おいしいBBQの科学 その2〜水を閉じ込める3つの技術〜
こんにちは。BBQ研究家の岩井です。
前回の投稿『おいしいBBQの科学 その1〜食材の80%は水分〜』でお伝えした通り、食材に含まれる「水」は、人がおいしいと感じる重要な要素であることは理解していただけたと思います。
では、食材から水を逃さないためにはどうしたらいいのでしょうか?
今回の投稿『おいしいBBQの科学 その2〜水を閉じ込める3つの技術』では、水を閉じ込める具体的な方法を綴っていきます。
3つの技術というのは「1.切り方」「2.ひと手間」「3.焼き方」です。
1.切り方〜切る向きと順番を変える〜
人が口にする食材(動植物)は、細胞の集合体です。これには、例外なく繊維(筋)が存在します。
植物は、地中から水や栄養分を吸い上げ、葉で光合成したエネルギーを全体に行き渡らせるための通路が張り巡らされています。根から葉先にかけて広がる無数の通路です。※1
動物は、血管、リンパ、神経などの循環器が体の隅々まで張り巡らされています。また、体を動かすために無数の筋肉が骨や腱に繋がっています。※2
例えば、大根、ピーマン、セロリをまな板の上に横に置いたとき繊維(筋)は左右に通っています。お肉のロースを一本切り出すと、多くの繊維(筋繊維)は、長い方向に向かって通っています。
この繊維(筋)に対して、垂直に包丁を入れると、繊維を多く傷つけるので、その中にとどまっていた水分や栄養素が調理の過程で流れ出します。
この繊維(筋)に沿って、水平に包丁を入れると繊維を傷つける箇所が少なくなり、水分や栄養素をその中に留めておきやすくなります。
しかし、スーパーで売っているお肉や野菜は、売りやすいように、また見た目を同じにするために繊維に対して垂直に包丁を入れて、繊維を断絶するように切られています。
お肉も野菜もなるべく切られていない丸のままで購入しましょう。
例えば、玉ねぎ、長ネギなどは根や外皮を剥がさずそのまま、トウモロコシは葉で包まれたまま焼いたほうが美味しく食べ流ことができます。
2.ひと手間〜食材の活かし方〜
前回『おいしいBBQの科学 その1〜食材の80%は水分〜』の話で、体積の大きな食材(塊肉やカボチャ)は、火を通すのに時間がかかるとお話ししました。
時間がかかると、それだけ水分が抜けてパサつき、焦げやすくもなります。そこで、焦がさずに火を通すコツや道具を紹介します。
2-1.戻し、焼き、休ませ
2-2.オイルコーティング
2-3.間接加熱(インダイレクト)
2-4.炎を出さないグリル(酸素欠乏)
一つずつ紹介します。
2-1.戻し、焼き、休ませ
焼くという行為は、食材の温度を上げることです。冷蔵庫や氷の入ったクーラーボックスから出したばかりの食材は、5〜10℃程度と冷えた状態です。
これを外側だけでなく食材の中心が65℃以上になるまで温めるには、最低でも55℃の熱を加えなければなりません。
この55℃の熱を加えるために長時間火にかけると、水分が飛んでしまいます。だから、焼き始めの温度を上げるため冷蔵庫から出して常温(20℃前後)に戻すのです。これだけで、加熱は45℃でよくなります。
また、焼いている途中や焼き上がる直前くらいに火から遠ざけて休ませます。この休ませている間に食材の表面近くで加熱された水分が食材の中で動き回り、徐々に中心部分を温めてくれます。※3
常温に戻し→焼き→火から離して休ませることで、食材の芯まで焦がさず、水分を逃さずに加熱することができるのです。
2-2.オイルコーティング
食材の表面をオリーブオイルや油分の多い食材(豚バラ肉や網脂)等でコーティングしてしまう方法です。
オイルコーティングすることで、炎や熱が食材に直接当たらず緩衝材として働くため焦げ辛くなります。また、水と油の相性から食材の中に閉じ込められている水分が外に逃げないようにブロックしてくれます。
水の沸点は100℃ですが、油は100℃を超えても気化しないため高温の炎や熱から食材を守ってくれます。※4
2-3.間接加熱(インダイレクト)
ダッチオーブンやアルミホイルを緩衝材として利用する方法です。
芋や玉ねぎなどの根菜類を切らずに焼くのはかなり難しいです。しかし、洗って濡れた状態の食材をアルミホイルに包んで炭火の側に置くいておくと、ホクホクに焼き上がりますよね。ダッチオーブンも扱いは同様です。
食材が炭火や炎の熱に直接触れないため焦げにくく、ダッチオーブン・アルミホイルと食材の間にある空間に100度 ℃に達して蒸気になった水が立ち込めるので蒸し焼きになります。
これで瑞々しさを保ったまま火を通すことができます。
2-4.炎を出さないグリル(酸素欠乏)
日本は、農耕と漁業を中心に穀物、野菜、魚介を主食にしてきました。肉よりも魚介を多く食べてきたため、魚介を使った料理や調理方法が発達しています。BBQも魚介を焼くため、干物やイカを炙ったり、サザエやハマグリを焼くのに適した七輪タイプ(炭の上に網)が主流でした。
一方、牧畜で肉類、麦や芋を主食にしてきたアメリカやオーストラリアでは、ぶ厚いお肉を焼くのに適したオーブンタイプが主流です。
このオーブンタイプのグリルは蓋をすることができるため食材全体をムラなく全方位で加熱することができます。
また、蓋をすることでグリル内の酸素が少なくなり、食材から滴る油が炭火に滴れても炎があがらず、焦げにくい点です。
上下左右から加熱できるので水分を閉じ込めたまま短時間で焼き上げることができます。
3.焼き方〜燃料の特徴とポジション〜
今現在のBBQの熱源は炭とガスが主流でしですが、日本とアメリカ/オーストラリアでは事情が異なります。
今、日本のBBQで使用される燃料は8割が炭です。
一方、アメリカやオーストラリアは、8割がガスと言われています。
日本人には、炭火信仰とも言うべき価値観が根強く「備長炭で焼いたら特別おいしい!」という感覚があります。
でも、これって本当ですか?
