わたしのゲストハウスのつくり方「ゲストハウスをデザインする(ソフト)」
「ゲストハウスのデザインする(ハード)①②」では、ホテルの部屋や水回りなど、ゲストハウスのハード面についてデザインした過程についてお伝えしました。
今回は、Little Japanのコンセプトやゲストハウスをつくるうえで重視したことなど、ソフト面のデザインについてご紹介したいと思います。
コンセプトは「Meet Locals」〜日本を感じられる場所に〜
ゲストハウス「Little Japan」をつくる際に、コンセプトとして「Meet Locals」を掲げました。
「Meet Locals」とは、「地域と世界をつなぐ」という意味です。
わたしの理想は、このゲストハウスを「日本中と世界中から来てくれる旅行者が日本のことを感じられるような場所」にすること。
「Little Japan」という名前にも、そんな願いが込められています。
また、当時はインバウンドが増えており、多くのゲストハウスが「宿泊の90%がインバウンド」という状況でした。
インバウンドとは、外国人観光客が日本に訪れることです。
しかしわたしは、ゲストハウスを日本に来た外国人観光客だけが集まる場所にはしたくありませんでした。
外国人だけでなく、日本人の旅行者にも立ち寄ってもらえる場所にしたいと思っていたのです。
その結果、宿泊客のうち60〜70%は日本人のお客さんに来てもらえるようになりました。
Little Japanでは1階が飲食店になっていますが、これも周囲に住んでいる地元の方が立ち寄りやすいようにという目的で作ったものでした。
これまで、さまざまな地域の魅力を知ってもらうために、飲食店では47都道府県の日本酒を提供してきました。
現在Little Japanはリニューアルの途中です。
今後は日本酒にとどまらず、日本の郷土料理・地域のB級グルメ・地ビールなど、より多くの地元メニューを展開していきたいと考えています。
今までよりもさらに、日本のいろんな地域を感じられる場所になるはずです。
ゲストハウスとは?を考える
みなさんは「ゲストハウスとは?」と聞かれたとき、どのようなイメージを抱きますか?
「安い宿」「ドミトリーの部屋」などと答える方も多いかもしれません。
確かに、その2つもゲストハウスの大きな要素ですが、わたしにとってはそれだけではなく、ゲストハウスは「交流の場所」だと思っています。
わたしが最初にゲストハウスに出会ったのは、今から十数年前、大学生の夏休みです。
当時のわたしはバックパックを背負って、ドキドキしながら一人で地元の神戸から中国行きの船に乗りこんで、中国と韓国を旅しました。
ゲストハウスに自分で泊まったのはこのときが初めてです。
そして、この旅で出会ったのが「しげさん」という歌うたいの旅人。
しげさんと出会ったのは正確にはゲストハウスだけでなく、移動中の船上です。
しげさんが歌っていた曲の中で、特にお気に入りなのが"Come as a guest, go as a friend"。
Little Japanのもう1つのコンセプトでもあります。
「来たときにはゲストでも、帰るときには友達」という意味です。
まさにゲストハウスを表す言葉だと思います。
一般的なホテルに宿泊しても、スタッフや隣の部屋の人と仲良くなることはほとんどありません。
しかし、ゲストハウスに泊まると、スタッフや他の宿泊者と自然に友達になることがあります。
一緒に観光に行ったり、別れてからも連絡を取り合ったり、お互いの住んでいるところへ遊びに行ったりと、その後も交流が続くことも多いでしょう。
ゲストハウスは、国籍も人種も年齢もセクシャリティも社会的な地位も、みんなバラバラの人たちが一つ屋根の空間にごちゃ混ぜに集まって、友達になれる空間です。
ビジネスでの出会いとは違い、ゲストハウスでは上下関係が生まれずフラットな関係で付き合えます。
それがゲストハウスの大きな魅力だと思っています。
わたしにとって、「交流」を大事にする場所がゲストハウスです。
ドミトリーで寝泊まりし、共有部で交流する一般的なスタイルはもちろん、個室・水回り付きといったスタイルでも、交流があるならゲストハウスと呼べるでしょう。
「安い」は悪いことか?
ゲストハウスの運営者の中には、「安いですね」と言われることを嫌がる方がいらっしゃいます。
わたしとしては、適正価格の範囲内であれば、サービスに対して「安い」と思ってもらえるのはいいことだと思っています。
もともとゲストハウスは、世界を長旅するバックパッカーの「できるだけ安く長期間泊まりたい」というニーズに応えて誕生した旅人向けの宿泊施設です。
そのうち、だんだん高級化・おしゃれ化が進み、ゲストハウスの大衆化が進みました。
しかし、長く旅を続けている人にとっては、設備よりも「安く泊まれるか」という点が重要です。
五条ゲストハウスで働いていたときのオーナー・エイジさんが言っていた言葉の中で、すごく覚えているものがあります。
それは、「みちおちゃん、俺はお客さんに安く泊まってもらいたいんや」という言葉。
「だってな、長く旅するときとかさ、そんな高かったら嫌やん。困るやん。お金ない人もいるんやし。自分が泊まるときだってそうやろ?だから、俺は綺麗にするよりも、安くしたいねん」
みたいな感じのことを、いつも酔っ払って語ってました。
実際にわたしも、長期で旅をしているときは安く泊まれる場所を探していました。
おしゃれなゲストハウスもいいけれど、そういったニーズに応えるゲストハウスも必要だと思います。
設備を良くしたり付加価値をつけたりと、何でもかんでも値段を高くする意味はありません。
必要最低限のサービスを行ったうえで、「安い」を求める人のニーズに応えることも大切です。
コロナで変わったこと
コロナ禍で最も影響を受けた業界の1つが「ホテル・旅行業界」ではないでしょうか。
ゲストハウスの宿泊のうち大部分を占めていた外国人観光客だけでなく、国内の旅行者も激減してしまい、多くのゲストハウスが苦境に立たされました。
Little Japanもコロナ禍によって大きな影響を受け、一時は強い危機感を覚えました。
まずは経営を安定させることを最優先として、ゲストハウスを「長期宿泊中心のシェアハウスのような運用をする」という方針に大きく方向転換。
そのために設備に修繕を加えるなど、ハード面でもさまざまな変化を要しました。
また、会員制度を設けるなど「同じ人に何度も来てもらう」ことを意識した取り組みを行いました。
コロナ禍で世の中が大きく変化した今、ゲストハウスづくりにおいてはリピーター率を大切にすることが重要なのではないかと思います。
ここまでコロナ禍の影響について話してきましたが、実はリピーターを増やすための取り組みはコロナ禍以前から行っています。
それが2018年から開始した「ホステルパス」というサービスです。
https://hostellife.jp/
ホステルパスは、月額料金を支払うことで日本中の宿に泊ったり住んだりすることができる日本初の宿のサブスクリプションサービス。
コロナ禍以前からゲストハウス業界の競争が激化していたことを受けて、新たに始めていました。
ホステルパスについては、別の記事でもお伝えしたいと思います。
まとめ
今回は、ソフト面でゲストハウスをデザインしたときに考えたことや、自分のこだわりについてお伝えしました。
わたしにとって、ゲストハウスとは出会いの場所であり、交流が生まれる場所です。
そして、Little Japanのコンセプトの1つである「来たときにはゲストでも、帰るときには友達」という考え方は、わたしが初めて海外へ旅をしたときに出会った歌うたい・しげさんに教えてもらったものです。
ゲストハウスとはどのような場所か?
どのようなゲストハウスをつくりたいのか?
ソフト面をデザインするうえで、これらのことを考えていくことが大切だと思っています。