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【開催レポート】 "ISO/TC 324" 第1回総会、閉幕
こんにちは。事務局の二宮です。
6/13(木)・6/14(金)の2日間、シェアリングエコノミーの国際標準化の会議「ISO/TC 324 "Sharing Economy"」に参加しました。今回が初めての総会で、アメリカや中国をはじめ、各国代表が顔を合わせる初の機会となりました。
今回は、少し長文ではありますが、2日間に渡る会議の内容をレポートします。なお、今回の会議の様子は、日本経済新聞でも取り上げていただきました。
国際標準化の概要を知りたい方は、下の記事をお読みください。
協会は、これまで自主ルールである「シェアリングエコノミー認証マーク」を運用してきました。これを参考にしながら、世界レベルでのルール整備を進めるとともに、日本発サービスの国際展開を後押ししたいところ。国際標準化は時間のかかるプロセスなのですが、2-3年で規格化することを目指しています。
今回の会議では、「『用語と原則』についてのワーキンググループ」と「用語や原則を基準に落とし込むための検討グループ」が設置されることが決まりました。日本は、ワーキンググループに参加すると同時に、検討グループのリーダーを務めます。
シェアリングエコノミーの定義や範囲で議論が紛糾しつつも、早急なルール整備が必要だという各国の危機感が感じられた2日間でした。
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DAY1 6月13日(木)
会議の議長を務めるのは、産業技術総合研究所の持丸先生。持丸先生は、シェアリングエコノミー認証制度の最終審査を行う「認証委員会」の委員長でもあります。
はじめに、ISO代表のMonica Ibidoさんから、ISO規格の概要や策定ステップについて紹介。TC(委員会)がワーキンググループに分かれて、テーマごとに規格に関する検討を進めることなどについて説明がありました。
そこで、アメリカやシンガポールのシェアサービスの事業者から、「規格をできるだけ早急に作ることができるか」という質問がありました。規格開発が何年もかかるようなスケジュール感で進められる場合、市場や技術が大きく変化してしまう可能性があり、規格自体の意味がなくなってしまう懸念が示されました。
次に、各国から国内のシェアリングエコノミーの状況の報告がありました。
各国からの状況報告
カナダ
はじめは、"IWA 27"という国際文書の策定を主導したカナダ。IWA 27は、シェアリングエコノミーの用語や原則について定めています。2017年にトロントでの2日間の国際会議という短いプロセスで作られたため検討すべき余地を残している一方、各国代表の意見が反映されたものであるため、今回の規格化のベースになると報告されました。
また、カナダ国内では、そこから調査やガイドラインの整備が進んでおり、より具体的な内容について記載があるとの紹介。
- "The Rise of the Sharing Economy" (CSA, 2017)
- "Maximizing the Gains from Sharing" (CSA, 2019)
中国
巨大なシェアリングエコノミーの市場規模を誇る中国。2018年時点で、市場規模が4300億米ドル、成長率が年率41.6%に達することとともに、国内のシェアサービスの多様性(生活分野、雇用、交通、スペース、医療など)について発表。また、83社の中国発ユニコーン企業のうち、34社がシェアリングエコノミー関連と報告がありました。
中国でもシェアリングエコノミー関連の基準作りが進められているそうで、「ユーザーの審査方法」と「ユーザー間の紛争解決手段」に関する2つの一般原則が紹介されました。
デンマーク
デンマークは、2019年に"Danish Council for Sharing Economy"という政府系の組織が設立され、シェアリングエコノミー関係の問題を討議しているとのこと。
また、"Deleøkonomi"というシェアリングエコノミー関係の情報を集めたサイトも紹介されました。
フランス
フランスは、規格開発の8つの強化領域(2016年〜2018年)に、シェアリングエコノミーが含まれていることを発表。また、「sharing economy」よりも「collaborative economy」という言葉の方が一般的に使われている場合があることも情報共有されました。
この会議には、用語の整理、「サーキュラーエコノミー」との棲み分けなどを期待しているとのことでした。
日本
日本からは、日本における市場の状況や、シェアリングエコノミー協会に所属する事業者の紹介を行うとともに、シェアリングエコノミー協会の活動について発表しました。
