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地域資源×デジタル×コミュニティによる「ネオ集落」を妄想する

1年以上の準備期間を経て、いよいよ「ネオ集落」が形になる。2022年、秋田の遊休地に、「地域資源×デジタル×コミュニティ」によるリアルな集落を建設していく予定だ。

21世紀に新たな集落をつくってみる!というこの営みを、その意味やプロセスも含めて連載でお届けしていく。

執筆:丑田俊輔(シェアビレッジ代表)

人類の住まい方の変遷

狩猟採集生活をしていた人類が、定住生活をはじめてから長らく経つ。近代まで、住まい(住居)や集落は、身の回りにある資源を活かし、その土地の風土とコミュニティによって形づくられてきた。

わかりやすいのは茅葺古民家。里山の木材を切り出し、集落で共同管理する茅場で屋根用のススキを育て、半径数キロ圏内の資源で住まいが完成する。建てる時も、メンテナンスする時も、個人の所有にとじておらず、集落のコミュニティの共助が関わってくる。「今年は皆であいつの北面の屋根やるべ」といった具合に。維持するためのエネルギーは、里山から調達する薪などで循環させていた。

「住まう」という営みは、自給経済と贈与経済を基本にしつつ、一定の貨幣経済も組み合わせながら成り立ってきた。

こうした住まいは、近代において資本主義と都市化が進む中で、次第に市場化・商品化していった。大量生産可能な規格化された建材や住宅と、35年の住宅ローンの仕組みが組み合わさることで、貨幣経済の枠組みの中で住宅を建てること、その住宅は個人の所有物として完結することがあたりまえになった。(尚、都心の一等地をのぞいて、建てた後の住宅の価値は年々下がっていく)

時代は移り変わり、最近では、2拠点居住や多拠点居住といったライフスタイルも普及しはじめている。若い世代を中心に、モノを所有することや、大きな家を持つという欲求は弱まり、シェアすることもあたりまえとなってきた。また、サービスを消費する立場にとどまらず、DIYやセルフビルドなど、つくり手になること自体に楽しみを感じる人も増えてきた。

遊牧と定住、所有と共有、生産と消費。これらの二項対立を越えて、止揚(アウフヘーベン)した先にそれぞれの豊かさを見つけていく過渡期にいる。

田舎の住宅事情

筆者は、2014年から秋田の田舎町に住んでいる。ひょんなご縁で巡り合った茅葺古民家を村に見立て、全国各地の村民達とシェアする(コモンズ化する)ことで、今でいう多拠点居住や関係人口といった住まい方をする人たちも生まれてきた。こうした生き方は、もはや住民票や、一般的な賃貸借契約、旅館業法などの既存の法制度では管理しきれなくなってきている。

次第に関係性が育まれる中で、引っ越してみようとか、2拠点目の住まいを持ちたいといった人も自然と出てくる。そんな中で多くの人がぶつかるのが、「ちょうど良い住まいにめぐりあえない」問題だ。

空き家はあれど、知らない人には中々貸してくれない。田舎町には不動産仲介業という仕事が存在しなかったりもする。空き家を借りられたとしても、一定水準を満たす状態の住まいは必ずしも多いとはいえない(特に近代的な住まいに慣れている人にとっては)。町によってはアパートという選択肢もあるが、田舎に住むなら戸建てがいいという人も多いだろう。

また、日本の住宅は断熱性能などの水準がそこまで高くないものが多いという実態もある。特に雪国では寒かったり、灯油代がかなりの額になる。かといって、移住してすぐに新築でローンを組んだり、空き家を購入してフルリフォームできたりするかというと、結構ハードルは高いだろう。(都心部と比べて、建てた家を将来売りたいという場合の難易度も高い)

2拠点居住を前提としていて365日は使わない、という人にとっても、バシッとはまる住まいは見つけにくいのが現状だ。(最近成長している多拠点居住系のサービスは、こうしたニーズを下支えしている一つの形)

全国各地の行政が移住定住をスローガンに活動しているが、住宅の選択肢があるかどうかは、地味なようで致命的に大事な要素である。

21世紀の集落を妄想してみる

前置きはこれくらいにして、じゃあ自分だったらどんな住まい方が理想なのだろうか?妄想をどっと書き出してみる。(雪国の田舎に住みつつ移動も割とする暮らしをしている人間の、完全に主観的な話である)

1.参加してつくる自分たちの住まい

こんな住まい方をしたい!こんな場所に住みたい!という妄想を、従来の選択肢の中にとどまらず、楽しみながら形にしていきたい。設計から施工まで、建築プロセスに住まい手(大人も子どもも)や関係する人たちが参加できる余白がある。

