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サメがわんさかいる水槽で流血した話
ドバイの魚市場、旧デイラフッシュスークに取材に行ったときのこと(2016年)。
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女性ひとりの取材旅であったのだが、イスラム教文化の国では女性の活動は制限されることも多く、思うように市場でサメに出会うことができなかった。
そんなやきもきしていた中、気分転換にと訪れたのは、大型ショッピングモール内にあるドバイアクアリウム。
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水槽内ダイビングができるということで早速オンライン予約。
1ダイブ3万円位だった。
ここの水族館、300尾以上の大型のサメエイがいるのだが、シロワニだけでもぱっと見、50尾はいそうな雰囲気。これはエキサイティングなダイビングができそう!
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ダイビング前の注意事項はふたつ。
①シロワニの群れには近づいてはいけないこと。※襲われる可能性があるらしい。
②手を胸の前に組んでおくこと。※手をひらひらするとサメの注意を引くので、これもまた襲われる危険度が増すという理由のよう。
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実際に水槽内にエントリーすると、あまりの広さにまるで海。どこからどんな生き物が現れるのか予測はできない。
サメだけでなく、あらゆる硬骨魚類もエイもかなり大きい。甘噛みでもされたらひとたまりもないサイズばかり。
想像以上のエキサイティングさで、正直なところ、サメダイビングに慣れている私でもいささか安全面に不安を感じた。
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時間が経つにつれ慣れてきて、水槽の外のギャラリーの多さも目に入るくらいの余裕もでてきた。
水槽内でダイビングしている私たちに向かって、たくさんの子どもたちが手を振る。
事前の注意事項で、ダイビング中は終始腕組みしておくことを守るように指導されたので、こちらから手を振ることは我慢しなくてはならない。
でも次第に子どもたちはどんどん水槽前に集まってきて、全身全霊でこちらに手を振ってくれている子どももいる。
私は水槽内を見渡し、私の近くに大型のサメがいないことを確認した。
魔が差したというのはまさにこのことだろう。
私はルール違反とわかりつつも、ついつい、腕組みしている手をほどき、水槽の外のギャラリーに向けて右手を振ってしまった。
その瞬間…
鋭い衝撃が右手に走る。
私の右手から淡い紫色の煙が舞い上がる。
いや、ここは水中だ。それは煙ではない。紫色にみえたのは、私の血。水槽内に照らされた青白い照明が私の鮮血を紫にかえ、海水と混ざり合いながら薄められていくさまが煙のように見えたのであった。
300尾以上の大型のサメエイが乱舞する水槽で何者かに襲われ、流血しながらダイビング…。
本当にエキサイティングだった。
それは気分が悪くなるほどに。
その後、更に襲われることはなく、
無事に水槽からエキジット。
よかったー。
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手当してくれる愉快なガイドさんたち。
責任追及型の日本にはない楽しい雰囲気。
まぁ、このくらいの傷だったので何ら問題ないのだけれども。
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右手の人差し指の付け根と薬指に軽い傷あとができていた。サメの噛み跡ではなさそう。
何かが体当たりしたような感覚があったが、その生物があまりにすばやくて、視認できず。
この流血は何?
噛まれたのか?それとも何かがあたっての擦り傷なのか???
その後、何が起こったのか検証するため、ガイドさんが撮影してくれたGoProの映像を確認。
犯人は
ロウニンアジ
ということが判明。
あまりに素早く肉眼ではわからなかったので、映像をスローモーションしてみた。
結果、狙いを定めて高速で泳いできたロウニンアジに私は噛まれていたようだった。
サメじゃなかった。
GTは歯がかなりイカつい大型の硬骨魚類として知られる。
今回は指のつけねの下だったので、よかったが、もし指先だったと思うと…。
※釣り人の間では、ロウニンアジの英名Giant trevallyの頭文字をとってGTと呼ばれている。
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手当しながら彼らは言う。
いつもはロウニンアジは噛まないんだけどねー、何でだろうねー。
(サメに噛まれる例はあるけどね、ともとれるニュアンスが気になった)
私も何ででしょうねー。と苦笑い。
でも実は、思い当たるフシが私にはあった。
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この日、私の指先はキラキラしていた。いつもはいれないラメなんかを入れたデザインのネイルだったのだ。
手を振ったときに水槽内の照明が反射して、ルアーのごとくロウニンアジの気をひいた可能性が否めない…
●今回の気づき●
サメの群れの近くで流血しても、1尾もサメは寄って来ない。
(水流によっては例外もありうるかも)
よろシャーク。
ホホジロザメ (福音館の科学シリーズ)
ほぼ命がけサメ図鑑
サメサメ倶楽部もよろシャーク