村づくり民主化宣言──「村」の再発明からはじめるポスト資本主義の実践
「村があるから村民がいるのではなく、村民がいるから村ができる」
「シェアビレッジ(Share Village)」は、2015年に秋田県の辺境から始まった「村」の概念をひっくり返すプロジェクトでした。
2020年、シェアビレッジはコミュニティづくりの民主化を進めるプラットフォームを運営する母体として生まれ変わります。みんなで資源を持ち寄って育む、「共創型コミュニティ=ビレッジ(村)」づくりを進めていきます。
なぜ、コミュニティの民主化を目指すのか。現代における「村」にどのような希望を込めているのか。言葉にしてみたいと思います。
「100万人の村」を目指したシェアビレッジという挑戦のはじまり
「シェアビレッジ」は、2015年5月、秋田県五城目町の里山にある茅葺古民家を舞台に、都会と田舎のシェアを生み出す、新しい"村的”なコミュニティとして誕生しました。
消滅の危機にある古民家を村に見立ててシェアし、多くの人で1つの家を支える仕組みをもって、全国の古民家をつなぎながら「100万人の村」をつくろう。そんな願いを込めて、秋田出身のエンターテイナー・武田昌大や地域の仲間たちと一緒に始めました。
シェアビレッジでは、会員ならぬ「村民」が、会費ならぬ「年貢」を持ち寄り、古民家の維持管理費を賄いながら、第二の田舎として滞在する「里帰」や、地域共同体の営みに参画する「助太刀」、楽しみながらつながるフェスイベント「一揆」といった仕掛けを通じて、みんなで持ち寄って育む共創型コミュニティを運営してきました。
全国各地より多世代の「村民」が集い、地域との関わり合いを通じて新たなライフスタイルが自然と生み出されていく姿は、2015年度のグッドデザイン賞ベスト100&地域づくりデザイン賞をいただいたり、関係人口の優良事例として様々な場面で紹介されるように。2016年には香川県仁尾町での村づくりがはじまるなど、各地での自律的な活動が生まれていきました。
拡大志向を手放し、資本主義を相対化する
2015年から数年が経ち、村民と拠点が増え、『100万人の村』という目指していた姿に少しずつ近づいている一方で、なにかもやもやする気持ちがありました。コミュニティを拡大しようという意識を強くしすぎることによって、小さなコミュニティに備わっていた手触り感が薄れていってしまうのではないか、そんな不安が生じたんです。
村民の人数が拡大していくと、それだけ集まるお金も増え、利便性は上げられます。ただ、次第にサービスを提供する側と、享受する側の立場がはっきりしてきてしまい、小さな規模のときには存在していた主客一体のような雰囲気は弱まっていってしまうように感じられました。
そもそも「村」という言葉には小ささが含まれていて、原点に立ち戻ると、その顔の見える関係性を何よりも大事にしていたはず。
こうした経験もあり、「拡大志向パラダイムを手放してみよう」「一つのコミュニティを大きくしていくのではなく、誰もが小さな村をつくれる環境をつくっていきたい」と、考えるようになりました。
こうした葛藤を抱え、村のあり方を考えている中で起こったのが、新型コロナウイルスの広がりです。地球規模の大きなシステムがゆらぐ中、その片隅に確かに存在する、小さなコミュニティの豊かさ。
2011年3月11日に起きた、東北の震災によって見直されたコミュニティの価値と可能性を、テクノロジーも活かしてアップデートしながら、再び東北から湧き上がらせていくことの意味は大きいのではないか、とも考えるようになったのです。
「シェアビレッジの運営を通じて蓄積されてきた価値を、プラットフォーム化して社会にシェアしよう、そのために新しいチャレンジを始めよう」──そう決意しました。
共にプレイフルに生きるための「村3.0」という可能性
設立初期からシェアビレッジが目指してきた「村」の形は、中心のない構造。
中心にカリスマや強烈な思想があって中央集権的に運営するのではなく、一人ひとりの参加によって形づくられる共創型のコミュニティ。言い出しっぺの村長はいますが、フラットな関係性で、村民が資源を持ち寄って村づくりに関わり、本気で遊びながら一緒につくっていく形です。
円の中にあるのは、みんなで資源を持ち寄って育む「コモンズ(共有資源)」。例えば、これまでのシェアビレッジでは、古民家という資源をコモンズとして運営してきました。企業や行政サービスの消費者という立場を越えて、自分たちの生活に必要なものを自分たちで管理していく、従来の「村」が担ってきた営みをアップデートしてみようという試みです。
コモンズは古民家じゃなくてもよくて、山、温泉、食堂、農地、住宅など有形資産かもしれませんし、はたまた教育などの無形資産かもしれません。そして、物理的な行政区や住民票を越えて多様な人が集う新たな「村」が生まれたり、自ら参加してつくる「村営」の場が増えていったら、と思うのです。
生存のために生まれた自然村(1.0)、統治のために生まれた行政村(2.0)。そして、リアルとバーチャルを横断しながら、プレイフルな気持ちを原動力に生まれていく新たな村の概念を「村3.0」と呼んでみたいと思います。
人類が長らく忘れていたかもしれない、村をつくる、という営み。消費者根性にドロップキックして、暮らしの中に自ら参加し、つくる場所を持つ。そのためのプラットフォームをつくります。
自律した、参加型の「村」を育むためのプラットフォーム
新生シェアビレッジでは、コミュニティの立ち上げと運営、コモンズ(共有資源)の運用に最適化した「共創型コミュニティプラットフォーム」をつくっていきます。
「村つくろう。」と思い立った時、どんなインフラがあると良いでしょうか?