ここで炭とガスそれぞれの特徴と扱い方を紹介します。
3-1.炭は遠赤外線で中まで素早く
炭の一番の特徴は、遠赤外線です。熱が食材の表面ではなく、中の方まで届きます。※5
火加減が難しいので分厚いお肉を焼くには技術や経験が必要になりますが、薄いお肉やすぐに焼けるようなものなら経験を問わないでしょう。
また、炭特有の香りが付くので、ホルモン焼きや焼き鳥店では炭を使うことが多いです。
3-2.ガスは無臭でみずみずしい
水分という切り口では、ガスの方がおいしさに貢献してくれます。
注目する点は、燃焼した後に何が発生するかです。炭を燃やすと二酸化炭素のみ、ガスを燃焼させると、二酸化炭素と水が発生します。※6.7
ガスで焼くと、蒸し焼きとまではいきませんが、食材を加熱することで失われがちな水分を燃焼過程で追加してくれます。
食材そのものの味を楽しむには、炭の香りやスモークがかからないガスの方が適しています。こういった違いから高級焼肉店は、ガスを使うことが多いです。また、火加減が容易なので焦げたり焼きすぎたりしにくいという特徴もあります。
3-3.熱源と食材のポジション
焼き方と言っても、そのスタイルはグリルの形状や調理器具に合わせて多様に存在します。ここで紹介するのは、焦がさないためのコツです。
ズバリ、火の真上で焼かない!です。
Weber社(BBQグリルメーカー)のHPにも記載している、間接調理の絵を見てください。熱源が食材の斜め下にあります。脂が滴り落ちて炎が上がることもないし時間をかけてゆっくり加熱することができます。
また、玉ねぎや芋をホイルに包んで、炭火の横に置いて焼くというのも同様の間接調理です。
4.BBQ研究家からの提案 !!
色々と紹介してきましたが、私のオススメは「オイルコーティング」と「切ってから焼くのではなく、焼いてから切る」という順番を変える方法です。
口に運ぶ食材の大きさは同じなのに、美味しさには大きな差が現れます。
それは、調理の順番を変え油でコーティングすることで、水分と栄養素が食材に残るためです!
ただそれだけです。
切らずに丸焼きすることで、食材本来の味が楽しめますが、塊で焼くためにはちょっとしたコツや器具が必要だったりします。ここで紹介したノウハウを活用しながら、調理器具(ダッチオーブンやカバーグリルなど)や調理方法にこだわって色々とチャレンジしてみてください。
今回紹介した内容は、いずれ『おいしいBBQの科学〜実践編〜』というBBQレクチャーのイベントレポートとして投稿したいと思っています。分かりやすく動画撮影もしたいと思いますので楽しみにしていてください。
そして次回からは、『楽しいBBQの心理学』について、シリーズで投稿していきます。(BBQ研究はこっちがメイン!!)
「楽しくておいしい BBQ?つまらなくてまずいBBQ?」
にも書きましたが、ぶっちゃけBBQは楽しければそんなに美味しくなくてもいいと私は考えています。
一定程度のおいしさを保てたら、いかにして楽しいBBQにするか?ということを一緒に考えましょう!
〜APPENDIX〜
※1: 植物細胞
植物は1つ1つの細胞が細胞壁に守られその形状を保っています。細胞は葉、茎、果実、種子、根などに様々な物質を液体(水分)に載せて流通させるために筒状になっておりいます。
※2: 動物細胞
動物は1つ1つの細胞が細胞膜に守られております。細胞は血管、リンパ菅、神経や筋肉は、様々な物質(酸素、二酸化炭素、栄養素、毒素、ホルモンなど)を液体(水分)に乗せて全身に流通させるため筒状の通路として張り巡らされています。
※3: 水の体積変化
水 0℃〜99℃ 100㎥
氷 0℃以下 110㎥ (1.1倍)
水蒸気 100℃以上 170,000㎥ (1,700倍)
※略式で記載
※4: 発火点と引火点
水と違い油には沸点がなく、引火点と発火点があります
引火点:火を近づけると着火する温度(オリーブオイルは約225℃)
発火点:自然着火する温度
※5: 遠赤外線と近赤外線
遠赤外線は、熱の波長が長く、熱源の遠くを温める性質がある
近赤外線は、熱の波長が短く、熱源の近くを温める性質がある
※6: 炭の燃焼化学式
C + O2 → CO2
炭(C)が燃焼すると二酸化炭素(CO2)が発生する
※7: プロパンガスの燃焼化学式
C3H8 + 5O2 → 3CO2 + 4H20
ガス(C3H8)が燃焼すると二酸化炭素(CO2)と水(H2O)が発生する
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