SHIT COIN!!
『さぁ、売れ売れ!発行枚数?そんなもんどうとでもなる!気にしないでドンドン売れ!!』
この威勢のいい声の持ち主の男は、この少し前までは人生のどん底にいた。
自身の経営する飲食店が廃業して最愛の女性とも別れ離れになったからだ。
2019年末頃から世界を蔓延させた疫病『COVID-19』も相まって、この男の本業は廃業へと導かれた。
そんな中彼の副業が彼の生活を救う。
彼が2017年頃から投資していたものが、過去に前例のない暴騰を見せたのだ。
『仮想通貨』
今では暗号通貨と呼ばれることが多いが、この時はまだ信頼度も低くて仮想通貨と呼ばれていた。
2017年の歴史的な仮想通貨暴落の後も彼は密かに買い増し続けていた。
そして時は2021年、彼は周囲からの本業の運営を心配する声を尻目に資産を莫大に増やしていた。
話は2017年5月まで遡る。
上野の喫茶店に着いたこの男は、大男達から一人の男が囲まれているのを目撃した。
半グレ風の男達に詰められている田中というその男もまた肌はこんがり焼けて不良風貌の男であった。
その輩達が詰めている勢いや罵声でそうとうな事をしでかしたな。とその場に居た無関係な人達の目にもそう映っていた。
そしてこの場で本田という男を含む不良達が田中に2億円近くの返済をせびっていた。
なんの事情も知らない久保だが、自身の債権回収の仕事を本田に手伝ってもらった事が何回かあることで特に内容も聞かずにこの日は本田のトラブルに付き合う運びとなった。
喫茶店内で怒号が飛び交う中、このままでは埒があかないと思ったのか半グレグループの神田祭屋のメンバー達は田中が身につけている金目のものを引っ剥がす。
しかし、それだけでは返済額には到底及ばずその場の熱量はます一方であった。
そうこうしている内に田中の自宅に行って手元にある財産を全てを奪い取ろうという流れになってしまった。
返済と言えば聞こえはいいが、蚊帳の外の久保からすれば盗賊が身包みを剥いでいるようにしか映らなかった。
きっと周りにいるこの喫茶店の客達にもそう写っていただろう。
過去に債権回収の仕事をしていた経験から久保は
(こりゃ逮捕者何人か出るな。)
と思い、その輪から一線置いた席に腰をかけ見守る。
そしてワンボックスカー2台に10人程の集団で田中の自宅まで向かった。
久保もその場の流れから仕方なく着いていく。
ところでこの田中何をしでかしたかと言うと、とある仮想通貨を集金する窓口になっていて数億集めたところでドロンしてしまったのだ。
つまり、購入者、運営、身内全てを敵に回してしまったのである。
ここまですると田中の命の保障はない。
自業自得といえばそれまでなのだが、流石に目の前で人一人が消えてしまうのは気分が非常に悪い。
上野から30分ほど車で走った場所に田中の住むタワーマンションがあった。
普通ならこんな堅気には見えない男の集団達が入ってくればフロントは怪しがる。
しかし、ここのタワマンは表向きは上流階級向けに宣伝しているのだが実際のところ住んでいる住人の半分が水商売かなんのビジネスをしているのか分からない人間ばかりで、要は金さえ払えば住めるマンションだった。
フロントはこの程度の集団には慣れていて、スムーズに入ることが出来た。
田中が逃げないよう真ん中にしてぎゅうぎゅう詰めで16階のフロアにたどり着いた。
田中の部屋は荒れに荒れていて、一着十万はするであろう靴やブランド服は脱いだままで放置されテーブルの上には吸引用ボングやパケが散乱していた。
最低でも2~3000万はあると思っていた目論見は大外れでどんだけかき集めても現金は200万もない。
口座も調べても全然カネがない。
神田祭屋のメンバー達は仮想通貨とかに交換してどこかに隠してるだろ!と凄んでも、『ない』の一点張り。
次第に熱くなった集団は田中を暴行しだしてしまった。
元々、回収屋をしていた久保は『殴ったら一円も回収できない』という鉄則のルールを知っていたが自身の債権ではないので静観している。
仕方なくブランド品や時計をかき集めて、質屋に持って行き全員で分配したのだが、回収できた金額は10%にもならない。
その後解放された田中に対し本田は
「お前には詐欺の才能がある。お前のことは俺が守ってやるから俺への5000万は俺の持っている顧客情報で集めてこい」と話をして、後日喫茶店で会う事になった。
そしてその場で話したプロジェクトこそ、その時流行り出していたICO(新規通貨公開)で、この直後にICOプロジェクトが始まることになった。
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