その中でも特に関連する活動として、協会が運用しているシェアリングエコノミー認証制度と、それを元にしたイギリスとの標準開発の事例を報告しました。
韓国
韓国からは、国内のシェアリングエコノミーの事業者の多くがスタートアップ企業であることに加え、シェアリングエコノミーを後押しするソウル市のシェアリングシティとしての活動などについて紹介されました。
シンガポール
シンガポールのシェアリングエコノミー協会の代表から、"Enterprise Singapore"という政府機関との連携などについて発表。政府と協力して、標準化にも積極的なようです。
また、シェアバイクの設置可能領域の指定、民泊やシェア電動スクーターへの規制強化など、政府による規制動向を紹介。
アメリカ
論点の一つして、先行して独占的なシェアサービスが出てきた場合に、市場における競争と独占のバランスをどのように保つか、それに標準がどう役立てられるかといった点があげられました。
また、シェアリングエコノミーの類型として、オンライン上でのマッチングサービスだけではなく、使われていない資産や権利のディーラー業(例えば、携帯通信サービスの余剰の通信可能量の買取と販売)のビジネスモデルも含まれるのではないかといった点も指摘されました。
関連する国際団体(労働組合組織など)
関連する国際団体として、労働組合や消費者団体、観光系の組織の参加がありました。これらの団体からは、労働者がプラットフォームに従属的な状況に陥ったり、社会保障がないために不利益を被ったりすることを懸念する声や、既存の観光業のルールと矛盾する規格にならないことを期待する声があげられました。
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DAY2 6月14日(金)
1日目は、各国からの発表が続くかなり情報過多な1日でした。2日目では、今回の国際標準化の「タイトル」と「スコープ」、そしてこれからの議論を進める枠組みとなるワーキンググループの座組みを決めていきます。
まずは、タイトルとスコープについての議論が行われました。シェアリングエコノミーの範疇にどこまで含めるかが大きな争点になりました。例えば、単に「sharing economy」という言葉でイメージする範囲が広いため、インターネットのプラットフォームを活用したビジネスモデルであることを明記するように求める意見もありました。
様々な意見が飛び交いましたが、最終的にはシェアサービスの類型がかなり広範に渡るという点で合意。現時点でシェアリングエコノミーの類型にどれだけ幅があるか見積もれないため、タイトル・スコープについては広く「sharing economy」と取ることで会議参加者は合意し、会議に参加していない国を含めた投票にかけることになりました。
続いてワーキンググループの設置については、「用語と原則」のワーキンググループを設置し、IWA 27の策定を主導したカナダがリーダーを務めることが決定。日本もそのメンバー国として参加することになりました。
さらに、日本から改めてイギリスと開発したPAS202について説明。「用語と原則」のワーキンググループと並行して、実際の「プラットフォームへの要求事項」のワーキンググループを立ち上げることを提案しました。
ただし、用語や基本的な方向性が定まらない中で具体的な基準内容を作り始めることを不安視する意見が多く、「ワーキンググループ」(Working Group)の設置には至りませんでした。その代わりに、すでに存在する様々なルールや標準に関して調査する検討グループ(Ad Hoc Group)を設置することになりました。
このグループは、PASや認証制度の事例を持つ日本と、ユーザーの審査方法や紛争解決手段の一般原則の事例を持つ中国が共同でリーダーを務めることになりました。
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終わりに
一筋縄ではいかない国際標準化の舞台でしたが、国際的にルール形成への要望が高まっていることが垣間見えました。その中で、標準化に向けた枠組みができ、それを主導するリーダーに選出されたことは成果であると言える一方、大きな責任が伴い、技量も問われます。
今後、今回設置されたワーキンググループ、検討グループでの活動を通じて、世界でのシェアリングエコノミーのルール形成に寄与していきます。次回の総会は2019年12月、カナダのトロントでの開催。それまでに日本国内での議論を尽くし、世界のルールメイキングを主導できるよう準備を進めたいと思います。
引き続き、国際標準化のニュースをフォローしていただくと同時に、国内のシェアリングエコノミー認証マークも応援していただけますと幸いです。