もし俺が蟹で陸上部員だったら
こんばんは、シャーマケ(@sharmakenote)です。
今回は、私の高校時代の話を書きます。
何でかなぁ…高校3年生の時に突如、陸上部に入部しました。
そもそも1年生の時に、何を血迷ったか部員が一人もいないラグビー部に電撃入部。入部の意向を伝えるとガッツポーズして喜んでくれ、自分のためにラグビーボールを貸してくれた顧問のちょび髭先生とマンツーマンでパスの練習をして、それ以降一度も練習をすることなくフェードアウト。卒業間際、職員室にラグビーボールをおそるおそる返しに行くと、一言も自分を責めずに怒らずに受け取ってくれた、ちょび髭先生の何とも形容し難い微笑みが今でも忘れられません。
先生、内心さぞかしガッカリしたことでしょう。中途半端な覚悟で始めてすぐに逃げてしまい、最悪な生徒でした。ここで謝っても仕方ないけど、本当にごめんなさい。
閑話休題、話を陸上部に戻します。
府下大会を間近に控えたある夜、私は当時東京に単身赴任していた父のアパートに遊びに来ていました。
本当ならジョギングなどをすべきだったのかもしれませんが、何となくそういう気にもならず、代わりにアパートに引きこもりながら走力を楽にアップさせる秘策を閃きました。
その名も「おまたバタバタトレーニング(略してOBT)」です。
【OBTの手順】
①仰向けに寝転がる
②両膝を立てる
③高速で股を開いたり閉じたりする
トレーニング中、空いた両手を使って読書したりケータイを見ることができるのがOBTの大きなメリット。
「ダラダラと漫画読んでる間に、労せずしてパンプアップした股間周りの筋肉を手にすることができるのだ!」俺ってば天才だなワッハッハーと思いつつ、ジョギングの代わりに夢中でOBTをバタバタバタバタ毎日続けました。
数日後、私は陸上部の練習場に立っていました。
ちょっと早く来過ぎたのか、他の部員はまだ姿が見えません。
私は、自分の内腿の辺りをそっと撫でました。
ラグビーから逃げ出したあの頃の頼りない自分ではありません。
心なしか一回り太くなり、まるで今すぐ走ることを待ち望んでいるかのように、あの日置いてきた青春を取り戻すかのように、ドクドクと力強く脈打つ健脚がそこにはあるのでした。
「・・・・・・・いける!!!」
ナメック星に降り立ったばかりの孫●空のようにドヤ顔で両目を見開いて、おもむろに私は走り出しました。
ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥ~ン!
一瞬、自分の身体に何が起きてるのか分かりませんでした。
そして、数分間の逡巡の後、全てを悟りました。それはこういうことです。
OBTで鍛え上げた内腿は、おそらく股の開閉=横歩きに対して強い筋肉になってしまった。対して人間が一般的に走るという行為は、前進するための筋肉を使っている。横歩きと前進。横と前。緯度と経度。光と影。水と油。陰と陽。舅と婿。きな粉とみそ汁。太陽とシスコムーン。つまり自分は、走るための筋肉と真っ向からケンカする筋肉を鍛え上げてしまっていたのだ。
また走ってみた。ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥ~ン!ああっ、やっぱり!
もぉぉぉ~この筋肉邪魔すぎっっ。゚(゚´Д`゚)゚。
もし俺が蟹で陸上部員だったら、横走りで爆速タイムを叩き出し、今頃陸上界に彗星のごとく現れたスターになっていたのだろう。
女子蟹たちにも相当モテたに違いない。
人生、いや蟹生変わってたに違いない。つか蟹じゃないから。俺人間だから。別に羨ましくねーから。
内腿の震えが止まらない状態でがっくり肩を落としていると、ふいに西の空からフフフフっと誰かの笑い声が聞こえてきた。
温かくて不思議と懐かしいその響きに、胸がキリキリと痛んだ。
生まれて初めて陽の光を浴びた赤ちゃんみたいにグズグズ泣いてしまった。
その声の主とはいつかどこかで会い、そして長い付き合いになる気がした。
ー完ー