【恋のエッセイ】全ての好きは香りから始まる
これは恋愛という感情領域が未だ分からなかった小学校三年生の頃の話。
そんな私が「好き」という領域に一歩足を踏み入れた瞬間がありました。
時は給食の時間。
お腹空いたなぁ、なんて思いながら
トレイを持っていつも通り配膳の列に入りました。
先頭が動くと順に前に並ぶとクラスの子たちが動きます。
ひとつ、ひとつ、と前に進むたび、給食の香りが鼻腔を燻り、私の空腹を刺激しました。
まだ少しかかるかなぁ、なんて思っていたらまた列が動き、私の鼻にやって来るであろう給食の香りを期待していたら
フワリ。
ん……?
想像していたものとは違う、穏やかで優しい香りが私の鼻をくぐり抜けていきました。
なんだっけ、この馴染みある香りは。
そして私は鼻を凝らします。
列が動きます。
フワリ。
この香りは……そうか、石鹸だ。
また列が動きます。
フワリ。
でも、どこから?
また列が動きます。
フワリ。
もしや……
そしてとうとう私は香りの正体を突き止めたのです。
香りは私のまん前からやって来る。そしてそこにいるのはAくん。
また列が動きます。
フワリ。
これは、Aくんの給食着からではないか。
さらに列が動き、今度は壁際に立つことに。横並びになったのですこーしだけ鼻をAくんの肩に近づけました。
そしたら……
フワリ。
ドンピシャリです。
その日を境に
Aくん🟰石鹸の人🟰イイ香りの人
と私の中で方程式が出来上がり、何となく気になる存在に変わったのです。
彼から発せられる石鹸の香りが、
私の「好き」という感情領域の扉を
ガチャリと開けた瞬間でもありました。
さて、なぜこの話を思い出したのか。
それはこの夏、日本から持って帰ってきたコーヒーたちを見て、
私はつくづくコーヒーが好きなんだなぁ、
と思ったことがきっかけなんですけどね。
そもそもどうしてコーヒーが好きになったんだろうか。。。
と記憶の糸を辿ってみれば、
子供のころから朝のリビングでは常にコーヒーの香りが漂っていたなぁと。
父が出勤前に必ず飲んでいたのがドリップコーヒーで、ちょっと拘りがあったのか必ず自分で淹れる。
そして美味しそうに飲む。
キッチンにはしばらくコーヒーの残り香があり、その香りにつられて飲んでみたら想像した味と違ってむせたことも良い思い出。
それでも香りが好きで、いつか飲める日が来るだろうと、
牛乳を入れてのカフェオレから始め、学生時代のアルバイト先はコーヒーショップを選び、
ついにブレンドコーヒーを飲めるようになりました。
コーヒーが好きになったきっかけは、
父が毎朝ドリップで淹れていたあの香りがあったから。
嗅覚は五感の中でも特に不思議なチカラがあって、嫌な香りも好きな香りも、
脳の本能を司る部分に直接的に届くそう。
エビデンスを読むと、
特定の香りを嗅ぐと、感情や記憶を司る扁桃体や海馬が刺激されて、その時感じたことに付随する記憶が呼び起こされるらしい。
だけど私が思うに、それは意識した時点のことであって、意識するよりも前に、潜在的な好きは香りから始まっているような気がするんですよね。
だから、全ての好きは香りから始まる、
と感じた、ちょっと肌寒いシアトルの午後でございます。
あなたの「好き」はどんな香りですか?
本日も最後まで読んでいただきましてありがとうございました😊
しゃろん;