デジタル民家がつくり出す21世紀の原風景 ──VUILD秋吉浩気と丑田俊輔対談
2022年後半に秋田・五城目の地に建設がはじまった、5棟のデジタル民家からなるリアルコミュニティ「ネオ集落」について、建築面を中心としたパートナー・VUILDの秋吉さんと、シェアビレッジの丑田が対談しました。施主がつくるプロセスに参加する方法や、内装づくりの民主化、コミュニティをベースとしたお金面の運営スキームなど、集落づくりのための試行錯誤を語っています。
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住民はどこまで家づくりに参加できるか
丑田:
一年以上にわたるVUILDさんとの試行錯誤を経て、ネオ集落の第一弾「森山ビレッジ」の建設がいよいよはじまります。シェアビレッジとしては、集落の各棟を「建てる」部分にどこまで住民やコミュニティが参加できるかに興味があるんですよね。
秋吉:
一般的な設計者の考え方でいうと、住民となる施主が参加したからといって、コストが下がるというわけではないんですよね。住民が稼働する分の管理コストが増えますし、手直しなども発生するだろうと。一方で、今回のデジタル民家で開発している工法は、在来工法と比べるとコミュニティの参加余地が大きく、そこをどこまで攻められるかは今回のチャレンジと思います。
丑田:
VUILDさんは他の事例だとどうしてるんですか?
秋吉:
他だと、石垣島でNESTINGの長屋タイプは現地の職人さんたちが工場の中でユニットを組み、それを現地の敷地に持っていって組み上げるという方法をとりました。
従来、用いられてきた在来工法は、資材を現地に持ってきて職人さんたちが組んでいく形式でした。そうすると、専門性も必要ですし、それなりに工期もかかります。5棟分とかだとそれなりに時間がかかりますが、石垣島の際は3棟など複数建てるのも家1棟分ぐらいの早さで実現できました。
森山ビレッジでも、可能なら部品の組み立てをどこかの場所を借りて、資材を加工しておき、それを現地に運んで一気に建てる。建てる役割は、職人さんにメインで担ってもらいつつ、部品を造るところは施主参加にしたいと思ってます。
丑田:
屋根と壁を付けるところまでは、プロが一気に数日ぐらいで進めると。
秋吉:
形にするプロセスにも一部参加してもらってもいいのではと思うんですけどね。事例がないのでほとんどの建築会社はやりたがらないし、設計者だってやりたがらない。懸念点は、精度と安全。僕たちはそういった点も含めて、造る方法を考えないといけません。
丑田:
北海道ではどうやって作ったんですか?
秋吉:
北海道では、柱と壁は建て起こして梁と屋根は吊って取り付ける方式でやりました。そのときの経験から、素人ももう少し参加できないかなと考えているんですけど、まだ大変ですね。
LLCスキームで不動産価値を高め、特定多数の集まりを目指す
秋吉:
建て方以外だと、お金のスキームもネオ集落らしいやり方を検討したいですよね。一人ひとりが住宅ローンを組む以外の選択肢をつくれないのか?というのは考えたい点。コーポラティブハウスも皆でつくるけど資金は別々、コーポラを超える仕組みを考えたいと思いました。丑田さんと一緒に検討を重ねるなかで、LLCのアイデアが思い浮かびました。
組合をつくり、土地も建物も組合で所有して、諸々の権利を転化しやすい状態をつくる。住宅ローンは個人に紐付いてしまいますが、組合形式であれば、コミュニティに紐付くようにできるんじゃないかと。不動産にかかる法的な制約も踏まえて、現状においてはLLCが最適という結論になりました。LLCに各住民が出資しつつ、残りを銀行から融資を受けられれば、個人に紐付かない家づくりの運営ができるのではないかと考えました。このスキームづくりに、時間を同時に費やしましたよね。
丑田:
昨年の「ポスト資本主義の住まいをつくる」の連載では、住宅ローンの誕生と「ラットレース的資本主義人生ゲーム」の深い関わりについて述べられていたのが記憶に残っています。今回、ネオ集落のお金面でのトライは、そこを超えられるかに挑戦している。せっかくユニークなチームでやるからには、振り切ってやっちゃったほうがいい。
丑田:
今回、お金面で考慮したのは2つ。1つは、「お金持ちの別荘地」のような感じで、潤沢なお金がないと成り立たないものではない、新たな建て方のモデルが実現できないか。もう1つが、二拠点居住やたまに訪れる人も住まいづくりに関わる余白があるという点。
ネオ集落をコミュニティメンバーと一緒に共有してつくるスタイルを実現する上では、個々の住宅ローンを組んでしまうと、それが足かせになってしまい、多様な住まい方に対応しにくくなってしまう。それも今回のLLCモデルでまとめて変えていこうぜって話してますね。
秋吉:
あと、関連して調査をしてる中で、そもそも木造賃貸住宅がなぜ減っていったのかについてもわかってきました。今までの資本主義、つまり銀行の評価のものさしに合わせると、これは資産価値がつきにくい状況になっちゃっているからなんですよね。