まずは、「こんな村をつくりたい!」という妄想を世の中に表明したり、村民を集めること。ワクワクする村の「ランディングページ」や「村民募集・管理」機能。
そして、みんなで資源を持ち寄るにあたり、その一つとしての「お金」を集めること。納税や年貢、町内会費のようなニュアンス。今風に言うと、サブスクコミュニティを誰もが自由につくれる、「サブスクリプション決済」機能。
そして、集めた資源を透明化したり、コモンズ(共有資源)をいい塩梅で運用すること。村長が権力で牛耳らないように...笑 そのツールとしての「コミュニティコイン」「コミュニティウォレット」「交流スレッド・チェックイン」機能。
コミュニティコインといっても、従来の仮想通貨や地域通貨とは少し異なり、持ち寄った資源に応じてコインが村民に配布され、村内(コミュニティ内)でのみ利用できるもの。円には換金できません。また、4半期に1/4ずつ減価していくことで、貯蓄できない仕様にしています。
例えば、月5,000円の年貢をサブスクで納めた村民に毎月100NENGU(コインの単位は自由)が配布され、50NENGUくらいでコモンズの古民家に一泊できます!といったイメージ。すぐ使わないコインがある人は、古民家の茅葺屋根を葺き替える作業に貢献してくれた村民に、感謝を込めて50NENGUプレゼント!なんてことも。
コモンズの運用をなめらかにするツールであり、村民同士で感謝を贈り合うツールでもある。貨幣ではないけれど単純な贈与でもない、そんなコインがどのように循環していくのかを実験していきます。
加えて、「姉妹村協定」機能によって、他のコミュニティとつながり、相互に交流できる状態も目指します。一つのコミュニティでいろんな価値を網羅しようとすると、拡大志向につながり、大きくなりすぎてしまうかもしれない。一つひとつのコミュニティは自分たちの価値を大事にして、適切な大きさを保ちながら、互いにつながることで楽しさを高めていける状態をつくります。
姉妹村同士は、「30NENGU贈っとくので、今度秋田来た時使ってね!」といった具合に、お互いのコミュニティコインを贈与し合えるようになります。交換じゃなく、あくまでプレゼント。
これら数々のコミュニティコインや、サブスクで持ち寄ったお金が今どのくらいあるのかを可視化するのが「コミュニティウォレット」機能です。
β版ではこれらの機能を中心に、「コミュニティテック」という合言葉で、Webサービス・スマートフォンアプリを提供していきます。同時に、機能にとどまらず、村長同士が村づくりの知見を学び合ったり、シェアし合える環境づくりも進めていく予定です。
プラットフォームも、会社も、協同で運営する
現在、β版でのShare Villageの機能は、十分ではないと考えています。村を運営していく中で、様々な機能が必要になるはず。ただ、それを中央集権的に展開していくのではなく、プラットフォームに参加している方々と一緒につくり上げていきたい。共創型コミュニティを運営するためのプラットフォームなのだから、プラットフォーム自体も共創していきたい、そう考えています。
プラットフォームも共創していくのであれば、その運営母体もそうあってもいいんじゃないか、いやむしろそうあるべきなのではないかと僕たちは考えました。そこで、シェアビレッジを再始動する上での運営母体は、協同組合型でのプラットフォーム構築(Platform Cooperative)を志向し、「協同組合型株式会社」と呼ぶことにしました。
法人化したシェアビレッジには、株主として18名・社が関わってくれています。株式会社のルールに則りながらも、議決権を有する普通株式(一人一票)と、議決権を有しない優先株式の二種類の株式を発行することで、参加する一人ひとりのオーナーシップを基盤としたプラットフォームの育成を実践していきます。
株主は、「村」の世界観に共感して一緒につくっていく仲間。一緒に温泉に入ったり、焚き火を囲んだりしながら、事業のみならず互いの内面も含めて語り合ったり、それぞれの村づくり構想をシェアし合ったりしています。
そして、今後はプラットフォームを利用する新たな村長達も、徐々に株主として参画していく間口をつくっていきたいです。「プラットフォームに手数料を搾取されている感」を、「よりよいプラットフォームを育てていくために持ち寄る贈与的利用料」のような関係性にできないか?という問いに向き合っていきたいし、プラットフォームの成長度合いに応じて、手数料・利用料も増減していく仕掛けも面白いかもしれません。
自分たちの感情やわくわくする気持ちが起点となって、暮らしや村がつくられ、新たな関係が紡がれていく。そんな関係性が網の目のようにあちこちに広がっていくよう、プラットフォームとしてのShare Villageを育てていきたいと考えています。
自分たちのコミュニティを複数持つ生き方
これからは従来の大きな社会が溶けていき、様々な小さなコミュニティに所属しながら生きるスタイルの人々が増えていくはず。コミュニティは多様になるはずで、自分にとって合う場所、参加できる場所が増えていきます。
これまでの村は、場所に縛られ、ひとつの土地に機能や資源や村民が集積していました。これから生まれる村3.0は、こうした制約からも解放されていくはずです。土地に機能が紐付いた集積型の村に加えて、あちこちに機能は分散しているけれど村民は同じという分散型の村が生まれる。例えば、とある村では秋田で村営温泉を持ちながら、神田の居抜きの飲食店に村営キッチンがある、なんてことも実現できます。
新たな村のあり方では、これまでのように物理での価値もありつつ、物理の制約から解き放たれていきます。そして、そういうコミュニティが増殖していけば、人々は自分のライフスタイルにあわせて、複数のコミュニティに所属して生きていきやすくなる。
だれもが自分たちのコミュニティをつくることができる。様々なコミュニティに参加する。コミュニティ同士がつながり、小さな経済圏が共鳴する。そんな新しい生活様式をあたりまえにしていきます。
面白そう!と思った方、ぜひこのムーブメントに参加しませんか?
皆で持ち寄って育む、“村”のようなコミュニティをつくってみませんか?
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