龍宮城スパホテル三日月
○引け目
2024年2月24日、世間のラブライバーの多くは久しぶりのμ'sのイベントやあわしまマリンパークとの別れに行っていたことだろう。Aqoursが出演する超次元音楽祭もあった。
私はそこまでラブライブに入れ込んでる人間ではない。薄情なことだが、どれも行かないことにした。μ'sのトークセッションもマリンパークのお別れ会も、所謂「同窓会」だ。彼女達と同じ時代を駆け抜けたファンこそが行くべきイベントだと感じた。私はラブライブフェス後にラブライバーとなった浅い人間だ。彼女達と同窓とは言えない。私がラブライバーになった頃には、すでにμ'sは闘いの儀を終えて冥界に旅立った伝説となっていたし、Aqoursはいちアニメのために作られたグループとは思えない超人的なパフォーマー集団となっていた。伝説となったμ'sの輝きはどれほどのものだったのか。Aqoursは伝説を継ぐ者として重圧といかに戦ったのか。私は知らない。
もっと早く追っていれば良かった。そういう引け目が心にまとわりついていた。μ'sやAqoursと「同窓」になれなかった引け目。この日は敢えてラブライブとは距離を取ろうと思い、駅で休日おでかけパスを購入して電車に飛び乗った。旅に出よう。少しだけ遠くへ。そしてデカい風呂にでも入ろう。心にまとわりついた薄黒い気持ちを洗い流すために。
○木更津へ
電車内で温泉の情報を調べていると木更津の方にいい感じのデカい風呂があるようだ。ここへ行こう。品川で君津行きの快速に乗り換えた。
龍宮城スパホテル三日月、到着するとまず建物の巨大さに驚いた。バブリーだ。館内に入ると再び驚かされた。そこには同級生の姿があったのだ。
彼女は中川…じゃない優木せつ菜。学校は違うが、μ'sやAqoursと同じくスクールアイドルとして活動している。今日は仲間たちと一緒にここで仕事のお手伝いをしているそうだ。それにしても何という偶然だろう。やはり私と彼女は運命の赤い糸…いや、スカーレットの糸で結ばれているようだ。
なんかグッズも売ってた。
○終わりに
クソデカい風呂に浸かっていると、大浴場にせつ菜の声が響いた。どうやら、館内放送を手伝っているようだ。スクールアイドルはそんなことまでできるのか。頑張っているな。
せつ菜の声に耳を傾けながら、風呂の外に広がる夕暮れの海を眺める。東京湾の向こうでは、真っ赤な夕日が富士山を彩っていた。斜陽、そう斜陽だ。私もそれなりに年を食った。もうピークは過ぎて、あとはただ沈みゆくだけの人生なのだろうと思っていた。あの夕日のように。しかし今、私の人生は真っ赤に燃えている。あの夕日のように。
「溢れ出した笑顔は頬を染めてまっかっか
痛みは飛んでった
つらい出来事だってまた前を向ける
私らしく強くなれる気がして」
彼女の歌を聴きながら帰路の電車に乗った。彼女たちに貰った第二の青春。過去ばかり振り返って悔いていては、今を生きるスクールアイドルたちの輝きを見逃してしまう。今のAqoursの挑戦を、虹と星と蓮たちの生き様を。
私の同窓のスクールアイドルたちと今を生きよう。そしていつか、彼女たちの同窓会に参加できたら嬉しいものだ。