シェアハウスでポジティブな空気をつくるための、上手なしくみ
コロナ禍の中で、再認識されたもの。
それは、「ファーストプレイス」の繋がりではないでしょうか。
DMM英会話が行なった調査によると、コロナ禍の影響で約6割が人との会話が減ったと回答。ストレス増大・笑い減少・情報が入ってこなくなった等の弊害も招いています。身近な人と会話ができる日常・安心感が、これまで以上に注目されたと言えるでしょう。そんな中、家族ともまた異なる「シェアハウス」の役割が、今後も一層脚光を浴びそうです。
ただ、華やかなイメージもある一方で、見知らぬ他の人と共同生活をするのは、課題やストレスも付きまといます。「住まい」のコミュニティは、どう充実させていけばいいのでしょうか。
大学を卒業してから15年間。シェアハウス運営に身を注いできた平岡雅史さん(絆家シェアハウス・代表)から学んでいきます。
まずは: 今、シェアハウスの役割とは
絆家シェアハウス 代表
平岡雅史(ひらおか まさし)さん
1982年岐阜県生まれ。シェアハウス歴は13年。大学卒業後、インテリア雑貨メーカーで勤務の傍ら、副業でイベントカフェを立ち上げる。年間100企画、5年間でのべ500企画のイベントを行う中でコミュニティ作りを人生の柱にしようと独立を決める。2011年3月震災の月にインテリア雑貨メーカーを退職、同年4月より「絆家」ブランドとしてシェアハウス事業をスタートする。
現在は、東京、大阪、千葉、神奈川に11棟300人規模で「第二の家族を作る」をテーマにコンセプトシェアハウスを展開。2019年6月に、柏で千葉県最大規模の100人シェアハウス「#HASH196」をオープンする。自身も多世代多国籍の中での子育てをしたいと、妻と2歳の息子と共に柏のシェアハウスでシェアする暮らしを楽しんでいる。
「シェアハウス」に対する思いをお聞かせいただけますか。
今までの住まいの選び方は、「どこにいくらで住めるか」が起点でした。立地や価格、築年数や間取りなどを気にしていたと思います。
しかし、絆家シェアハウスの理念として。これからは「誰と出会い、どんな体験ができるか」が基軸になると捉えています。体験の深さや、学びのある環境。人間関係の広がりなど。
単に部屋を貸すという思いではなく、住んだ人がどういう出会いによって、自分のやりたいことを達成できるか。特にコロナ禍...授業や仕事がオンラインになり、誰とも会わない日が24時間続くような人もおられる中で。そんな方を応援していくような環境づくりを目指しています。
それもあって絆家シェアハウスでは、「体験型コンセプト」を軸にしています。
「お茶と暮らす」をテーマに、元旅館をイノベーションした中、抹茶ワークショップをしたり、世界のお茶が贈られるサブスクを行ったり。
「本とコーヒー」をテーマに、入居者とオリジナルブレンドをプロデュースしたり、ライブラリーに棚いっぱいの本を置いたり、1日カフェイベントをしたり。
(東京・千葉・大阪などを拠点に11棟運営しているため、ご興味のある方はホームページにて詳細をご覧ください!)
