地域に300年愛された「湯の越温泉」を復活させるドタバタ劇!いま、「暮らしを自治する」ということ
2022年3月26日、いつかドラマになりそうな温泉がリニューアルオープンする。この小さな田舎町の温泉復活ストーリーから、「暮らしを自治する」ということに、あらためて向き合ってみたい。
執筆:丑田俊輔(シェアビレッジ代表)
地域に300年愛された「湯の越温泉」
コロナ禍の2020年に休業した、秋田県五城目町の山間にある乳白色の硫黄泉。
約300年前から温泉として親しまれていた場所で、数十年前までは小学校の敷地内にある温泉として、子どもたちが放課後に浸かって帰ったという思い出話も。
有名な観光地ではないこのまちにおいて、決して派手さはないけれど、地元の人たちの日常においてとても大切な場所でもあった。個性あるお湯が好きで、秋田に住み始めて以来、僕も毎週のように通い続けていたのだった。
「復活させたい!」という声が次々と集まり、温泉の常連であった方々をはじめ、多世代の地域住民が立ち上がった。
温泉復活に向けたドタバタ劇
国から全国民に支給されたあの10万円。「これを元気玉のごとく持ち寄ろう!」と、その出資金で合同会社ゆあみが誕生。「結いを編み直す」「湯浴み」「You & Me」、というダジャレ付き。
そして、当時秋田高校3年生の木下妥子も10万円を持ち出し、プロジェクトのリーダーに。(現在はミネルバ大学に進学してサンフランシスコから参画中)
「こんな温泉にしたい!」と色々な妄想を繰り広げながら、オープンに向けて準備を進めていると。まさかの、、、
という事態に。そこに、大家である松橋建設さまが思い入れのあるこの場所を未来に残していくためにも、「温泉を掘る」とご決断。長い間地域に根ざして活動されてきた経営者の粋な意思決定に、もう尊敬と感動ばかり。
そんなこんなでボーリング工事がはじまり、先日、「温泉が湧いた!」という一報。「うおおおお!!!」と皆で喜びながら、急ピッチで再オープンに向けた準備がはじまっていった。
出資者達で集まって大掃除したり、国際教養大学の卒業生や学生がチームに参画したり、コロナ下で閉館した施設のスウェーデン製ロウリュサウナを受け継いだり。
2022年新年からは、秋田銀行さんとの連携によるクラウドファンディングも行ったり。(267%達成!現在は募集終了)
とにかく、ここでは書ききれないほどの数々のドラマを経て、いよいよオープンする。秋田の山奥の温泉を舞台にしたドタバタ劇は、まだまだこれからが本番だ。
暮らしを自治するということ
決して絶景の温泉でも、著名な観光地でも、ものすごい資本力で改修したり最新設備を整えているわけでもない。
だけども、地域に暮らす人や関わる人達が持ち寄りながらつくっていく、というあり方に、とてつもない可能性を感じている。
そして、温泉という資源を一部の人で占有しているわけでもなく、地域に暮らす人や、外から来る人にも広く開かれている。
こういうのがまさに「コモンズ」なのだと思うし、あえてそんな言葉でラベリングせずとも、いい湯加減の温泉に浸かれば、立場も年齢も脱ぎ捨てて、自然と笑顔やつながりが生まれていく。
運営母体である「合同会社ゆあみ」は、地域に暮らす人や、温泉が好きな人などが集まって設立された。
出資金は一人10万円。議決権は一人一票。出資者へのお金の配当はゼロ、利益が生まれた場合は事業とまちに再投資していく。(出資者には、温泉入浴の株主優待券は一定程度発行される)
お金も体も知恵も持ち寄っていくけれど、その対価として直接的にお金が増えるわけではない。だけども、たくさんの人達が関わりを持ってくれている。
純粋に温泉に入りたいという理由から、次世代を応援したい、楽しいまちづくりに貢献したいなど、動機も人それぞれ。
関わり方も人それぞれ。テレビや冷蔵庫など備品を持ってきてくれる人、消防や営業許可申請に専門的な知見をもって支えてくれる人、地域の集落の人たちとのより良い関係性に汗をかいてくれる人、暖かく見守ってくれる人、見えないところで支えてくれている人。
自分自身は、出資に加えて合同会社の役員としても参加させてもらっているが、役員報酬はゼロ。日常で好きな温泉に入れること、面白いプロジェクトに参加できること自体が報酬だ。福禄寿酒造16代目も役員仲間で、「温泉×日本酒」「温泉×発酵」といった掛け合わせにもワクワクする。
(Share Villageの視点からは、住民自らが自治する“コモンズ温泉”づくりという小さな社会実験に、とても大きな意味を感じている!)
このあたりは、前回のnoteで書いた下記の話にも通じている。
資本主義の隙間からこぼれ落ちる潤沢な資源を活かす
正式オープンした後は、出資者か否かに関係なく、広く開かれた温泉としての運営がはじまる。
持続可能な場にしていくためには、お金がしっかりと循環する経営視点も、来てくださる人に最高の湯加減をお届けするための日々の努力も不可欠だ。
同時に、お客さま=「消費者」としての存在にとどまらず、いわば「贈与者」として共に素敵な暮らしをつくっていくパートナーであるという関係性も育んでいけたらと思う。
今回のような温泉をはじめ、地域には、山・遊休地・空き家など、資本主義の隙間からこぼれ落ちる潤沢な資源が湧き出している。
こうしたポテンシャル溢れた資源を新たな視点をもって見つめ直し、多様な人たちが参加し自治していくことで、暮らしはより楽しく豊かにしていくことができるはずだ。
商店街には空き物件を皆でリノベした遊び場があって、山間部には地域の人たちで運営する温泉があって、近所の畑や里山もシェアしていて、、
そんなふうに捉えると、すべてを個人で所有しなくても、住宅の中にすべての機能を詰め込まなくてもよくなってくる。地域は、リアル「あつ森(あつまれどうぶつの森)」をプレイできる舞台なのだ。