshi Yoshimatsu)
鳥は静かに… op.72

And Birds are still… op.72 (1998)

一羽の鳥の死を仲間の鳥たちが囲んで静かに弔いの歌を歌う
 本作はこのシリアスで幻想的なイメージから生まれた作品である。もともとはアマチュアのアンサンブルから「亡くなった仲間への追悼の意を込めた短い弦楽アンサンブルの作品を…」と委嘱されて構想したものである。最終的に委嘱は破棄され、この作品だけが残ることとなった。作者本人にとっては、鳥にちなむ多くの作品の中で最も「愛しい作品」のひとつ、としている。
 冒頭の鳥の羽根がふわっと大気を揺らすような響きは、作者のデビュー作《朱鷺によせる哀歌》(1980年)のエコーである。そこから一羽の鳥による悲歌が静かに始まり形をなしていく。やがて鳥たちの間に広がり、重なっていき、大きなうねりとなりメランコリックな遠い思い出のようなメロディーとなって歌われる。鳥たちの祈るような葬列の中で、シベリウスの《トゥオネラの白鳥》が微かに聴こえる。鳥たちの羽の揺らぎが再び大気をわずかに震わせると全ては静けさの中へ消えていく。
 「鳥」は《朱鷺によせる哀歌》以来、作者の音楽の主軸となっている要素である。作者は「鳥」という存在を、人間より遥か昔から「歌」を操る音楽家として畏怖と尊敬の念をもって捉え、翼を持って飛翔する「自由な存在」、そして空の異界と交感する「魂の隠喩(メタファー)」と考えている。鳥のメロディ, 鳥のリズム, 鳥のモード(流儀, 様式, 旋法)を鳥からの3つの教えとしている。実際、作者は「鳥の作曲法」と称し「鳥の旋律細胞(メロディ細胞)」と呼ぶモチーフ(音型)を組み合わせて音楽を構築している。このモチーフは、「ぴ」や「ぴぴぴ」「ぴちちち」といった鳥の歌から着想を得た断片的なパッセージとなっている。この作曲法を使い、「ふわっ」とか「ぱたぱた」というような鳥の翼の空気感が《朱鷺によせる哀歌》や本作《鳥は静かに…》で弦楽によって表現されているし、「ぴぴ」や「ちちち」という点描やパッセージを線的に連ね変拍子で疾走させているのが、交響曲第5番や《デジタルバード組曲》、〈鳥のシリーズ〉の曲である。
 本作はシベリウスの音楽から色濃い影響が感じられる。作者は《トゥオネラの白鳥》を始め、交響曲第6番・第7番など特に後期の交響曲に影響を受けた。作者がぼろぼろ泣きながら聴いたという第6番の神秘的な響きの向こうに広がる冷たい異世界、透明できらきらした銀世界と彼方の静寂の世界観はそのまま、本作をはじめ作者の数々の作品へと受け継がれている。シベリウスは作者が目指すべき音楽の方向性を示した作曲家であり、作者自身は「魂の師匠」と呼ぶ。交響曲第5番にもシベリウスの、とりわけ交響曲第6番からの影響が多く見受けられる。
 本作と交響曲第5番第3楽章には翼の浮遊感を表すモチーフが使われ、主題もよく似ている。両者とも悲歌という共通点があり音楽的な繋がりが深い。タイトルの《鳥は静かに…》でも感じとれるように、モチーフや主題は一貫してすべてを言い切らずに消えていく。まるで語ることを諦めるように。それはまるで、もう返事をしない愛する人へ語りかけているようだ。

交響曲第5番の曲解説(プログラムノート)

 《鳥は静かに…》は交響曲第5番とつながりのある曲です。こちらの記事で交響曲第5番についてのプログラムノートを公開しています。

作曲者本人の解説

 Youtubeで吉松隆さん御本人による交響曲第6番《鳥と天使たち》と《鳥は静かに…》の解説動画が上がっています。2022年のものです。新日フィルの演奏会向けに収録されたもののようです。

第2回公演決定!

 雪オケは第2回公演が決定しています。プログラムは鋭意選曲中とのこと。僕も一部プログラムの案出しに参加してます。
次回以降も吉松作品が聞けるかもしれません。ぜひ聴きに来てください!

参考情報(本・サイト・音源)

作曲は鳥のごとく | 吉松隆

吉松さんについて知るならマストな一冊。
作曲技法のことなども書いてありおもしろいです。

≪鳥の響展≫ライブ | 吉松隆

藤岡幸夫指揮/東京フィルハーモニー交響楽団のライブ盤です。
サクソフォン協奏曲やタルカスなど、重要な吉松作品のライブ録音が聴けます。ブックレットの解説もおすすめ。

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