■リビングに自然と集まるのは全体の3割
シェアハウス運営は、どのくらいの規模のコミュニティだとしやすいでしょうか。
絆家シェアハウスでは、15人を目安にしています。というのは、同時にリビングで自然と集まる人は、だいたい全体の三割。夜早めの人もいれば、深夜が中心の人もいて。時間帯によって異なりますが、リビングの集まり具合は平均してその規模です。
100人だと30人、50人だと15人。15人でようやく4~5人になるため、「コミュニティ感」を設計するには、その人数が必要になると考えています。
逆に一軒家で6人だと、平均1~2人になり。そうすると、コミュニティにはなかなかなりづらく。絆家としてのブランドを大切にし、期待する人にも応えるため、ギャップ感を生まないように規模感を意識しています。
■ハウスの「文化づくり」
ルールづくりの面でうまく行かなかったり、誰かに負担が偏ってしまうこともシェアハウスにはありがちです。ソフトのしくみを、どう工夫されているでしょうか。
まずは、文化づくりを大切にしています。
文化とは、「これが当たり前だよね」という空気感のこと。
絆家が大切にしているのは、
1.) 一緒に食卓を囲む文化
2.) 誰かがチャレンジすることを応援する文化
3.) クリーンネス(清潔さ)の文化
などがあります。
例えば、汚したものは自分たちで掃除するとか。ゴミ捨ては協力してやる。シャワーの後に髪の毛を取るのは当たり前だよね、とか。何を大切にするかの文化が育っていないと、ルールで言っても聞かない人は聞かないため。
ひとりは先導する人が必要で。その人を起点に「こういう暮らし方が心地いいよね」という文化=空気感を、まずは2割くらいの人に伝播させていって、「当たり前」の芽を吹かせる。そこからさらに6割へと伝わる。その8割で固まれば、残りの2割の人は気にならなくなる。そんな2割6割の法則を意識しています。
■ソフトな3つのしくみ
では、そんな文化をつくるために。シェアハウスにとってポジティブなことをしてくれる人を応援するため、3つのしくみを設けています。
① :「ごはんポイント」
5人以上でご飯会が開催されると、300ポイント溜まる、というように。そのポイントを使って(1pt=1円)、BBQセットやテントグッズとか、ちょっといいジューサーとかコーヒー豆のグラインダーなどをカタログで買えるようにしたり。というのは、「ごはん会を私ばっかりやっている」という負担感を感じる人が一定数いるんじゃないかと。誰かがごはんを作るのが、シェアハウスにとって「善いこと」として、しっかりと肯定して認める意味を込めています。
② :「部活制度」
部活を3回活動させると、3,000ポイント支給されるような仕組みです。よくあるのが、「フットサルやりたい」とか「ボードゲーム会やろう」となっても、ある程度システムに落とさないと、だいたい2回ぐらいで終わったりして。途中でめんどうくさくなったり、人が集まらなくて自信をなくしてしまったり。なので、「3回はやってみる」意識にフォーカスさせよう、と。また月に一回はシェアハウス内のブログで発信させることで、部費を支給させたり。クローズドで終わらせず、新しい人でも入りやすい空気感をつくることで、初期メンバーが飽きてきても続けられるように目指しています。
③ :「学び場」
人が増えると、スキルを持っている人がいろいろいたりして。動画編集できるとか、自信ができるメイクアップの仕方とか、占いとかカラー診断、ヨガだったり。趣味の延長でやっている人がたくさんいる一方で、披露できる場が普段なかなかなかったり。将来的には仕事でやりたい、という方のためにも、小さな成功体験を積ませる機会として設けています。講師になったらAmazonポイントを貰えるとか。お金のためというよりも、「ちょっとやってみようかな」と思わせるしかけを用意しておくことで、自主的なイベント開催を促せる役割も持っています。
■「コミュニティマネージャーを廃止」という実験
自主性の話でいうと、コミュニティマネージャーを廃止しています。みんなが主体的なコミュニティに発展していくのではと見込んだ、新しい実験の途中でして。もちろん、最初の立ち上げ期...新しいハウスでは「文化」を初めに伝える人が必要でした。ルールでも伝わらないし、しくみでも伝えにくい。初期の空気感づくりは大切です。