ネオ集落のように会員、つまり村民ですね。村民を募集してそのコミュニティが資産を持つ、コミュニティにイグジットできる仕組みは、従来の評価軸から外れるためには重要な点ですよね。
ローンなどもできる限り個人にとどまらずコミュニティに紐づけて、継承する先もコミュニティが育てる。入口のファイナンスの仕組みと、出口となる継続していく仕組みという点で、このスキームが一番いいんじゃないかと思います。
丑田:
とはいえ、前例が世の中にないから苦戦もしますね。普通に考えると法人に事業性のローンで貸すと、2パーセント以上の金利になってしまう。個人の住宅ローンだと、国の制度でも優遇されてるから、1パーセント未満の額で借りられますから。LLCスキームによる集落ローンが、個人の金利に近づいていきつつ、普及していけばと思っています。
まず、このスキームでの最初の事例を五城目で実現して、そうすると次に続く人が土地を見つけて、仲間を集めて、コミュニティで集落をつくろうとする流れが各地で出てくるんじゃないかと。そのモデルケースにはしたいですよね。
秋吉:
したいですね。不動産クラウドファンディング的な感じで、地元を盛り上げるためにも、コミュニティに投資する人も地域の中にはいると思うんですよね。もちろん、利回りもある程度実現できている前提で。将来的には、特定多数の人々に小口の出資、あるいは融資でコミュニティに入ってもらう仕組みが広がっていくはず。
LLCのスキームは、特定多数になるというのも重要ですよね。Airbnbなどの既存サービスは、不特定多数の人たちが出入りするものですが、ネオ集落が目指すのはある程度、顔が見えるコミュニティ。
そうすると、不特定多数よりも「みんなで運営していく」「お客さんにならない」という要素が大事になる。その上で同質性を下げるという点をみなさん求めているのも面白いですよね。
丑田:
確かに、コミュニティが同質化すると、濃度は高まっていきつつも、新陳代謝が起きづらい。特定多数の集まりで、新陳代謝があって、異質さを常に楽しんでいけるというのが、現代の村づくりの肝かなとは思います。
関わる人が「お客さま」になってしまうと、サービスとして高いか安いか、ラグジュアリーかどうかみたいな従来の価値観で捉えてしまう。ネオ集落は、これまでとは違った物差しで住まいを考えていくようなモデル集落になれたなと。
内装部分の民主化による予算のハック
丑田:
住宅の内装部分では、子どもたちがロフトの部分の設計をしたりと、建物の中の編集を民主化していくというのも、今回のプロジェクトの面白さですね。この内装を自分たちでつくるためのツールの一つがEMARFですよね。
秋吉:
ハードウェアが便利になったとしても、それを使うためにはソフトウェアを手に入れて、習得しないといけません。データや設計の方法論もインプットが必要です。プロではない人が家具を作るまでにはハードルがいくつかあって、EMARFではそのハードルをめちゃくちゃ下げようとしています。
丑田:
それぞれの棟の内装づくりでは、EMARFを使い倒してみたいです。
秋吉:
自分たちでできる限りデザインしていくことを目指しつつ、一方でみんなができるわけではないと思うんですよね。例えば、同じ地域にいるデザイナーにデータの作成を依頼して、それで出力する、なんてこともありえます。せっかくなので、そういう事例を増やしたいですね。
丑田:
集落の敷地には余白が多いから、焚き火エリアやサウナ小屋、森の中の茶室などいろいろつくりたいねって話がでてるんです。こうやって自分たちでいろいろつくれるとなっていったら、集落ができた後も空間自体が変化していく余白があり、関わる余地が出てくるなと思います。
秋吉:
デジタルファブリケーションの特徴として、機械加工で細かく部品を作れるので、在来工法から離れた自由な発想を実践しやすくなった。今回の各棟の空間は、真ん中に柱が落ちてこないっていうことがあって、このまま内部の間仕切りを外しても構造体として成立する。途中で住まい手が変わったり賃貸に出したときにも、そこからさらに自身で内装をつくり込める自由度もあると思います。
丑田:
建てたときが完成系でなく、コミュニティと共に刻々と変わっていく住まい、いいですね。
秋吉:
内装部分の民主化は、このプロジェクトにおける難題である予算のハックでもあるんですよね。みんな、予算の制約がある中で実現しようとすると、施主が参加する部分でコストを下げるという挑戦も目指したいです。
丑田:
確かに。施主が参加しながら建設するとなると、安全性等の懸念もあるから工務店側もある程度考え方を変える必要があるし、施主側もプロが完璧に建ててくれるし、なにか不具合があったら責任は全部工務店にある、みたいなことができなくなる。明確に線引されていたラインをちょっと曖昧にしていく挑戦も必要で、その辺りも個人的には楽しそうだなと思ってます。
秋吉:
「施主次第」の部分は、僕の立場で言及するのは難しいですが、金銭的価値での支払いにすると、予算は高くなってしまう、というのはありますね。かつて、普請は施主が職人にご飯をごちそうするなど、報酬をご飯にしていた時代もあった。例えば、シェアビレッジが提供しているコミュニティコインのようなもので報酬を支払い、通常の通貨として使えるわけではないけれど、対価を受け取るという取引が成立したらちょっと変わってきます。
住人が参加するとはいえ、丑田さんたちだけではつくるのは大変なので、仲間を呼ばないといけないと思います。その人たちの稼働を時給に換算すると、人件費がかなり高くなるので、他の報酬の仕組みを用意して、金銭的なコストをどれだけ下げられるかは、大きなポイントですね。
丑田:
茅葺きの古民家を運営していたときも、村民制度をつくって、毎年萱刈りの時期とか葺き替えの時期になると、楽しんで協力してくれる人たちがいたんですよね。そこに、コミュニティコインのようなものをつかって、贈与を投げあっていくような関係もできるといいと思っていて。現代の資本主義における等価交換を少しぼやかしていくような、そういう実験もしていきたいです。
秋吉:
きっと、そういう人たちが自発的に参加するプロセスをあまり管理しないんでしょうね。もちろん、品質管理はしますが、工程は管理しない。自律的で、民主的な仕組みを含めて、トライアルしたいですよね。
地域の資産を活かし、風景に馴染ませる
秋吉:
他には、五城目の中で取れた丸太を建材につかいつつ、経済合理性の中でなくなりつつあるローカルな民家の形式を、頑張ってこの予算内でやるっていう。五城目を歩いていて面白いのは、入母屋の屋根とか中門造りの家が残っていて。こうした農家の家のスタイルを、デジタルでアップデートしていきたい。短期的な初期コストとしてはフットプリントに現れてこない庇とか大きな軒、半屋外とか軒下って、明らかに住まいや町並みを良くしている。
丑田:
今回、秋吉さんたちが五城目に来てくれて、製材所や木工所を回ってみて、こんなに身近にいるのに、木材のバリューチェーンって、全然つながっていないんだって驚きだったんですよ。目の前に山があるのに、そこの木材が使えていなかったり、製材や加工できる人はいるけれど地域の住宅産業にはつながっていなかったり。
こういう状況は全国各地で起きているように感じていて、ネオ集落はそれをつなぎ直すというのも一つのチャレンジですね。30キロ〜50キロ圏内でのソーシャルキャピタルを高めて、自然とつながっていくきっかけになっていくと感じます。これもデジタル技術を活用した工法が民主化されて、やりやすくなっているんでしょうか。
秋吉:
部品を細かく刻んでユニット化する部分が、これまでだとプロの力が必要でしたが、その工程が民主化されたっていう感じですね。VUILDは、各地に木材の3D加工機「ShopBot」の導入を行ってきて、今では100を超える場所にShopBotが導入されています。
データさえあればどこの地域でも木材をデジタル加工できる環境が整ったので、自律分散型の生産ネットワークを活用して、地域の木材を地域で活用することを推進していきたいと思っています。それができたら、地域のバリューチェーンが途切れているところにもアプローチできるのではないかと。
秋吉:
あと、誰にも言ってないんですが、できればチャレンジしたいことがあって。
丑田:
なんですか?
秋吉:
屋根を茅葺っぽく、3Dプリンターで作りたいんです。茅葺って結局はファイバーなので、3Dプリンターみたいに中がすかすかな樹脂をちゃんと、すごい厚みをもって作っちゃえばいけるんじゃないかなと。3Dプリンターの材料代ってその体積なので、分厚くても中はすかすかだったら、おそらくそこまでコストが高くならないんじゃないかと。
大学院の時に在籍していた研究室では、リサイクルのごみから3Dプリンターの樹脂にして出力してて、それが割と実用可能なレベルになって、単価感も見えるようになってきたんですよね。今回、秋田でどこまで研究室が付き合ってくれるかですが、秋田の都市部でプラスチックをいっぱい拾ってきてそれを樹脂にしたら、現代における茅葺を刈る感じになりそうじゃないですか?
丑田:
めっちゃおもしろい。
秋吉:
ファイバーだから断熱性能もあるし、樹脂だから雨も流れるはずで。お金がかかりそうではあるので、追加でクラウドファンディングとかで資金調達できたりするといいんですけどね。
丑田:
ある程度、予算のキャップはかけておかないとですが、経済非合理的なところにもチャレンジできるといいですよね。現代の茅葺屋根づくり、そして21世紀の原風景、ぜひ考えましょう(笑)
編集:モリジュンヤ(Inquire)
「コモンズの再発明」シリーズの過去記事も是非ご覧ください!
「Share Village」公式ウェブサイトはこちら。
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