自分たちが理想とする住まいづくりを実現しながら、同時に、貨幣経済としての建築コストの低減もある程度できたら嬉しい。でも、完全にDIYはちょっときついので、プロの力も、適正なテクノロジーの力も借りたい。

2.コミュニティと共にある住まい

田舎にぽつんと一軒家もちょっと憧れるけれど、色んな人たちと関わり合う中で暮らしたい。複数棟が集うことで小さな「集落」となり、個人の住宅を越えたコミュニティとしての価値が宿っていく。フルで住む人だけでなく、2拠点居住する人やたまにくる人も含めた多様な住まい方ができる。あくまでお客さまではなく、共に住まう仲間として。

まち全体の資源も活かして(空き家に倉庫、商店街にあそび場(子ども部屋)、お風呂は温泉みたいに)住まいの機能をまちに分散することで、新たに建てる部分は小さくてもいい。

近隣の人たちも遊びにきてくれるコモン空間があって、日常の中で地域とのゆるやかな関わりが育まれていく。でも、プライバシー完全ゼロとかはきついので、閉じていて開いている(プライベートとコモン)のが同居している感じ。あと、同じ価値観だけで同質化しすぎず、村のように異質さが共存している感じ。

3. 地域の自然・人・文化を活かした住まい

身の回りの里山の森林資源、木や住まいに関わるプレイヤー(半径数十km圏内くらい)と、その土地に紡がれてきた文化をつなぎ直していく。資本主義からこぼれ落ちた潤沢な資源を活かしていく。

その土地ならではの建築様式や自然の力の取り入れ方、素材やエネルギーの調達、住宅づくりに関わる域内の仲間たちとのタッグ。建てる段階も、暮らす段階も、循環しながら、できる限り環境負荷を低くおさえたいし、お金も域内にめぐらせたい。

でも、昔の古民家暮らしを毎日はちょっときついので、自然の原理原則を活かしながら、雪国の寒い冬も暑い夏も快適に住まえるエコハウスに。

4.新陳代謝のある住まい

住まう人たちも、住宅というハード自体も、生き物のように変化し続ける。田舎=一生骨を埋める覚悟だけじゃなく、引っ越す人がいても、新たに住む人がいてもいい。もちろん一生住むこともできる。

敷地も山も余白だらけ。最初から完璧に設計されきっておらず、そのうち敷地内にサウナや茶室が増設されたり、隣の土地に新たな集落が生まれたりしても楽しそうだ。住まい手や家族構成の変化によって住宅の内装を自ら変えられたり、たとえ、将来住まなくなったとしても、解体した材を次代につなげていったり。

でも、人生何があるかわからないので、住宅ローンに制約されず、コミュニティの中でバトンタッチもできる柔軟さがある仕組みも発明したい。

「ネオ集落」をつくる


(イメージパース)

こんな妄想を形にしてみるべく、地域内外の仲間たちとともに、“実験村”みたいな場をつくってみようと思う。秋田の遊休地に、「地域資源×デジタル×コミュニティ」によるリアルな集落を、今年建設していく予定だ。

一言でいうと、「ネオ集落」。

ハード面では、デジタルファブリケーションをはじめとする民主化されたテクノロジーを取り入れていく。デジタル建築集団「VUILD」さんとがっつり一緒に、地域の最高のプレイヤー達も巻き込みながらつくっている。

秋田の茅葺の民家や中門造り住宅をデジタルで再解釈したら、どんな風景が生まれていくだろうか。もしかしたら世界初?の「デジファブ集落」となるかもしれない。(期せずして、人生ではじめて買った家は「茅葺古民家」、はじめて建てる家は「デジタル民家」、となりそうだ)

ソフト面では、「Share Village」のコミュニティプラットフォームを使い倒す。様々な住まい方をするコミュニティメンバーの募集や決済、コミュニティコインによる利用権の発行や感謝のめぐりあいを下支えしていく。

Share Village: https://sharevillage.co/

また、住宅や土地の所有と利用のあり方をもう少しなめらかにしてみるべく、個人単位での所有や住宅ローンとは異なる“コモンズ化”の仕組みも試してみる。

キーワードは「集落LLC」。

さて。色々小難しいことを書いてみたものの、ど真ん中にしたいのは、何よりも「楽しく暮らしたい!!!」ということ。

より具体的な全貌や、つくっていく過程は、このNoteでも徐々にアウトプットしていこうと思う。興味のある方はぜひ絡んでいただけたら嬉しい。参加型で建設していく場面も色々と出てくると思うので、屈強な身体も大歓迎(笑)


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