ただ、2~3年も経つと。「この人がコミュマネなんです」と紹介すると、リーダーみたいに感じられて。ハウスのことは全てその人に相談したらいいんだろうな、となってしまう。家電製品が壊れて修繕してほしいとか、あそこの住民同士が仲悪くてどうしたらいいか、とか。できる人だと、そういう相談事もある程度さばけたりして、結果「全部やる人」に。みんなコミュマネの指示を待つ、という空気感になってしまい、本業でもない方への負担が強くなってしまうことも。
なので、一度文化が育ってきたハウスでは、コミュマネを廃止しています。窓口は全てオンラインにしたり。壊れたものの修繕は、LINEのフォームに送って機械的に対応したり。役割分担なども行っています。
■不満を抱えている人を、認めてあげる場を用意
「負担」というお話で。「マイナス」の感情を抱く住民さんが生まれてしまったとき、どのようなアプローチを取られていますか。
不定期で数ヶ月に1回くらい、なんでも思ったことを伝える場として家族会議をやっています。「今の場所での暮らしをこう感じている」とか、「外の人がたくさん来すぎて疲れちゃったな」とか。ただ主観で話してもらえるように。内面の思いを伝える場があると、他の人もそれを聞いて自然とうまく振る舞えるようになったり。
家族会議とは、何かを解決する場所ではなくて。今感じて溜まっているものを外に出させ、理解してくれる人がいるのだと思ってもらうことに価値があります。誰にも不満を伝えられず、聞いてもらえる人もいない。それが問題の芽になります。
■ゆっくりできる場所と、わいわいできる場所が必要
ソフト面に合わせて、ハード面はどうでしょう。例えば、共用スペースに対するこだわりはありますか。
まず規模として、人数分✖️1畳分はとるようにしています。15人なら最低15畳分ですね。確保できないところは個室を潰してその部分を作ったりとか。お祝いごとをしたいとき、場所が足りなくて集まれない、ということはないようにしたいと思っています。
また、共用スペースの区切り方として。「ゆっくりする場」と「わいわいできる場所」の二つは、小さくても必ず作ろうとしています。メインのリビングと、ライブラリースペースといった具合ですね。さらにもう一つできれば、「静かにはたらく場」のワーキングスペースも。最近は需要も多くて。部屋ではくつろぎたいけど、作業するところは別でしたい、という人も一定多数いるので、できれば確保したいと考えています。
まとめ: 「住まい」のコミュニティづくり
これまでの平岡さんのお話で共通することに、「ナッジ*1」があるといえそうです。「ナッジ」とは、肘でそっと小突くという意味。強制的にではなく、周りの環境をデザインすることで、望ましい行動の実現へとつなげていく。
実際の例としては、
思わず登りたくなる「鍵盤型の階段」で健康促進をしたり、
つい投票したくなる「タバコの吸い殻用のゴミ箱」でポイ捨てを防止したり。
「リビングに集うのは全体の3割」や、「2割6割の法則(文化のつくりかた)」など、人間の行動を数値化して把握する。かつ「ごはんポイント・部活制度・学び場」によって、入居者のやりたいことを、運営者がしくみで応援し実現を加速させていく。
そのうえで、ルールによる「Must」で縛るのではなく、「文化作り」によって、シェア生活で「心地いい」と感じることを自然に習慣として取り入れていき、無理のない暮らしを実現する。そんな、俯瞰した目線から「そっと後押し」していくやり方は、「住まい」に根付いた人のコミュニティを、上手に導いていきそうです。
*1... 2017年、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことがきっかけで広まった考え。行動科学の知見にもとづき、イギリス・アメリカの政治家らに影響を与えた。参考: 「ナッジとは?」環境省。
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【コミュニティラボとは】
リアルとオンラインの仮想のまち「シェア街」における住民たちの活動。
Zoom上で毎週月曜日の21時-22時に開催中。コミュニティの主催者・マネージャーを招いて、実践で得たノウハウを学んでいます。参加者はQ&Aで自由に質問したり、自身の抱えるコミュニティづくりの悩みをぶつけてみることも。
(上記写真は今回のイベント時のものです)
シェア街の住民さんは現在募集中なため、ご興味のある方はお待ちしています!
(そもそもシェア街とは何か?は以下のリンクからどうぞ!)
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