4つの名前を持つ在日中国人の苦悩
氏名表記の苦悩はなぜ起きるのか
先日、マイナンバーカードの氏名表記と本人確認について一家言ある在日中国人のポストがバズっていました。
この方のマイナンバーカードは、氏名欄が
「HANZI TAILANG 漢字 太郎」のように「英字 漢字」で記載されています。
しかもデータ的には「HANZI TAILANG_漢字 太郎」とアンダーバーで繋げて登録されているようで、このせいでマイナカードでの本人確認に失敗するケースがあるようです。
なぜこんなことが起きるのか。最大で4つの名前を持つことになる在日外国人の名前事情をご紹介します。
外国人の氏名は原則英字
まず原則として外国人の身分証は「パスポート」で、パスポートに書かれた英字氏名が「氏名」として扱われます。
中長期滞在者には在留カードが発行されますが、在留カードの氏名も同様にパスポートの英字氏名が記載されます。
つまり「外国人の氏名=パスポートの英字氏名」ということで、何も難しいことはない筈なんです。一つの例外を除いて。
在留カードには漢字併記が可能
在留カードの国籍・地域が中国、台湾、韓国の方は例外として漢字氏名を併記することができます。漢字圏の外国人が不便しないよう配慮した結果ですね。
入国時に発行される在留カードは英字のみですが、最寄りの入管へ行って再発行(有料)すれば漢字併記できますし、次回の在留資格更新時に無料で併記してもらうことも可能です。
漢字併記は任意
「併記することができます」という表記のとおり、希望者のみ申請して漢字表記を追加する形になります。
あくまで英字氏名が原則であることに変わりはありませんが、親切で「漢字名」という例外を生んでしまったことで後々面倒なことになります。
住民票の氏名
入国したらまず住民登録(住民票作成)
日本に入国した中長期滞在者は、まず市役所へ行って住民登録(住民票の作成)をします。
住民票の氏名は在留カードの氏名がそのまま登録されます。
英字のままであれば「HANZI TAILANG」で登録されるのですが・・・
氏名が漢字併記だと面倒なことに
入国後すぐに在留カードの氏名を漢字併記に変更して、それから住民登録すると、今回のバッドパターンである「HANZI TAILANG 漢字 太郎」表記になってしまいます。
住民票の「氏名」欄は一つしかないので、英字名も漢字名も両方を格納するにはこうするしかないのでしょうが…こうなると冒頭のポストでお怒りのように、奇怪な氏名表記になってしまいます。
※市区町村によって氏名の記載ルールに細かい差異はありそうなので、在留カードが漢字併記であっても「英字のみ」(または漢字のみ)でも登録してもらえそうだけど…このへんは有識者の意見募。
フリガナの謎
住民登録時に記載する氏名がもう一つあります。「フリガナ」です。カタカナでの記入を求められます。
そもそも「外国語にフリガナを振れ」というのは無茶な話です。
例えば「Aの読みはアですか?エイですか?エーですか?オーストラリアではアイとも発音しますね。どうカナを振ればいいですか?」ということ。
中国語の場合はもっと複雑です。
表記ゆれが星の数ほど起き得ますし、漢字を日本語読みした「モウタクトウ」も立派なフリガナです。どれもフリガナです。どれでもいいんです。
外国語に対する「正確で唯一のフリガナ」と言うものは存在しません。日本の名前ですら「光宙」と書いてピカチュウと読む人がいるように、「毛沢東」には好きなフリガナを振っていいわけです。が、「アルファベットにフリガナ」は正直どうなん?とは思います。
フリガナが英字OKになればいいのに
もしこの「フリガナ」が英字OKになれば、
・漢字併記の人は「氏名:漢字名」「フリガナ:英字名」
・英字の人は「氏名:漢字名」「フリガナ:好きなカタカナ」
で丸く収まりそうなんですけどね。いいアイデアじゃないですか?
通称名
外国人は「通称名」(日本語名のようなもの)を登録できます。住民登録後、市役所で届け出すれば簡単に登録できます。
本名と同程度の効力を持つ
通称名を登録すると役所からの郵便は通称名で届くようになりますし、通称名で銀行口座を開設することもできます(一部NG銀行あり)。実質本名と同じ効力を持つ言ってもいいでしょう。
正直在留カードの「漢字名」と住民票の「通称名」はわりと立ち位置が被っている印象です。住民票上では「氏名」と「通称」は別の項目なのは、在留カード上で英字名と漢字名が区別されているのに似ています。
運転免許証やマイナンバーカードには「漢字名」も「通称」欄もないので、「英字名+漢字名」や「英字名+通称名」のように詰め込まれてしまうのも一緒ですね。
通称名は下記のように運転免許証やマイナンバーカードに併記されます(在留カードには載りません)
マイナンバーカードの氏名
マイナンバーカードの氏名欄には住民票と同じ氏名が記載されます。
在留カードが漢字併記であれば「HANZI TAILANG 漢字 太郎」表記になり、住民登録時に発生した懸念がマイナンバーカードにもそのまま引き継がれることになります。
マイナンバーカードも住民票と同様に「氏名」欄が一つしかないため、在留カードの漢字名はもちろんのこと、通称名や日本人の旧姓ですら「氏名」欄にまとめて記載されます。
スラッシュやら括弧やらで無理やり入力する運用は、目視で本人確認する分には問題ないんでしょうが、今回のケースのようにデータで機械的に突合するようになると不一致と判定される問題が続出しそうですね。
4つの名前を使い分けるのは大変
ということで、一部の外国人は英字名、フリガナ、漢字名、通称名と最大で4つの名前を持つことになります。
複数の名前を使い分けている実例
私の知っている例では、在留カードに漢字併記はしていないものの通称名は登録している人で、下記の状態でした。
・在留カード:英字名のみ
・住民票:英字名、フリガナ、通称名あり
・マイナンバーカード:英字名/通称名
・運転免許証:英字名(通称名)
・健康保険証:フリガナのみ(何で!?)
この例では在留カードを漢字併記にしていないので、銀行口座や各種本人確認は英字名を使っています。そして普段の生活は主に通称名を使っているのですが、なぜか健康保険証の氏名がフリガナのみなので、病院に行くときは健康保険証どおりのカタカナ名を名乗ることになります。
もし在留カードを漢字併記にしていたら、漢字名も合わさって更にカオスになっていたことでしょう。
配慮が裏目に出たパターン
これをもって「外国人への配慮が足りない」「だから日本はダメなんだ」などと言うつもりはありません。むしろ外国人が漢字名や通称名が使えるのは「日本での生活で不便が無いように」と配慮を重ねた結果なわけです。
初めから「外国人名は英字のみ」としておけばこんな面倒なことにはならなかったでしょう。でも外国で英字氏名しか使えないことがどれだけ不便か、同じ漢字圏の日本人は理解できるわけです。理解できるから配慮を重ねてきた訳です。ただ、場合によってはそれが裏目に出てしまうケースがある、ということです。
マイナ一体化で解消される?
これまでの経緯を考えると仕方がない点もあるとはいえ、マイナンバーカードを活用する上で問題があることは確かです。
2025年度には在留カードとマイナンバーカードが一体化されるとのことですので、この機会で解消されることを願います。というかこのタイミングで改善できなかったらもうチャンスがなさそうですが・・・。